第4話・王女姉妹と従者の娘とダンジョンマスター
今回は視点変更が何回かあります。
今回の内容は次話への布石でもありますが、不愉快な思いをさせてしまうかもしれません。ご報告させていただきます。
4月29日 本文の改稿をしました。
ルルミナ王女とココという従者を引き連れて、ルクレシア王女の待つダンジョンに戻ってきた。おとなしく待ってくれていることを祈りたい。
「ふぃ~、ダンジョンに帰ってくると、なんかホッとするな。ここが家だと思っているからか?」
そんなことを言い、クオンは首を回す。生まれて初めての命がけの戦闘に、慣れない迷宮創造と大きな仕事ばかりだから仕方ない事なのかもしれない。
「ルクレシアお姉様はどちらにいらっしゃるのでしょう?」
ルルミナ王女はすぐにでも姉に会いたいらしい。出てくる前には寝室の方に居たのでそちらの方だろう。
「たぶん寝室の方だろう。こっちだついて来てほしい」
そう言いルルミナ王女を寝室に案内する。ココと言ったか?従者の娘が、殺気を放ってきた。無論無視したのが、気にくわなかったのだろう。ルクレシア王女が言っていたことを知られたら、噛みつかれそうだ。
「ルクレシア王女、ルルミナ王女と従者を連れてきたぞ?」
そう言うと部屋の中から『ドタン!バタン!』と音が聞こえてきた。もしかせずとも、寝ていたのだろうか・・・。疲れていたのだろうが、随分と神経が図太いようで逆に安心した。そのまま憔悴してしまいかねなかったからな。
「お待たせいたしました。どうぞお入りください」
3分ほど待ち、返事が帰ってきたので寝室に入る。ルクレシア王女の顔を見ると、涎が垂れてました。うん。寝ていたのは確定だね。構わないけど。
ゆっくりとルクレシア王女に近づき、ポケットの中のハンカチを出し、口許をぬぐってやる。
顔を赤くして「ありがとうございます」と言っていた。
3人は互いの無事を確認し合っていた。ココという娘はおませなのか、耳年増なのだろうか?頻りにルクレシア王女に俺との関係を聞いている。変なことを言わないでほしい。
ある程度時間が経ち、3人が落ち着いてきた頃を見計らって話しかけた。
「そろそろ話を進めたいのだが、構わないかな?まず3人に対して、こちらの自己紹介から行こうか。
俺はクオン。このダンジョンのマスターになる。1日ほど前にクランドールから、このダンジョンの管理を任された新米マスターだ。間違っても、俺に攻撃をしないでくれ。助けた手前殺すには忍びない」
そんなクオンの言葉に驚きを隠せない3人である。特にルクレシア王女の反応が大きかった。
「次は、私ですね。ルクレシア=ル=ラグズ、奇跡の巫女の姉になります」
「私は、ルルミナ=ル=ラグズ、奇跡の巫女の妹になります。助けていただきありがとうございます」
「私はルルミナ姫様付きの従者、ココと言います。助けていただいたこと、感謝いたします」
一通り自己紹介が終わった。あとはクランドールのことだけだ。
「俺の後ろにいるのは、クランドール。闇と破壊を司る神にして、俺をこの世界に呼んだ張本人だ。今回君たちを救えたのは、クランドールのお陰だ」
そうクオンが紹介したときのクランドールの顔は苦渋に彩られていた。神と言っても、彼女たちの両親を救えなかったことに負い目を感じているのだろう。そこまで深く悩む必要はないというのに。
クランドールのことを紹介したときに、ココの瞳には憎しみが浮かんでいたのに気づかないクオンではない。
「ココ・・と言ったな。まだ子供の君に言っても仕方ないだろうが、神と言っても人と同じだ。寿命と能力以外はほとんど君とかわらない。君がクランドールに文句をつけることも、憎しみを抱くことも許されない。
なぜ?と思うだろう。君は肉は食べるか?魚は?野菜は?君自身だって沢山の”命”の上で”今日”を生きているんだ。違うというなら、今日から飲まず食わずで生活してみるといい。3日くらいで簡単に命は終わる」
クオンの言葉に、ココは悔しそうに俯いた。クランドールの方がもっと悔しかったはずだ。
「”高貴なるものの宿命”だったか?こういっては悪いが、王女たちの父親が国を民を守れなかったことが、第一の原因だろ?なのにそれを、王女たちにぶつけずクランドールにぶつけるのは良くない、そんな君を俺は許すことは出来ない。いくら真の原因を知らないとしても・・・」
その言葉に反応したのは、ルクレシア王女だった。
「どういうことなのですか?」
