3話・”天災”は災いを引き寄せるらしい 後編
後編始まります。前編より量が多く感じますが・・・気のせいですかね?
誤字・脱字ありましたら連絡をお願いします。
4月29日 本文の改稿をしました。
ルクレシア王女の覚悟のほどは、理解した。可能な限り彼女の家族の助けたい。だからこそ、無事を祈りたい。
クランドールに頼んでいる調べのもは、どんな進展なのだろう。
「クランドール、どんな感じだ?
こっちの方は、なんとか話が決まった感じだ」
クランドールは難しい顔でクオンに向いた。何か不味い事態になっているようだ。
「どうしたんだ?」
クオンは背筋に冷や汗が流れた。事態が急激に移行した気配がした。
(「不味いことになったぞ・・・。魔族の方じゃなく、ルクレシア王女の方で事態が動いた。
1時間後、捕らえた王族の全ての公開処刑を行うようだ。現状捕まっているのは、国王・王妃・第一王子だ。
妹と言っておったルルミナ王女は、今のところ捕まっておらんが時間の問題だろう」)
(「まさか・・・ルルミナ王女にも追跡の手が近づいていて、時間の問題とか言わないよな?」)
(「その”まさか”だ。ワシの力を使っても、どちらか片方が限界だ。二者択一どちらかしか選べん。
ワシからはどうするか、判断できん。すまんがルクレシア王女とお主とで話し合ってくれんか?」)
クランドールからの念話は、事態の急変であった。自分の心臓がバクバクと激しく脈打っている。
(「わかった・・・・・・。とりあえず、魔族関係って振りで話しかけてくれないか?」)
(「そうするか・・・。演技は任せるぞ?」)
この時点でクランドールとの念話は終わった。
「クオンよ、魔族に関しての情報が出来たが、少々厄介でな」
「そうなのか?・・・なら、隣の部屋で聞かせて貰えるか?
すまないが、ルクレシア王女はここで少し待ってくれないかな」
「かしこまりました。お待ちいたしております」
表面上、ルクレシア王女には気づかれてないようで安心した。しかし問題は、この話をどのように知らせるかよく考えないと最悪彼女が暴走し、精神崩壊を起こしかねない。
「さて、どうしたものか?」
クランドールは切り出した。
クオンは自身の考えを述べた。一つしかないのだが。
「時間が完全にない。さらに片方しか救えないときたか・・・。ルクレシア王女には悪いが、こうなった以上どちらを救うか判断をしてもらうしかないよな。
自棄になられることも問題だが、どちらも救えないのは避けたい」
「そうだな・・・助けたいが、どちらか選ばなければいけないのが無念だ。
彼女の救いとなるか分からんが、ワシの加護で不老長寿にすることは可能だがな・・・」
その言葉は救いにはならないだろう。だが、一つの取引としては使える。
:ルクレシアside
二人が奥の部屋に入っていったそのあと。
「先程、なにか様子がおかしく感じたのですが・・・。どういたしたのでしょう?」
ルクレシアは少し前まで話していた少年のことを考えていた。自分と似た容姿の少年を。
「それにしてもあの御方のお考え方は、何か深く感じます。今だけでなく、未来についても何かの構想があるようですね」
ルクレシアにはクオンの言葉のほとんどが理解できていない。それもそうだろう。クオンは詳しいことは何一つ話していないのだから。この場所に関してもそうである。
ルクレシア自身今まで政治面には、触れないできていた。本人の気質的に政治には向いていないのだから。
彼女自身はこれから自信の判断で、家族を切り捨てなくてはいけないことをまだ知らない。
「ルクレシア王女待たせてしまって申し訳ない。クランドールに調べて貰っていたことの中に、ルクレシア王女の家族のことがあった」
無駄な駆け引きをせずに、単刀直入で話を切りだした。時間があるならいくらでも、遠まわしではなせる。だが、時間がない!
