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私、異世界へ会いに行きます!  作者: 飛狼
第一章 異世界へと誘われ
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◇そして、私は異世界へと転移する。

 目が覚めると、そこは見知らぬ場所……という訳でもなくて、さっきまでいたあの祭壇のある部屋の中にいた。


 ――と、思ったけど……。


 似た部屋だけど、明らかに辺りの様子が違う。


 周りの岩壁が、四角い石をきちんと組み上げた壁に変わっていた。まるで、エジプトのピラミッドの中みたいな感じなのだ。

 まぁ、実際はテレビで見ただけなので、あくまでそんな感じに見えるだけ。


 それに、辺り一面に緑色のこけのようなものがえている。

 そのこけは床にもびっしりと生え、誰かが出入りしたような痕跡こんせきもない。そのため、床はぬるぬるとしていて、気を付けないと、うっかりすべって転びそうだ。

 部屋の中が明るいのも、そのこけから発する光のお陰みたい。


 どう見ても、さっきまでとは違う雰囲気。そうなると、やはり……。


 ――ここは、現実の異世界。


 あの噂、違う世界に行ってしまうという話は本当の事だったのだと、考えてしまう。


 噂が本当だったら良いのにと願っていたけど、いざ実際に自分の身に降り掛かると、何故か「はぁ」とため息がこぼれる。

 よく見ると、吐く息も少し白くかすんでいた。


 ――そういえば、ちょっと寒いかも。


 少し肌寒く感じた私は、両腕で体を抱えるようにして自分の全身を眺める。

 そこには、白っぽいだぶだぶの服が……。


 ――んっ、だぶだぶ?


 あれっ、おかしいんですけど。背が縮んでますよ。

 ゲームに登録する時、プレイ用のアバターを作ったのに、その姿じゃない。

 ううっ、せっかく、身長180センチ越え、スーパーモデル並みのスレンダーな体形にしてたのに。


 でも、現実の私は身長が150センチにも満たないチビッ子女子高生。だから、近所の子供達からは、ちぃ姉ちゃんと呼ばれている。しかも、近所のおじさんおばさん達からも、「あれっ、いつのまに小学校を卒業してたの」とか冗談混じりに言われる始末。

 中には、本気でまだ小学生だと思ってるおじさんなんかもいて、ちょっとショックを受けたりする。

 まぁ、未だに子供料金で乗り物に乗れたりしてお得なんだけど……てか、乗らないし、それは、それでちょっと嫌かも。

 身長については、私の目下のコンプレックスとなり、密かに悩んでたりする。


 今の私は、その本来の私、チビッ子女子高生の姿に戻っていたのだ。

 その姿は、ゲームでの衣服はそのままに中身の人だけが、大人から子供に縮んだような感じになっていた。


 すそめくり、ダブついてる部分をたくし上げてベルトに挟んだりしながら、私は自分の幼児体形をなげく。


 でも、不思議。衣服や装備はゲームの時と同じで、中身だけが本人に戻っている。

 よくよく考えてみると、元の世界にも私は存在してるのよね。

 勇吾がそうだったように、私も眠ったまま昏睡こんすい状態になってるはず。


 では、今ここにいる私は?


 精神、或いは、魂だけがここに来たという事なのかしら。

 でも、そうなると、この体は何?


 分からない事だらけで、疑問は尽きないほど沢山あるけど、今はそんな事を考えても仕方ない。

 確かな事は、自分が望んだ通りに、この異世界に来たという事。


 ――それなら、私のやる事はひとつ。


 勇吾を見付け出し、そのほおを二、三回引っ叩いて連れて帰るのよ。

 おばさんや典ちゃんに心配を掛けて……この私にまで……。

 こんな訳の分からない所に来るなんて、二、三回引っ叩く位ではすまされないわね。ほんとに、もう。


 ――でも、帰れるかしら。


 ううん。今はそんな事を考えちゃ駄目。来れたなら必ず帰れるはず。


 私は首を振って、帰れないかもといった不安を打ち消し、改めて自分の装備を確かめる事にした。

 それは、何かをしてなければ、不安に押しつぶされそうだったから……。




「このグローブもぶかぶかで、ちょっと扱いづらいわね」


 私は手に嵌めている革の手袋を、握り締めたり開いたりしながらその感触を確かめていた。

 私の装備、この革の手袋もそうだけど、着ている衣服も謎の素材で出来ている。

 引っ張ろうが、引っ掻こうが、傷ひとつ付かない。本当に謎だ。


 衣服は触ってみると、すべすべとして金属のようにも感じるけど、素材そのものは柔らかく軽い。着心地は、絹製の衣服を着ているような心地良さ。

 あっ、私はそんな絹の衣服なんか持ってないので、あくまでそんな感じ。


 身に着けてるのは、その謎素材で出来た白っぽい上下のシャツとズボン。それを、革のベルトで締め付け押さえている。

 それに、革の靴と足首から膝までの革の防具? 革の手袋と肩から胸までを覆う革の胸当てを装着している。

 それらが全て、一回りサイズが大きい。けど、調整するためのバンドをぎりぎりと締め付けると、何とか動けそうだ。


 なにか、ぶかぶかでかなり不格好な姿なので、年頃の女子には少々あれだけど、この際、仕方ないと見なかった事にする。


 でも……私は登録時に、噂を確かめようとはやる心を抑えられず、ろくにマニュアルも読まずにここまで来た。だから正直、ゲーム開始時に装備していた物も、良く覚えていない。だから、こんな謎素材の装備だったかなと首をかしげてしまう。


