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青空の夜と、星空の昼  作者: 星野ナイル
第2章 動き出した探偵王女
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第4話 不安げな王女

 わたしは寝室にもどると、あれこれ作戦を練りはじめた。最初に必要な一手は、なにか。その答えは、簡単にはみつからない。わたしはただの女子高校生で、警察でも探偵でもないのだ。でも、もとの世界に……あの日常に帰るためには、わたしの無実と、ユーリの犯行をどうしても証明しなければならなかった。

「……」

 わたしは、黒い硬質の木製テーブルにひじをついて、じっと考えにふけった。ここに来たときからのできごとを、ひとつひとつ振り返ってみる。

「……そっか、あのナイフだわ」

 ユーリにみせられた、血まみれの短剣。わたしは、あれが凶器であることを思い出した。けれど、わたしは黙って、くびを左右にふった。

(ユーリからあれを奪うのは、ムリだわ……だれか協力してくれないと……)

 この世界にひとりぼっちであることが、あらためて痛切に感じられた。日本で家族や友人たちに囲まれていたときのしあわせが、身にしみて分かった。そして、そのしあわせを取りもどすためにも、わたしは気力をふりしぼった。

(凶器がダメなら、ほかになにがあるかしら? ……死体?)

 その考えに、わたしはゾッとした。鏡をみやる。変化の術(ミラージュ)をかけられたわたしとそっくりな、二度ともの言わない女性。想像しただけで、気分が悪くなってきた。人間の死体なんて、リアルではいちども見かけたことがなかった。

 でも、それ以外に、なにがあるだろうか。遺留品? 服はべつに処分したかもしれない。そんなものを、いつまでも保管してるとは思えなかった。むかし、なにかの小説か漫画で、殺人は死体の処分に一番こまると、そう読んだ記憶があった。ほんとうだろう。もしわたしがひとを殺したら……ありえない仮定だけど……死体を隠すのに、一番こまると思う。

(それに、死体が出たら一発で終わりだわ。傷が残ってるでしょうし、ユーリも言い逃れはできない。プロの仕業だとわかれば、すくなくともわたしは容疑者から外れる)

 わたしは、自分にそう言い聞かせた。だけど、不安だった。ユーリとファーラビーが裏で示し合わせたら、わたしなんて簡単におとしいれられてしまうんじゃないだろうか。

「……」

 それでも意を決して、腰をあげた。まずは、自分の……ゼナ王女の、死ぬ前の行動を調べないといけない。どうやって? そこが問題。

 わたしはしばらく迷って、それからとびらを開けた。今朝の侍女と顔をあわせた。

「どうかなさいましたか?」

「ちょっと、話があるんだけど、いいかしら?」

「なんなりと」

 わたしは少女を手招きして、部屋に引き入れた。テーブルに座りなおし、少女にも席を勧めた。けれど、少女はかたくなに断った。失礼だと言うのだ。

「すこし長くなるけど、大丈夫?」

「はい」

「それじゃあ……」

 わたしは、ちょっとばかり焦ったことに気づいた。質問がまとまらない。

「えっと……きのうの午前中、わたしはどこにいたか、おぼえてる?」

「きのう……で、ございますか?」

 少女は、さすがにきょとんとした。質問のしかたがまずかったらしい。

 わたしは、あわてて取り繕おうとしたが、うまい言い訳が思い浮かばなかった。あたふたしていると、少女はくすりと笑った。

「昨日から、ご様子がおかしいかと思えば……許嫁のマリク王子がいらして、そわそわしていらっしゃるのですね」

「ちょ、ちょっとだけね……」

 そう答えたわたしは、ハッとなった。

「昨日から……? いつのこと?」

「朝食でお会いしたときから、いつもと違うところがおありでしたよ」

 おかしい。わたしがこの世界に来たのは……正確な時間は思い出せないけど、舞踏会の数時間前だったように思う。朝食のときにこの少女が出会ったのは、わたしじゃなくて、ほんもののゼナ王女だ。

(朝から様子がおかしかった? ……暗殺に気づいていたとか?)

 わたしは深呼吸して、慎重に話をすすめた。

「わたし、なにか変なことを言ってなかったかしら?」

「いえ……むしろ、口数が減られて……ご気分がすぐれないのかと……」

「そうだったかしら? なにか、怖がってるようなことを言ってなかった?」

 奇怪な質問にもかかわらず、少女は律儀に思い出してくれた。

 やはりこの少女を選んで正解だったと、失礼ながらに思う。

「……とくに、そのようなことは」

 ハズれか。わたしは、質問を変えることにした。

「最後にあなたと会ったのは、何時頃だったかしら?」

「もうしわけありません。時計を持っておりませんので……」

 そうか。わたしは、この世界が細かい時間単位で動いていないことを察した。

「だいたいで、いいわ」

「……お昼をお下げしたときでしょうか……あッ」

 少女は、いきなり声をあげた。わたしは、期待でドキリとした。

「なにか思い出した?」

「ゼナさま、まだ朝食をお済ませになってらっしゃらないのでは?」

 わたしは、がっかりして、思わずため息をついてしまった。

「それは、あとでいいわ」

 そう返したとたん、お腹がぐぅと鳴った。

 わたしは顔を赤くし、少女はくすくすと笑った。

「すぐにお持ちします」

 少女はそう言って、部屋を出て行こうとした。そして、とびらを閉める間際に、こちらを振り返った。たばねた髪を指差して、わたしに笑顔をむけた。

「ゼナさまのプレゼント、ほんとうにぴったりですわ。では、失礼します」

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