「ルクレシア王女にルルミナ王女は逃げるとき、敵軍内に一際異彩を放つ存在はなかったか?それが、真の元凶の一欠片だ。王国史に残ってはいないか?数千年前には人類領域と魔族領域が同じくらいだったと。
それが傾いたのは、ある国が偶然産み出した”勇者召喚”という術式が最悪を招いた。
現状それをほとんどの人族国が行っている。ここだけの話ではなく、この世界のあっちこっちで起きている」
クオンはクランドールから教わったことを話す。人族が増長しているのは間違いないだろう。
「では、私たちは滅びるしかないのですか?」
ルルミナ王女の言葉に、クオンは否定の言葉をいう。
「そんなことを許容出来ないから、クランドールは俺をこの世界に呼んだんだ。
人族以外の全滅は世界の終わりも、引き寄せるらしい。だからこそ、現存している魔族側は力を合わせなくてはいけないんだ!君たちだけではない。人族以外が終わるんだ・・・・・・」
「ですが・・私たちはいずれ年老いて死にます」
ルルミナ王女はそう呟いた。ルクレシア王女も頷いている。
「君たち3人には選択肢がある。このままエルフとしての”生”を終えるか、俺と共に悠久の果てしない時間を生き続けるかを・・・・・・」
「ワシが出来るのはこのくらいだ。”不老長寿”全ての命あるものの願い・・それをお主たちに与えよう」
この二人の会話の裏には、念話により随時相談していたことは、二人しか知らない。
「もちろん”不死”ではなく、老化以外での死は普通にある。病死・戦死と色々な穴がある。
君たちが望むなら、共に戦わないか?滅びと・・・」
「無論、彼同様子をなすことは出来るぞ?」とそんなことを言った神にはクオンのお仕置きがあったのはいうまでもないだろう。なぜか姫姉妹の顔が赤かったことは追記しておく。
「さて、変な茶々を入れられたが君たちはこれからどうするのかを話し合ってほしい。
これからの人生を変える選択になるから」
クオンはそう言うと寝室から出て行った。
:ルクレシアside
クオン様が寝室を出て行かれました。私たちに気を使っていただけたのかもしれません。
「お姉様は、どうなさるおつもりです?クオン様のお話のように”エルフ”として生きるのか、”不老となり悠久の時”を生きるのかどうなさるのでしか?」
ルルミナは私にそう問いかけてきました。ですが私の答えはもう決まっています。
「ルルミナとココには悪く思いますが、ルルミナの救出の際に対価として”私の全て”をクオン様に捧げていますので、ルルミナには申し訳ないのですが・・私はクオン様に付いて行きます。」
「私の為に・・・?ですが無理やりと言うわけではないのですよね?」
ルルミナの問いに私は笑顔で頷いた。
「クオン様はあの男とは違います。助けたことに恩を求めるどころか、御自分の無力さを嘆くほどです。私の契約自体、覚えていないかも知れないほどです」
ココが私に質問しました。
「そうでしたら、姫様がその約束を守る必要はないのではありませんか?」
まだ10歳ですが、流石はメイド長の娘です。状況に流されることなく、自身で考えられるとは羨ましい限りです。
「そうですね。あの男の様な方なら、その様な言葉を私自身使わないと思います。クオン様御自身幾度となく『恨んでくれて構わない』と申しておりました」
今までの男性たちは私たち姉妹に対して取り入ろうとしてきていたので、ほんの少しのことでも恩を売り私たちの夫になろうとしてきました。
今は亡き婚約者が、その筆頭でした。本来起こるはずの無いことが起こり、国に大損害を出しかけたりもしました。御父様も御母様も兄様も婚約者のあの男に嫌悪を持っておりました。
運命の悪戯か、最悪なことに王国内で一番強い魔力を持っていたのが、私たちの運の尽きでした。恩を売りつけ、その恩の見返りに私たちを妻にするように王家を強請続けました。しかしそれも過去のこと。
今の私には、心の底から力になりたい御方が現れました。少し御自身を犠牲にしてしまうのが、少し残念ですがあの男と違い、こちらの心境を思う心優さが愛おしく思います。
「ですので、先程の言葉は私たち・・主にココですが、憎しみに捕らわれないようにあの言い方をされたのだと思います」
私の言葉にココは再び俯きました。しかし今回、私たち以外も・・いえ、人族以外の種族が同じ状況に置かれているのを知ったのは僥倖なのでしょうか?クオン様がなにを目指し、何を成すのかきになります。今の私の胸は張り裂けそうなほどドキドキしています。
:ルルミナside
どうやらお姉様は、恋をしてしまったようです。私には分かります。双子だからなのでしょうか?今までも何にしてもそっくりになることが多かったと記憶しています。
