◇そして、私はスキルを修得してみる。
「えっとぉ……何これ?」
ウィンドウには、スキル一覧表が表示されている。表示されているのは12個のスキル。
【水魔法30】【風魔法30】【土魔法30】【光魔法40】【闇魔法40】【剣術20】【槍術20】【体術20】【身体強化50】【鑑定50】【測量20】【アイテムボックス80】
まさか、この中から選べと? どうやら、そのまさかのようでした。
ポイントを消費して技能が貰えるとか、それって、人としてどうなの?
そんな事で技能が身に付くなら、誰も苦労して努力なんかしなくなるわよ。て、思いつつも、私は選ぶけどね。
うぅん、どれにしようかしら。やっぱり、魔法かしらね。魔女っ娘ユウコとか、ちょっと憧れたりするわけで……。
あっ、でも、前に勇吾が、こういったVRMMO系のゲームだと、序盤に鑑定は必須だとか言ってたような。
――むむむ、悩ましいわね。
でも、ここは真面目に選択しないと。なんといっても選択次第では、私の命すら掛かってるのだから。となると、勇吾の言ってた事を信じて鑑定を選ぶのが良いのかな。もしかしたら、鑑定があれば、見えない私のステータスも、見えるようになるかも知れないしね。
私はウィンドウに手を伸ばし、鑑定の文字をタッチする。
けど……。
――あれ、なんの変化も無いけど。
《ポイント数が不足です》
「へっ、何それ! ちょっと、チュウさん。あんたはさっき、現在、修得可能のスキルって言ったじゃない!」
《ポイント数が不足です》
文句を言っても、チューさんは同じ言葉を繰り返すだけ。
まあ、分かってはいたけど。私が勝手にチューさんと擬人化してるだけで、プログラムみたいに決められた言葉を発してるだけ。私とチューさんとの間に、会話なんて成り立たない。
分かってはいたけど、それでも文句を言いたくなる。
よく見ると、確かに、スキルの横に数字が書かれている。たぶん、この数字が、獲得するために必要なポイント数なのだろう。
本当にもう、言葉が足りないのよ、言葉が。もう少し、ちゃんと説明してくれれば良いのに。
チューさんが、「現在、修得可能のスキル」といったのは、今の私、レベル2で修得できるスキルの事なのだと思う。要はポイントさえあれば、今すぐに修得可能なのだろう。
そうなると、鑑定を獲得するには、50のポイントが必要なのかぁ。魔法のスキルにしても、30のポイントが必要になってくる。
私は現在、20のポイントしかない。本当の意味で、今すぐ修得できる のはというと……。
――あれっ、【火魔法】が無いわね。
今気付いたけど、不思議な事に、火に関する魔法だけが無い。レベルが足りないのかしらね。
という訳で、今すぐ修得できるスキルは、【剣術20】【槍術20】【体術20】【測量20】の4つ。
今の私は一応、刃渡りが40センチぐらいの小剣をもっている。だからといって、まさか魔獣に近接して戦うとか、私には絶対に無理。考えただけで、ぞっとする。
という事で、【剣術】のスキルはパス。【槍術】も、槍自体を持っていないので、考えるだけ無駄。だから、スルーする。
残るは、【体術】と【測量】の2つ。
【体術】は、体のキレが良くなるとか、そんな感じのものかしら? 【測量】は、よく分からないわね。
この2つの、どちらが……それとも、今回は見送って、ポイントをもう少し溜めてから、【鑑定】を修得した方が良いのかしら。
うぅぅん、で……結局、【測量】を選ぶことにした。
溜めるにしても、スキルポイントはレベルを上げるか、クエストを達成するかでポイントが溜まるようだけど、それ以外については良く分からない。てか、ちょっと、ポイントも使ってみたかったしね。
悪い癖で、ポイントがあるとか聞くと、つい、使ってみたくなるのよ、私は。
それに【測量】を修得すると、クエストの「地図を作成してみよう」を達成できるのではと思った。それと、メニューの機能、マップが使えるようになるかも知れないと考えたのだ。
ウィンドウ内にある【測量】の文字を、指先でタッチする。
それと同時にチューさんの声が、また頭の中に響き渡った。
《スキル【測量】を修得しました。クエスト、「スキルポイントを使ってみよう」を達成しました。クエストボーナスが経験値に加算されます。スキルポイント5を獲得しました。称号、『炎帝の愛し子』の成長促進により、獲得スキルポイントが倍化10となりました。新たなクエスト、「スキルをレベルアップさせよう」「スキルを進化させよう」発生しました》
でも私は、チューさんの言葉を録に聞いていなかった。
「あっ……」
思わず声が漏れる。何か妙な感触が、頭の中を過ったからだ。
――なんだろう。
頭の中に、スタンプを押されたみたいな……確かに、私の中に何かが刻まれた事だけは分かった。
けど……それだけ。私のどこかが変わった訳でもなく、変化も何もない。自分のステータスを眺めても、スキルの覧は【※※※】が並ぶだけで、相変わらず読み取れない。しかも、ウィンドウ枠外にあるマップの文字も、暗転したまま使えそうにない。
――もしかして、ポイントを無駄にした?
そんな考えが浮かぶけど、「そんな事はない。何かの役にたつはず」と、頭を振ってその考えを直ぐに打ち消す。
この部屋から出てから、色々と試してみればいいよね。
――後、いま出来る事は……。
新たなクエストも派生したようだけど、それも、今すぐにできるようなクエストでも無さそうだし。後は「従魔に指示を出してみよう」のクエストを、キキに命令して達成できるか試すぐらいかな。
そんな事を考え、キキに目を向ける。と、キキは鍋に入れた水を飲む姿勢のまま、こっくりこっくりと居眠りしている。
――ふふっ、可愛い。
そういえば、ここに来たのは深夜になってからだったわね。今の時間はと……。
ウィンドウの端にあるデジタル表示を眺める。今の時間は夜中の3時を少しまわったところ。
いつもなら、既に寝てる時間だ。だから、時刻を確かめてると、思わず「ふあぁ」と欠伸がでる。
今までは妙な世界に来た事に気が張っていたお陰で、眠気も無かったようだった。けど、ひと休みしてお腹の中に食べ物を入れた為なのか、少し眠くなってきたようだ。
そうね。体を休める事も大事。今日はもう眠ることにして、後は明日にしましょう。
といっても、床にはびっしりと苔が生え、とても横になる気になれない。唯一、寝床になりそうなのは、祭壇の上。
でも……そこも、生け贄にされるみたいで何か嫌。
結局、居眠りするキキを膝に抱え、壁に凭れ掛かった座った姿勢のまま、眠ることになってしまった。
――明日は、ちゃんとした寝床を作ろう。
そんな事を考えてると、すぅと意識が遠ざかっていく。やはり、色々とあって疲れていたのだろう。直ぐにも、私の意識は眠りへと落ちた。
こうして、現実と非現実が混在する奇妙な異世界での、私の初日は終わったのだ。