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mythとtruthの狭間

作者: 州島まりえ

神様へ


神様、見ていますか?きっと、神様のことだからこの世で起こっていることはすべてお見通しで、僕の心境なんてすぐわかってしまうと思うのだけれども、きっと神様は忙しくて、小さな小さな僕のことなんて気にかけて注視しないだろうから、さすがに文書にすれば届くと思って文字にしています。

 文字を打ち込みながら自分の気持ちを整理してみるのだけれども、たぶん結論は変わらず、お願いになるはず。最後の願い事。

 殺してください。神様にとっては人一人殺すなんて簡単にできるはず。突然僕の心臓止まらせてもいいし、天災起こしてもいい。震度3じゃ死なないよ。鹿児島で噴火したって死なないよ。さすがに。誰かに僕を殺させてもいいですけど、その際は、ちょっとだけ僕にも選ばせてください。殺されてもいい人と、ちょっと抵抗のある人とがいる。

 もし、これ以上の僕の願いを聞いてくださるのであれば、神様の手で直接殺してください。神様の手で、僕の首を絞めてほしいです。後ろから。何も話しかけなくていいから、静かに手だけに力を込めて、首を握り続けてください。そのときが来ても、無意識でも、もがかない自信はあります。ふっと意識が消える直前に、一言呟くだろう。「ありがとう」と。

 僕という存在がこの世から消えて、そこに残骸が残ったとき、その残骸を優しく抱きしめてくれたなら。それ以上の幸福はありません。もうそのときには、僕はいないのだけれども。

 ここ数日間、涙をこぼしながら、2人の人に僕を殺してください、って頼み込みました。彼女たちに断らせたのも、今思えば神様だったんだね。委託殺人を罪として問うなんておかしいと思う。人助けしてるのに。制度の問題じゃないけど。神様が僕を生かし続けようとさえ思っていれば、僕は何したって死ねないんだから。

 神様のことを神様だ、って認識したのは割と最近でした。前までは、対等な関係みたいな、「好き」とか「片想い」っていう言葉を使うことにためらいを覚えていたのだけれども、人からヒントもらって、信仰、って言うのが正しいんだって気付いた。考えてもみれば、僕が今生きているのは神様のおかげだし、あのとき無と化した「僕」を創り直したのは神様だったから、神様は神様で、それはごく当たり前のことだったんだと思う。

 どんなことから気付いたかっていうと、神様にとっての僕が、大きければ大きいほど、じゃなくて、小さければ小さいほどいいんだ、って考えてたとこから。神様にとっての僕が、虫けら以下の存在で、それだけ神様の存在が大きくて、そんな大きな神様に僕が依存している、っていうのがよかった。もはや信仰ではないのか、って人から言われて、僕にとって神様がどんな存在なのかを考えてみたら、結論に至ったんです。神様だ、って。

 神様が書いてらした文章に、心の自殺と本当の生き返りの話が書いてありました。神様を認識するまでは、僕は生き返っているのかな、と疑問に思っていましたが、神様に気づいたら、答えはすぐに出てきました。神様なしには生きられない時点でまだ死んでるんだ、って。でも、生き返りたくなんてないです。たぶん、そのためには僕の中で神様を殺さなければいけなくて、なんか、それを神様は望んでるような気もしなくもないんですが、やっぱり僕には神様を殺すことなんてできません。

 考えてみれば、神様が僕のことを見捨てたら、そのときにも僕は死ぬんだと思うんですが、神様から殺されるのは同じでも、できれば神様のご加護のもとでこの命を終えたいな、と思うわけです。

 神様が大きければ大きいほどよくて、だから、僕が食事のお誘いをして、神様の中で他の用事と比較考量なさって、断られるってなんて素敵なことなんだろ、って思ってた。そう思って、お誘いするっていう運びになったわけです。ちょうどその週の末に安田での大会があって、そこで会えるから、と思って、ちょっと数日先延ばしにして。