「クオン様からは・・何か不思議なオーラを私も感じています。お父様やお兄様とは違う空気を感じます。
お姉様もお気付きでしょうが、クオン様の纏う空気は、少しづつ強く包み込むようになってきている様感じています」
「ルルミナも同じようですね。私も同じ空気を感じています。ただ一つ、クオン様の纏う空気は現状では御父様には及びませんが、成長を始めたばかり・・・そう遠くないうちに御父様を越してしまわれるのではないかと私は思っています。
そして、クオン様のお考えはおそらく御父様では到底出来ない様に感じます」
お姉様と私はやはり似た考えを持っていました。クオン様に付いて行くことにより、御父様と御兄様の計画より多くの人々を幸せに出来るのではないのかと思わせてくれます。御母様もきっと同じことを思ってくれると思います。
現状での心配は、ココになるのでしょうか・・・。ココは母親であるメイド長と同じく、敬虔な信者でした。今回のことに”神”と言われていたクランドール様に対して、かなりお怨みになっていたようです。ですが、この大陸に奉られている神に”クランドール”という名前はありません。この事に関しては特に確認をしないといけません。
:ココside
ルクレシア様もルルミナ様も、あのクオンという男と”神”と名乗ったクランドールに騙されているに違いありません。神が本当に存在するなら、あれほどまで敬虔で神に祈っていた母様が殺されるはずはないはずです。
それにいたとしても、そんな役に立たない神など願い下げです。神など幻想でしかありません。
「ルクレシア様、ルルミナ様あまり信用なさると、いずれ深い裏切りにあいます。神などいるはずがないのです!
あれほど敬虔だった母様が・・裏切られることはないのです!!!」
そうです。神などいない!いたとしても無力で役立たずな存在は不要です。
「ココ・・・クオン様が言われたように・・「そんなことありません!!!!無力な神など消滅いいのです!!!!!」・・・・・・ココ・・・・」
ルクレシア様に悲しそうな顔をさせてしまいましたが、母様がいない以上私が姫様たちを守らなくてはならないのです。私の様に裏切られてから気づいても遅いのですから!
:クオンside
おそらく、ココという少女が一番荒れているだろう。あの娘の瞳に宿っていたものは”憎悪”だったのだから・・・・・・。
しかも成人もしていない子供で、彼女が一番反対する可能性が高いのを理解した上で、クランドールを《神》と言った俺は悪党なのかも知れない。
「クオンよ、あれで良かったのか?ただ悪戯に憎しみを量産しただけではないのか?」
クランドールは心配性だが、いい男だと思っている。それ故に無用な心配をや焼いてしまうのだろう。
「必要なことだから気にしないでくれ。後の不和は破滅を呼び、世界崩壊に到ってしまう。それだと俺が来た意味がない。だからこそ、今の内に大きな修正をかけるんだ。
クランドールの言う通りにしたら、知られたときに反乱を起こされてしまう。それの方が怖い」
そう言う俺に何か言いたそうなクランドール。
「いくら後の為と言っても、お主が目の敵にされては支障がでるのではないか?」
黙ってはいられないクランドールはその言葉を口にする。そんなクランドールに微笑むクオン。
「ちゃんと手は打つさ。ココの母親はメイド長らしい。国王たちと話したときに、何か其れらしいことを口に出さなかったか?」
クオンのその言葉に何かを思い出したクランドールは、首を傾げながら・・・・・
「国王の周りに、近衛騎士が居なかったぞ?どうして王族だけだったのだ?」
クランドールの言葉から、国王は何かしらの『戦略』を打ったのだろうか?ただ俺自身は国王と直接話をしていないのでどんな会話の内容なのかは解らないのだ。
「なら、メイド長の名前は分からないか?可能なら夢の御告げを使ってコンタクトを取れないか?
現状で生存しているなら救出に向かえれ場一番いい。最悪は遺体だけでも連れ帰り、墓を国王共々作ってやりたい」
「ワシのことを"お人好し"とからかうくせに、お主も十分お人好しではないのか?」
クククッ・・・と人の悪いかおで笑うクランドールであった。
クオンが「さっさと確認しろ!!」と顔を赤くして言うと、クランドールは「わかった」と笑いながら行動するのであった。
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