「御父様たちのことが分かったのですか?」
ルクレシア王女の顔に明るい笑顔が浮かぶが、直ぐに暗くなる。それもそうだろう。わざとそういう風に話を切りだしたのがから・・・。
「あのもしかして・・御父様たちは・・・」
「詳しく話したいから、隣の部屋に来てくれるかな?」
この日いや、この世界で最初にして数千年もの長きにわたり、常に隣に立ち共に導き、支え合う事になるとはこの時のクオンにもクランドールにも預かり知らぬ事だった。
◆居住区 寝室
「まだ出来たばかりでほかの部屋がなくて、こんな部屋で申し訳ない。
話の内容に関してだが・・気を強く持ち、落ち着いてほしい」
話の内容に関して、思い当たる節があるらしく、顔色が悪い。それでもクオンを真っ直ぐ見ている。
「国王・王妃・第一王子は現在敵軍に捕まり、1時間後・・処刑される。そして妹姫ルルミナ王女は・・現時点では捕まっていない。だがこちらも、持って同じくらいだろう。
クランドールの力を借りても、どちらか片方しか時間的余裕はない。助けると行った手前申し訳ない」
そう言ってクオンは頭を下げる。時間がなさすぎる気がするのは、時間的概念のズレたクランドールと寿命の無くなったことにより、クオンの感覚が今までとズレてしまった為だ。
ルクレシア王女に判断を強いるのは心苦しいが、現状では彼女に判断してもらうしかない。
「本当なのですか?」
ルクレシア王女の瞳には涙が浮かんでいる。唇を噛みしめ泣くのを堪えているようだ。泣くことで失ってしまうかのように。
「怒りをぶつけてくれて構わない。助けることが出来ないのだから・・・。それに、ルクレシア王女にそんな判断をさせてしまう俺を信じてくれとは言えない」
俺には助けた手前、彼女の怒りを受け止める義務がある。また、彼女の精神が壊れないように守りたい。
「私には選ぶことなど・・できません。そんなどちらかを選ぶなど・・・・・・・」
クオンはこう言いそうだと確信していたので、慌てることはなかった。それどころか、ちゃっかりクランドールに一仕事頼んでさえいる。救出率の低さゆえに、国王たちに連絡をとってもらっている。
(「クランドール、頼んでいたことはどうだった?俺の予想だと・・・・・・」)
(「お主の予想通りだ。国王たちは、ルルミナ王女を救ってくれと・・・。兄の第一王子ですら、そう言っていた。出来た男だ、この時点で死んでしまうのは大きな損失だ。
国王たちは、ルクレシア王女たちを”奇跡の巫女”を護ってくれと言っていたが・・どういう意味だ?」)
(「”双子の妹”と言っていたよな?それが鍵なんじゃないのか?
エルフは子供が産まれにくい話しだろ?だったら、双子なんてかなり珍しいものなんじゃないかと思う。それこそ数百年に一度とかだったら、十分”奇跡”と言えないか?」)
(「その可能性は高い。念のためルクレシア王女に確認した方がいいだろ」)
クオンはクランドールとの念話を終わらせた。ルクレシア王女に確認することにしよう。
「ルクレシア王女、クランドールに調べてもらって分かったのだが、王女たちは”奇跡の巫女”と言われているみたいだね?どんなものか教えてくれるかな?」
クオンの問いかけに、ポツポツと話してくれた。内容はこうだった。
「”奇跡の巫女”とは、数百年に一度王族の中に生まれる双子の姉妹を指します。その双子は”莫大な魔力と大いなる魔法適正”を世界より与えられます。さらに、王族自体が王国内で一番魔力の高い者が国王となります。
そのような状況で産まれた私たち姉妹は、まさに王国に安寧を導く存在として大切にされてきました。
魔力の高い王族ゆえに、私と妹には同じ許嫁がいました。攻められた時にもう亡くなってしまいましたが」
とのことだった。許嫁に関してはどうでもいいが・・・。
「それは・・すまないことを聞いてしまった。許してほしい」
「・・・気になさらないで下さい。私も妹も彼の事は、心の底から”嫌悪”しかありませんでしたから」
