3話・”天災”は災いを引き寄せるらしい 前編
この話からの表記がヴェラリーズ表記ということで、カタカナ表記になります。
初の二部編成になります。
誤字・脱字の連絡お願いします。
4月22日 本文の改稿をしました。
ダンジョンの作成が一息ついたので、クランドールと話そうと思った。
『ピーピーピー』
警報が鳴り響いた。領域内に何か侵入したらしい。
「警報の鳴っている地点の映像を投影!!」
目の前に映像に写っているのは・・・少女だった。自分と同じ銀色の長い髪だ。
「黒い肌・・・長い耳・・・・・・ダークエルフか?」
クオンの呟きにクランドールは答える。
「そのようだな。しかし変だぞ?ダークエルフは人族側のはずだが・・・」
「そうなのか?近くで戦争なんかが起きたとかはないよな?」
「ないはずだ・・・」クランドールはそう答えた。
「このままじゃらちが明かない。『音声を拾え!!』」
クオンの言葉がコアルームに響くと同時に、映像から声が流れてきた。
『奴を逃がすな!!この場で殺せ!!!』
醜男どもに少女が追われている。捕まれば”死”という未来になる。
とりあえず助けることにした。
「クランドール、戦闘のレクチャーをついででしてくれないか?貴重な情報源いなりそうだ」
サッパリとした物言いだが、その瞳にあの男どもに対する怒りが見え隠れしている。
それを確認したクランドールは頷いた。
「よいだろう。ただし、かなりキツいと思うから覚悟してくれ」
転移した先に、少女が近ずいてきた。その少女に向かってクオンは叫んだ。
「そのまま俺たちの後ろまで走り抜けろ!!!」
「!!!!?」
案の定少女は驚いたが、クオンの言葉に従ってくれた。
「クランドール、俺が今使える魔法はあるのか?」
「この場で使うなら『土』が適切かな?手を前にかざして世界に魔力を渡すのだ。
自分の中にある力を切り取り、押し出す感じだ」
「ふむ。こんな感じか?」そうクオンは言って魔力を動かした。そのスムーズさにクランドールが驚いていたのは秘密である。
実際のところ、過去に中二病を患って”気”が使えないか試していたのが原因だったりする。
「詠唱は『土よ、敵を貫きし牙となれ! アースニードル』だ。魔法はイメージが一番重要だ!
イメージが鮮明であるほど威力は強く、より精密な攻撃も可能になる」
「なるほど、イメージね・・・こんな感じか?」
「パチン」と指を鳴らすクオン。詠唱破棄どころか無詠唱である。本来なら発動しないはずだが・・・・・・。
「「「「「 ズババン 」」」」」
生み出された石の棘が敵の頭を穿った。
「それ『アースニードル』じゃない・・・」クランドールのそんな言葉はクオンには届かなかった。
「無詠唱?」
助けた少女がボソッと呟いた。クランドールの言葉は届かなかったのに、少女の言葉はなぜか届いた。
ゆっくりと掲げた手を下ろすクオン。少女の方を向く。
「大丈夫か?怪我はないか?」
クオンはゆっくりと少女に話しかけた。クオンが見る範囲では怪我の確認は出来なかった。
「・・・はい。大丈夫です。大きい怪我はないです」
「擦り傷くらいなのかな?」
「パチン」と指を鳴らすと少女の身体が光に包まれた。
「何をしたんだ?」
クランドールが驚いた声を出した。「何をって・・回復」とクオンが答えるとさらに目を開いた。
クオンはこの世界には回復魔法が無いのかと思った。
「回復魔法がないのか?もしくは、珍しいのか?」
分からないので聞いてみた。もし無いのなら、最高の切り札になる。
「回復魔法自体はある。だが、お主ほどの効果は見たことがない。
そんなことよりも、なぜ<無詠唱>がつかえたのだ?」
「魔法はイメージが大事なんだろ?だったら簡単さ。
より細かい設定と想像を行えば、詠唱という”ツール”は必要なくなるだろ?
