言い訳
「おい聞いてくれよ」
「何だどうした俺のプレゼン内容ごっそり盗って行って昇格した上にさっさと転職してちゃっかり次期社長の椅子を任されている内藤君」
「何だよ何だよ、お前まだ根に持ってんのか。いーじゃないか、こうして俺の金で旨い飯食えてんだから。あ、店員さん、僕にドンペリお願いします。ああ、この人には適当な安いワインで」
「帰る」
「まあそう言うなよ。今日はお前にだけしか相談出来ないことを持ってきたんだ。親友はお前しかいないんだ」
「お前、そんな風に思っていてくれたのか。断る」
「おいおい結論がいつにもまして早いぜ。そんな風にはっきりきっぱりなお前だからこそ俺は相談する気になったんだぜ。で、相談って言うのはな、俺の部下のことでなんだが」
「すみません店員さん、いっちばん高いワインを持ってこれるだけ持ってきてください」
「違います店員さん、いっちばん高いワインは僕一人で飲みきれる一本だけにしておいてください」
「飲むのか。ドンペリの次に一本」
「たぶんな。で、俺の部下なんだがな、それはそれは可愛い新卒の新人入社したてなんだ。仕事も一生懸命やってくれてるし、言うことなしだぜ羨ましかろう」
「言うことなしなんだな。帰る」
「待てって、焦るなよ。だがな、その可愛い子ちゃんちょっと問題抱えててな」
「言うことなしじゃないのか」
「スタイルはな。ただ、毎度毎度遅刻し続けてな。遅刻の悪魔っ子なんだ。略して遅刻魔。注意をしたら必死で謝るんだが、いかんせんあの子のスタイルはけしからん」
「懐柔されてないか」
「人聞き悪いこと言うなよ。単に私服出社最高なだけなんだから」
「露出度でも激しいのか」
「でな、流石にもう遅刻が多いからな、心苦しいながらも、面談して理由を詳しく聞いてみることにしたんだ」
「無視か」
「寂しんぼだなぁお前。それで彼女も寂しんぼでなぁ、なんか、一人暮らしだからいつも家が寂しいんだそうだ。その寂しさを紛らわすために、いつも夜遅くまでゲームやってるんだ。健気だなぁ」
「健気だと思うのか」
「でもさ、それでも遅刻するのはだめじゃん? これからの彼女の為に、俺は心を鬼にして注意したんだ。でも彼女、本当は分かってんだよ。遅刻した事実は変わらないし、遅刻は社会人として許されないって。だから彼女、涙を堪えながらも、ただただ謝るんだ。勢いよく腰を折って、俺に頭を深く下げるんだ。彼女のその胸は、きっと痛んでいることだろう」
「露出度高い服でお辞儀したのか。谷間見たとかそんなんだろ。どうせ」
「お前……スケベだなぁ」
「帰る」
「お前の電車賃はすでに俺の手の中だ」
「お前はすでに犯罪者だ。いつ盗った。やっつけてやるさあこい」
「待て待て落ち着けよ。グビグビぷはぁっ。ドンペリうまっ」
「店員さん、100パーセントアルコール持ってきて」
「おいおい100パーセントアルコールじゃなくて100パーセントオレンジジュースにしてくれよ。ドンペリ飽きたから」
「奈落に落としてやろうかあああ」
「歌舞伎の舞台に上がる予定は今のところ無いから大丈夫だよ。気持ちだけ受け取っておく」
「貴様が受け取るのは時限爆弾だ」
「ははははは、全くお前は面白く奴だなぁ! で、話戻すけどな。彼女の、もうしないから許してトークに根負けした俺は、仕方ないから様子を見ることにしたんだ」
「はっ。どうせ遅刻するんだろ。口達者な奴はずるいって相場が決まってる。お前とか」
「お前、初めて俺のこと褒めてくれたのか……!」
「何故喜んだ」
「まあお前に褒められてもどうも思わないけどな。で、彼女のその後なんだが、それはもう頑張ってな」
「最初だけだろ」
「ゲームで夜更かしするんじゃなくて会社でゲームをするようになったんだ」
「今すぐそいつをクビにしろ」
「しかも、最新式で今注目されているゲーム機だ」
「それがどうかしたか」
「いいか。ここが重要なんだ。実はそれはウチの会社で作ったゲーム機なんだ。つまり彼女は遠まわしに我が社に貢献していたんだよ!」