小さい声で「貴方様の方を、本能が求めているように感じますが・・・」と言っていたのを、クオンの耳に入ってきていなかったのは幸運だったのだろうか。それにしても”嫌悪感しかない許嫁”ってどんな屑野郎だったのか逆に気になった。
「そうか・・・ルクレシア王女の助けとなるかは分からないが、もしもの為にクランドールが『夢の御告げ』を使えたので国王たちに確認して貰った。
国王たちは”奇跡の巫女”の姉妹を助けてくれと、言っていたらしい・・・・・・俺は妹姫ルルミナ王女の救出にこれから向かう。ルクレシア王女はダンジョンに居てくれないか?ルルミナ王女は助けてみせる!」
クオンは「恨んでくれてかまわない」と言い部屋を出ようとした。ルクレシア王女に背を向けたら、身体が熱に包まれた。
「すみません・・・本来は私が決めなくてはいけないことを決めさせて・・・・・・・・・。
私も妹も貴方様を恨むことは、ありません。妹を宜しくお願い致します」
クオンの体はルクレシア王女の体に包まれた。温かい熱がクオンの心の凝りを取り除いた。
クオンは顔を上げると、ルクレシア王女の頭をなでて「ありあがとう」と言った。
◆ダンジョンコアルーム
「またせてすまない。ルルミナ王女の救出に向かおう!これ以上の悲劇は産み出すわけにはいかない!!」
心の底では「人族はある程度滅ぼすけどな・・・」と思っていたのは蛇足である。
現実的にここまで急激な心変わりはしないのが普通だが、クオン自身過去に『災禍の天才』と周囲の人間に言われるほど、一般的な人間の思考からは逸脱していた。
「わかった。飛んですぐに、戦闘になるだろう。心構えしておけ!」
クランドールはそう言うと目的地に転移した。
:ルルミナside
ルクレシアお姉様と離れて1日が過ぎました。お父様・お母様・お兄様は私たち姉妹を逃がすために、王宮に留まり近衛、軍隊と供に戦いに行きました。私たち姉妹と逃げ出したのは、ほんの数人・・・10人にも満たないでしょう。私たち姉妹を手元に置くなどという、愚を帝国の王は選ばなかったのは少し残念です。
「ココ・・無事に逃げてくださいね・・・・・・」
一緒に脱出した、私の妹的な従者。まだ、10歳になったばかりの子供にこれ以上の過酷な逃走に巻き込めません。お姉様と一緒に、私たちの秘密基地に隠しました。頭のよい娘です。隠れていてくれるはずです。10日ほどたてば一般人の彼女には帝国も、興味を失うでしょう。辛い生活を強いてしまいますが、生き延びて何時か子をなしてほしいです。
「私に命もあと少しでしょう・・・。少しずつ、包囲をされているようですね」
私たちエルフには、自然と話せるものがいます。私たち姉妹は、莫大な魔力と高い魔法適正のおかげで、木や精霊とお話しできます。そのおかげで、ココを隠してから3日も逃げられたので感謝しかありません。
「「「 いたぞ!!あそこだ!!!!」」」
「包囲しろ」と帝国人が言ってます。もうお仕舞いかもしれません。お姉様・・どうかご無事で・・・。
覚悟を決め、最後の反撃に出ようとしたとき、あの御方が現れました。
:クオンside
かなりギリギリの状況だった。ルルミナ王女は人族の包囲され、あと少し遅ければヤバかった。
「クランドール、ルルミナ王女を護っていてくれ。俺が奴等を始末する!」
「わかった。気を付けてな」
クランドールとこんな気の抜けた様な会話を交わし、俺は人族を睨み付けた。
「貴様らような至上主義の屑は、この大陸にも世界にもいらん。・・・消え去れ!」
クオンの指がパチンと音を鳴らすと、人族の頭を”石の棘”が穿った。正面の敵を排除したら、時計回りに順次排除してゆく。この間僅か10秒・・その短時間でルルミナ王女を追っていた人族は、物言わぬモノとなった。
クオンは周りを確認すると、戦闘体制を解いた。
「反応が一つ遠ざかっていくがいいのか?」
クランドールがクオンに語りかける。当のクオンはめんどくさそうに、