こっちには、いろいろな元になるイメージがあるからな」
なんのこともないようにクオンは言い切る。
少女には何のことなのか、理解が追い付かないようだ。
「まあ、いろいろ確認することはあると思うが、この場所はまだ危険じゃないのか?」
移動しよう?とクランドールに目で語りかける。
それに気づいたクランドールは転移した。
◆ダンジョン内居住区
「さて此処なら、敵は来ないから安心してくれ。
ただ時間的余裕がどのくらいかは分からないから、疲れていると思うが先程のことを教えてくれないか?」
クオンは優先度の高い事を切り出した。つい先程なので少し心苦しいが最も急務だと感じたからだ。
少女は少し躊躇ったが話してくれた。
「私は、妖精の国”ラグズ”の第一王女ルクレシア=ル=ラグズと申します。助けていただきありがとうございます。
私たちの国は妖精・エルフ・ダークエルフが自然と共存し昨日まで平和に暮らしていました。見て分かるかと思いますが、私はダークエルフの王女になります」
「エルフの王子または王女がいるのか?」
「はい。20上の兄様と双子の妹がいます。両者ともにエルフになります」
失礼なことだと思うが、妖精族の寿命がどれほどなのか気になった。チラリとクランドールの方を見ると頭の中に声が響いてきた。
(「妖精族の寿命は100~110年ほどになる。適齢期のも人族と比べると遙かに長く、20~60歳くらいが結婚適齢期と言われておる。まあ適齢期が長いのは老化が緩やかで、外見的な"老い"は90歳を過ぎんと目に見えた変化は出てこん。まあ、この娘は同い年くらいだと思うぞ」)
(「人族の適齢期が地球と違うわけないよな?そうなると"子供が産まれにくい"とかのリスクがありそうだな?よくある設定だとそうだが・・・」)
(「人族と比べると遥かに出生率が低い。その代償が"老化遅延"といえる。
魔法適正が人族より高いのも特徴だ」)
クランドールとクオンの念話は思考加速により少女には、1秒にも満たない時間である。
「女性に年齢を聞くのは失礼だが・・・ルクレシア王女はおいくつなのだろうか?」
クオンの言葉に首をかしげるルクレシアだが、自身の種族の特徴を思いだし理解を示す。
「兄様が36歳で、私と妹は16歳になります。あと2ヶ月もすれば17歳になりますが」
クオンと同じ年だ。だからこそ、このままでは"死"が確定しているルクレシアが不憫に思えた。クランドールを見ると頷いているので言いたいことは理解しているようだ。
「クランドール、彼女たちを可能な範囲で救いたい。状況的に問題はないか?」
「問題ない!彼女たちの種族は恐らく、奴隷にするために捕らえようとしているのだろう」
クランドールの言葉に異世界ならではのものなのだろうと思うクオンである。
やはり”若く美しい女”は、観賞用としもてもそれ以外にしても使えるのだろう。
「ですが・・・私たちの事情にあなた方を巻き込むわけにはいきません。助けていただいたことには大変感謝いたします。私たちにこれ・・・・・・」
「今のこのダンジョンに奴等を呼び込むのは尚早だと思うんだ。現状は雌伏・・隠れて”力”を蓄えようと思う。クランドールはここまでのところで、何か不味い点があるか?」
「問題はないと思うぞ?それと平行して、ラグズの生き残りを随時回収していけばいいと思うぞ。」
「無論両方を同時平行で行う。そこで陣頭に立つのは、ルクレシア王女してもらう。彼女に限って横暴なイメージはなさそうだから安心だし、自国の王族だ、信頼性が違う。
ただそのままでは、現状から何も変わらないと思うからルクレシア王女に俺の元に下ってもらう。あくまでも見せ掛けになるがな・・・。
俺を頂点としたダンジョン内の王国を作ろうと思う。無論、政治に関しては素人だ。関わる気はないがな」
「ふむ。二重の意味で美味しいな。だがそうなると、どの階層に国を作るかが問題になると思うぞ。
お主の事だ考えはあるのだろ?」
ルクレシア王女を置いて二人の話は進む。慌てて止めようとするが、少々遅すぎた。
「のう、一番安全に話を進めるなら、ルクレシア王女を妃に迎えた方がよくないか?」
クランドールの言葉にルクレシア王女は、驚きを隠せなかった。その後に続くクオンの言葉にも驚くが。
「無理無理(笑)第一王子が生きているとしたら、そちらが一番大きな問題になるんだぜ?その手段を使うなら、第一王子を助けた(もしくは死亡確認)後で、ラグズ王国の第一継承権を譲らせるしかないからな。