 うちのサークルと神様のサークルって本当に違って、全然スタッフの動きも違って、話せなかった。午後の部の開始の時にジャッジ対応で歩いてるのが見えて、あ、髪の毛そんな色になさったんだ、とは思ったけど。でも、最後にお会いしてから、もう、だいぶたってたから、やっぱり会いたかったんですよ。何とかして誘おうとして、パンフレット読んで大会の終了時刻予想して、そのころにLINEしました。3月の下旬までお会いできないと聞いて呆然としました。なにか、僕の中の充電が切れかかっていて、誘おう、と思ったんでしょう。あと1ヶ月以上も充電がもつわけはない、と感じ取って、ひとり声をあげて泣きました。断られたら嬉しい、などを言っていた僕を呪いました。なんでもっと前に、充電が切れそうなことを計算して、計画的に誘っておかなかったのか、と後悔は尽きませんでした。

 人に相談したときに、神様には黙っておけ、と言われたんですが、どうせ神様はすべてのことをご存じなので、もう、ご存知だと思いますが、神様に告白してフラれた日も、家に帰ってからずっと泣いてました。泣いて泣いて、気付いたら寝てて、起きた瞬間また泣き出して、通学の電車の中でも、授業はいつもほぼ最前列に座るのですが、そこでも泣いてました。別れるときにはすっきりした、だなどとぬかしておりましたが、ほんの少し時間がたつと、なぜだかどうしようもなく泣けてきて、考えてみたら、神様と二人でいれた時間と、今、ひとりでいる状態とを比較して、あの、奇跡のような時間を思い出して泣いているのだとわかりました。

 お誘いを断られた時も、まあいいか、などと軽い返事をしましたが、画面のこちらでは絶望しておりました。今日この日、神様が日本から出る日になるまで、なんで無理やりでもお願いして会ってもらわなかったのかと何度も僕を責めました。この月曜日に、疲れからか、充電切れが顕著に表れ出して、火曜、水曜とずっと寝込んでて、木曜に、神様って、神は自ら助くる者を救う、そのままで、僕が凹んでたら、もっともっと僕のこと嫌いになって、救いの手を差し伸べてくれない、と気付いたんです。それで少し、生きる気力が湧いて、少し行動してみました。でも、金曜の今日、またダメになりました。

 生きる気力が湧きません。何もする気が起こりません。ディベートの活動も、シーズン通して頑張っていこう、と思っていましたが、それも、神様が目の前で、へぇ、すごいことしてんなあ、でも私はそういう競技は嫌いやわ、って笑って言ってくれることを期待して準備していたので、それがなくなった今、頑張る意味がわかりません。

 神様からもらった命なので、僕が終わらせることなんてできません。どうか殺してください。神様が創りなさったこの命に終わりを創っていください。余命をすべて神様にお返しします。神様にとっても、少しでも気にかけて、面倒を見なければいけない命がひとつ減るのでいいことだと思います。

 本当は、この命、神様のために使いたい、と思っていました。身代わりになって死ぬ、とか。それでせめてもの恩返しが出来たら、なんて夢見て。でも、これ以上生きるのがつらいです。

 僕に向けてお言葉をかけてくだされば、僕は満足するのかな、なんても思ってみました。会って食事してくださればいいのか、なんても。でも、たとえLINEにしても、なんて話しかければいいのかなんてわからないし、変に前みたいに訳の分からないLINE送っても、神様の迷惑になるだけだし、LINEでのお言葉で満足できるかわからない。じゃあ、会ってかっていうと、それはそれでつらくて、何がつらいかって、別れてひとりになった後、その横に神様がいないことに絶望してどうしようもなくつらくなってしまうし、そもそもよく考えてみれば、僕から神様へのメッセージなんてものは、神様が全知である以上、全部筒抜けで、神様から僕へのメッセージは、神様の意向通りに世界は動くのだから、とっくに僕の前に現れていて、って考えると、今更何しようが状況の改善は見込めない、ってことに気づいてしまったのです。

 たぶん神様が僕に救いの手を差し伸べてくだされば、僕は今後も生きられます。でも、僕は、偉大なる神様に、僕ごときのせいでお手を煩わしたくないんです。それに、死んだ命は神様のもとへ帰る。僕は、もし虫になれたならば蚊になって、神様のもとへ行きます。そうすればきっと神様は神様の手で叩きつぶしてくださるから。でも、神様に血は流させたくないから、血を吸いたい、という欲望は抑えたいし、神様のためならそのくらいできる自信はあります。