「全滅したら、新たな敵が現れたことを理解できないだろ?そいつはメッセンジャーのようなものさ。
出来るだけ生きて、本陣に戻ってほしいいからな。でないと、折角の仕掛けが無駄になる」
と言った。あの短時間に何を仕掛けたのか気になって仕方ないクランドールであった。
「いろいろと、抜け目ないのお主は・・・」
呆れとも、誉め言葉とも取れそうな顔をされた。クオンはクランドールから視線をルルミナ王女の方に向けた。
『ビクッ』と驚かれたことに、少々ショックを受けたクオンであった。
「すまないが、ルルミナ王女え間違いないかな?双子の姉のルクレシア王女の頼みで助けに来た。いろいろと聞きたいことはあるだろうが、確認からさせてもらっていいかな?」
あの惨劇を起こした張本人だが、見た目がココと同程度のためそれほどの怖さは感じなかった。
「はい。私がルルミナ=ル=ラグズです。お姉様は無事なのですか!?」
驚きを隠せない様子のルルミナ王女に、若干押されながらも頷くクオン。
「ああ、俺たちの方で保護している。申し訳ないが・・国王・王妃・第一王子は・・・・・・いないが・・・」
状況が悪かったと言えばそれまでだが、責められても仕方ないと思うクオンである。
「よかったです。お姉様・・・。私も連れていって頂けるのでしょうか?」
「ああ。むしろ断っても連れていかなくてはルクレシア王女に申し訳がたたない。他の人はいないのか?」
「一人従者の娘がいます」
「クランドール、あと一人増えるが大丈夫か?」
「問題ない!早くその従者を連れにいった方がよさそうだ」
クランドールの言葉から、周囲にあの人族の軍隊が近づいて来ているらしい。
「その場所はここから近いのか?」
「私たち姉妹の秘密基地になります。ここからですと、3日はかかってしまいます」
「クランドール、何とかテレポートか?」
「難しいが、ルルミナ王女のイメージで向かおう。ルルミナ王女よ、その場所を思い浮かべてもらえるか?」
そう言うとクランドールは、ルルミナ王女の頭に手をかざした。当のルルミナ王女は必死に、秘密基地の場所を思い浮かべていた。
とんだ先は直径130cmくらいの洞窟の入り口だった。俺はそのままで問題なかったが、ルルミナ王女は中腰で、クランドールに至っては四つん這いになっている。このときばかりは、自身の身長に・・ほんの少し感謝した。
悔しくないかって?今更だし、どうにもならないから諦めている。
「結構長くないか?5分くらい歩いている気がする・・・」
実際にかなりの距離があった。さらに5分歩くと目的地に着いた。そこは高さ2mくらいあったのでクランドールはようやく立ち上がることが出来た。
「腰にくるぞ・・・」そういっていたクランドールの顔に笑ったのは、お約束か?
ルルミナ王女は奥にある小屋?らしいものに向かって歩き出した。
「ココ!!居ませんか!?」
ルルミナ王女の声が響き渡る。4人の気配しか感じないから無事だと思う。少しして「ひめさまぁ?」との声が聞こえた。どうやら、寝起きらしい。小屋?の外で待っていよう。
「クランドール、此処にダンジョンへの転移陣を作ろうと思うがどうだろう?」
「問題なさそうだな。してどこと繋ぐ気だ?」
「認証式で、ダンジョンボスルームに繋ぐ。他のやつらに見つかると不味いから、”鍵”なしはモンスターハウスにご招待するがな」
笑ってそんなことをいうクオン。
「目印だけは付けておくか・・・」
そういって、腰に差していたナイフを地面に刺した。
幾ばくかの時間が経ち、ルルミナ王女たちが出てきた。
「申し訳ありません。準備に時間がかかってしまって・・・」
「いや、問題ない。クランドール頼む」
「わかった。いくぞ?」
こうして、慌ただしかった一日が終わった。だがこれは、これからの日々のほんの一欠片であった。
徐々に見てくださる方が増えてきていて、励みになります。
少しでも多くの方に読んでいただけるように、がんばります。
次回更新予定は1月30日を予定しています。