 そして、武器の類いだけど、それは腰のベルトに差している小剣と、背中に背負った和弓の二つ。この二つも、良く分からない謎の素材で出来ていた。


 小剣の方は刃渡りが40センチほどで、鞘から抜くと、蒼白い光を放っている。良く切れそうで、ちょっと怖い。

 普通に生活していた女子高生には、刃物とか持つ機会とかないし。


 料理? 無い無い、今時の女子高生に、料理なんてスキルは無いから。

 まあ、中にはいるかも知れないけど、私はお母さんが作る料理を食べるだけだから。


 もうひとつの和弓の方だけど、これだけは登録時に私が自分で選んだ武装。これでも一応、弓道部に所属してたからね。まだ初心者だけど。


 そしてこの和弓も、良く分からない謎の素材で出来ている。


 弓本体は白銀に輝き、弦も虹色に輝く。美術品みたいに見えるけど、意外としっっかりとした造りになっている。少々叩いても傷ひとつ付かない上に、上部の弓弭ゆはずの部分は、刃物のように先端が尖っていた。


 ――それにしても、武器かぁ……。


 噂通りなら、ここはゲームと似た異世界。

 こういったゲームは、初心者の私でもある程度は分かる。

 この武器を使って、モンスターと戦わないといけないのだろうと。


 また、ため息が出そうになるけど、それを飲み込む。これは私が望んだ事なのだから。


 しかし、そう考えると、和弓を選んだのはちょっと失敗だったかも。


 和弓は、世界で最大の弓とも言われている。

 少しでも動きやすいように半弓を選んだけど、それでも長さは170センチ近くあるのだ。

 私の身長より大きい。背中に背負っていても、床を擦ってしまうほどだ。和弓は威力があるけど、これでは動きが制限されてしまう。

 その上、20本ほどの矢が入った矢筒を抱えなければいけないのだ。


 それに……傍らの床に視線を向けると、リュックが転がっていた。

 この中には多分、日常に使う道具とかが入ってると思う。


 これだけの荷物を抱えて動き回るとか、小さな私には出来そうにもない。


 私が「うぅん」と頭を抱えていると、リュックの中で、何かごそごそと動いてるのが見えた。


「うへぇ、なになにっ!」


 ちょっと怖じ気付きながら、おそるおそるリュックの口を開いてみる。


「うわっ!」


 開けると同時に、何か黒い小さな影が飛び出すと、私の肩や頭の上を跳び回っていた。


「何々、なんなのよぉ!」


 その叫び声に、その影は肩の上で動きを止めて、「キュゥ?」と、可愛らしい鳴き声を上げる。そして、つぶらな瞳を向けてくると、私のほおをぺろりと舐めた。


「うぅ、何この可愛らしい生き物は……」


 それは、手のひらに納まるほどの大きさの小動物。黒い体毛に覆われた体には、所々白い体毛が線となり走る斑模様の生き物。

 リスに似たその生き物は、澄んだ青色の円らな瞳を私に向け、「キュキュウ?」と小首を傾げる。


 ――超、可愛いんですけどぉ!


 肩の上にいるそのリスもどきに、ゆっくりと指先を近付ける。すると、その体をすりすりとこすり付けてきた。


「はぁ、なんだかいやされるぅ」


 突然の色々な出来事で緊張していた体が、この生き物のお陰で解きほぐされて緩んでいくのが分かる。


「あなたはどこから来たのかなぁ」


 伸ばした指先で遊ばせつつ、その生き物に話し掛けていたら唐突に思い出した。


 ――そういえば、登録時に……。


 私はキャラメイクをする時、急いでたこともあり、職業とかはランダムモードで決めていたのだ。

 確か、職業は従魔師だったかな。サブとなる職業は武器に弓を選んだので、自動的に弓師になってたはず。


 メインとなる職業の従魔師は、出会う魔獣を手懐け使役できるとかなんとか……録に読んでいなかったマニュアルを必死に思い出す。

 そうそう、開始時に魔獣が一匹貰えるとか書いてたような。


 ――魔獣?


 私の指先を甘噛みしたりして遊んでる、そのリスもどきを眺める。

 どう見ても、普通のペットぐらいにしか見えない。


 ――まっ、良いかあ。


 可愛いいし、癒されるしね。


「そうなると、名前を決めないと、うぅん……」


 眉を寄せ悩んでる私を見詰めて、「キュゥ?」と鳴いている。


 おぉ、可愛いい。

 駄目駄目、名前を考えないと。

 考えが、違う方向に行こうとするのを引き戻す。


「キュゥと鳴くから、キュキュはちょっと安直かしら。でも呼びやすい方が良いし……そうね、決めたわ。あなたの名前はキキよ」


 最初はきょとんと不思議そうにしていたキキは、私が「どう、気に入った?」と聞くと、途端に宙返りして喜んでいた。


 本当に可愛いわねと、キキを眺めてなごんでいると、何故か、急速に部屋の温度が上昇していくのが感じられた。


「えっ、今度はなに……」


 振り返ると、白い布に覆われたあの祭壇の上に、ぼっと炎が灯る。


 その炎は見る見るうちに、3メートルほどの大きさに成長した。しかも、それは徐々に人の形へと変わっていく。


 そこに現れたのは……炎の巨人?

 それは、上半身は人の形をしているが、腰から下は四足の蜥蜴。首のあるはずの場所から、男性の上半身が生えているのだ。


 半人半蜥蜴のその男性が、揺らめく炎の中からじろりと私を見詰める。

 そして……。


『我は、炎を統べる精霊サラマンダーが王、炎帝グリューエン』


 炎の巨人が、白熱した炎を吐き出しながら、私に話し掛けてきた。


 ――えっとぉ……なに、この男性?


 私は答えることも出来ずに、その炎の巨人を見詰めていた。

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