 こんな感情を創っていらっしゃるのも神様なんだ、と気付いたとき、神様はなんて残酷なんだ、と思いました。でも、神様がなんでこの世に悲しみや寂しさという感情を創ったのかも僕は理解できないし、なぜ神様が神様に熱を出させたのかも理解できないので、きっと、それこそ人智を超えたお考えがあってのことなんだな、と思って納得しました。

 僕が殺してください、と嘆願するのも、神様がなしていることなんですよね。

 神様がいつ神様になったのか、とふと考えてみたら、やはり、8年か前のあの夏の日だったんですよね。正確に何年前かは覚えていませんが。あの日があったから神様は神様になったんだと思うし、であるならば僕が生まれた日も、その日なんだ、って思いました。

 神様が、困っていたときに、僕を呼び出してくださって、本当に嬉しかったです。神様が思考回路に僕を入れてくださった、ってことが、僕の存在を思い出してくださった、ってことが、身に余るほどの光栄で。あのときの連絡が、ちょうど僕が起きた直後で、すぐ反応できてよかった、と思ったけど、神様が僕を起こさせたんだから、ごく当然のことでした。僕が神様から与えてもらったものはこの世界とこの命で、それに見合う恩返しなんて不可能だから、少しでも、ほんの少しでも何か神様の助けになれれば、この命があった甲斐がありました。

 ここ数日、寝るときに、凍死しそうだな、と思うんです。体温の話じゃなくて、体温がいくら温かくても、身体の軸が冷え切ってるように感じるのです。神様がこちらに日差しをさしてくださらないから、命が凍えています。でも、これで翌朝以降目が覚めなかったら、どんなにいいか、って思うんです。知らぬ間に、神様のもとに帰れたらどんなにいいか、って思うんです。きっと、そこはどこよりも温かいことでしょう。

 帰らせてはくださいませんか。神様からのおかえり、の一言は、きっと、今までの苦しみをすべて洗い流して、それでもまだあまりあるものでしょう。その言葉を僕に、聞かせてはくださいませんか。

 誰かを使ってでもよいし、寝てる間に、でもいいです。どうしてもだったら僕にやらせてもいいです。僕の命を終わらせてください。殺してください。

 何も話さなくていいです。ほんとにいいの?じゃあ。その言葉だけかけてくださって。後ろから僕の首を絞めてください。首から神様の手の力を、背中から神様の優しさを感じながら次第に命が僕の身体から神様のもとへ帰っていく。僕にとってこれがどんなに最高な命の終わらせ方かわかりますか。そのときには決して泣かないでください。ひとりの最大の願いが叶ったと思って喜んでください。帰ってくる僕を優しく迎え入れてください。優しく、できそこないの子供を見るような微笑をもって、おかえり、と声をかけてはいただけませんか。

 神様がいい、と言うまで生きているのはとてもつらくなりました。神様への信仰が僕を殺します。神様がいる、ってことを、その神様はずっとは僕一人になんてかまってくれない、ということが、僕一人になんてかまっていたら、それはもう神様じゃない、ってことが究極の悟りだったんだなあ、と今、思います。

 神様に命を創ってもらってから、早くも半年がたちます。そろそろ許してはくださいませんか。世界中でもっとも信心深い信者の願いをかなえてはくださいませんか。お望みとあれば死ぬ前になんでもします。僕のできることであれば。

 あと1か月は神様は首を絞めに来れない、僕は僕の手で神様から授かった命を終わらせたくない、だから、あとは勝手に突然死なせるか、誰か人に殺させるかくらいしかないんです。あと1ヶ月も待っていることはできません。

 どうか、早く殺してください。この世に未練なんて微塵もない。神様が創った世界をけなしてるわけではなくて、神様の創造物よりも、神様のもとにいれた方がそれはよいだろう、と思うから。

 帰らせてください。帰らせてください。そしたら僕は、ただいま、と精一杯の感謝と信仰心を込めて言うでしょう。どうか、殺してください。


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