「アホか! 単にしたかっただけだろうが! ああもうイライラする!」
「いやいやそうとも限らんぞ。だって彼女、ゲームし終わったらちゃんとゲーム機の性能云々について直訴してくるし」
「それは……いや、何言ってんだ。仕事中に任された仕事以外は駄目だろ」
「うんにゃ、ちゃんとその時、『わたし、これやってますから』って言いに来たぞ。まあまだ彼女に頼んだ仕事が途中だったけどな」
「駄目だな。お前はもう駄目だ。同情はしてやるからさっさと財布返せ。帰る」
「何だってお前はそう早とちりするんだ。もっと大人になれ。大人としての自覚を持て。社会人やって何年になるんだ」
「お前と同じだよ。だがお前とは違う。絶対違う。断固違う」
「はあ……。もういいや。ほら、ドンペリついでやるからもうちょっと落ち着けって」
「何だ……なんか素直で気持ち悪いぞ。吐きそうだ」
「薬局で買って来たぞほれ」
「ありがとう。ごくごく」
「よし。それじゃ、本題に入るがな」
「もう俺の目の前に姿を現すな」
「そう言うなよ。さっきの話と繋がってるんだから。会社の必要経費で彼女と仲良くなった頃になんだがな」
「会社の金で貢いだのか」
「いずれは俺の金だ。彼女、俺からお前の話聞いて、会ってみたいって言ったんだ。今すぐお前どっか遠い所に行っちまえ」
「うるさい。というかそんなのどうでもいい。そんないい加減な女になんて会いたくねーよ」
「お前に決定権は無い。全ては彼女の為だ。いずれ俺という社長の夫人になる彼女の為だ!」
「ついに下心暴露したな」
「それでだ。鈍いお前はきっと分からんだろうが、なんで今日わざわざお前を店に誘って、ここまで彼女のことについて詳しく話したと思う」
「帰る。お前に恋敵だと思われたらなんか苛つく。というか睨むな」
「お前なんかお前なんか! ドンペリもう一本ください店員さん!」
「飽きたんじゃなかったのか」
「うーるさい! 携帯いじってピポパポパ。うん、うん、こいつに君の話しといたよ。店の窓際にいるから、じゃ!」
「な、お前」
「ちっくしょうなんでお前なんだちっくしょう財布は返してやる! だが彼女と会って真相を知って大人しく帰れると思うならドンペリ持って俺んち来てボコられろ!」
「意味分からん! あとお前本当はドンペリものすごく好きだろ!」
「俺お前なんか知らない! 今日の勘定は割勘だかんな! 俺帰る!」
「子どもか! つか割勘とか最初言ってたことと違う……ちくしょう、どっか行きやがった」
「こんばんは」
「え、あ、あ……こんばんは」
「わたしの話聞きました?」
「え、君、が?」
「そうですよ。あなたの辛口トークは内藤さんに聞いていてとっても興味を引きました。面白そうな人だなって。まあ、彼に貴方の話を聞く前から、わたしは貴方のことを知っていたんですけど。今日会えるまでにとっても苦労しました」
「それは、どういう」
「ふふ。わたし、ある時貴方と内藤さんが歩いているのを見て、貴方を知ったんです。ああ、年下なのに上から目線、とか言わないでくださいね。わたし、悲しくなっちゃいます。せっかくあの内藤さんの気を引いて貴方に会うことができたんですから」
「え……」
「全部、貴方のせいですよ。わたしせっかく苦労して入った会社だったのに、貴方に会いたいがために、とても迷惑をかけてしまった。まあ、夜、眠ることが難しかったのは事実なんですけど」
「あの……それは」
「わたし自身、初めは良く分からなかったんですよ。今までにこの感情があっただろうかって。気付くのは、貴方の姿が見えなくなってからでした」
「……君の話を聞いて、俺、君に対して悪いイメージしかないんだが」
「いいですよ。わたしはただ貴方に会って、じかに言いたかっただけですから。だって貴方はいつもきりきり仕事に打ち込んでいるようだったので、声をかけづらかったんです」
そして彼女は色白の頬を赤く染めて微笑んだ。
「一目惚れしました。好きです。付き合ってください」
――内藤、今度またドンペリ持って行ってやるよ。