捕まっているなら王子と王女の命は無事だ。王子は抵抗勢力の抑止に、王女は・・生きているだけでもましな状態かもしれないがな。
恐らくだが、まだ国王と王妃は高確率で生きている可能性がある」
クオンはそう言ったが、内心では生きていないと思っていた。略奪者にとって一番邪魔なのは、その国の統治者になる。その国の住人の希望を砕くにはそれが一番早い。
この事は、ルクレシア王女も理解していると思うが言葉に出すことは憚られた。
「あの・・その気持ちは・・ありがたく思いますが、これ以上ダンジョンにいますと必要以上の迷惑を与えてしまいます。お父様・お母様・兄様・ルルミナ・・・家族の皆様のことが心配です」
・・・とそんなことを言っているのだが、肝心の二人は。
「明日になれば、30000DP回復する。それを使ってダンジョンの拡張を行いつつ、迎撃の準備を進める。
あくまでもの予想になるが、ダンジョンの迎撃が整うのは多く見積もって一週間と予想している。迎撃と住人の移住を含めてだからそれくらいの日数はかかると思う」
「内訳を聞いてもいいか?」
内容を聞いてくるクランドールに答える。
「まずは明日、30000DPの内20000DPをダンジョンの拡張に使い、ダンジョンの充実と迎撃力の強化を行う。残り10000DPで居住区の拡張と充実を行う。
2日目からは半々で両方の強化を図る。おそらくこの時点でダンジョンレベルは上がっていると思うしな。状況によるが、3・4日くらい同時進行で行えば問題ないレベルで完成できるはずだ。
残り1日か2日で一気にダンジョンの強化を行う。これでほぼ生還不可能に近いダンジョンになるはずだ」
「なるほどその考えはありかもしれない。お主の手際を考えれば、成功率はかなり高いしな。
そのままラグズ王国の住人は、ダンジョン内で暮らしてもらうのか?」
クランドールの言葉にクオンは頭をかき、
「ずっとそのままってわけにはいない。おそらく20~30年くらいで、ある程度この大陸の支配が完了するはずだ。ただ、そのまえに大陸の分割をしないと、魔族の保護は出来ないだろうがな。
現在、生存している魔族の人数は分かるか?」
と言った。
「ワシの持っていたデータは役に立たんだろう。数百年前のものになるんだからな・・・」
そう答えたクランドールから、ルクレシア王女に視線を向けた。
「ルクレシア王女は魔族のことは知っているか?現状を知っているなら教えてほしい」
クオンは、真剣な眼差しでルクレシア王女に問いかけた。
それに対するルクレシア王女の返答は予想外だった。
「魔族とは、歴史書にある”魔族”なのですか?」
魔族の存在事態が、遥か昔の話になっていたのは想定外だ。
「クランドール、調べたときはどのくらいの人数がいたんだ?」
「1万に届くかどうかと言う感じか?」
人数自体がかなり少なかった。与えられた知識から、この世界の運命は低いと理解してはいたが、それでも倍はいると思っていた。
「その時点で少数と言えるじゃないか・・・。”地下帝国”とかで存続してはいないか調べられないか?」
ほとんど冗談レベルで思ったことだが調べてもらった。もしそうなら、コンタクトを取ってみたいと思う。
「それもあるかもしれんな。調べてみよう」
そんな二人のやり取りを、クオンの横に座ってルクレシア王女は聞いていた。
うまくいけば家族だけでなく自国民を一人でも多く救えそうに感じたからだ。
ただ、話の内容自体がほとんど理解できないのが残念に思う。
「ルクレシア王女はどうする?俺に従うか、自身の力で行動するのか決めてもらえるか?
即決は後悔を生むだけだから、一晩考えて答えてほしい。
どちらを選んでも、敵対することはないから安心してくれ」
そんなことを言われても、もうルクレシア王女にはクオンを頼るのが一番だという思いに傾いていた。
だからこそ、その思いを伝える気持ちになった。
「私一人では、貴方様ほどの計画も、実力もありません。ですので、貴方様が私の家族・国民と助けていただけるなら、私の全てを賭けてお願い致します。
兄様も貴方様の構想を理解なさってくださると思います」
なんとも思いっきりのいい王女様であると、クオンは舌を巻いた。
だがその心意気に感心したのは内緒である。
お読みくださりありがとうございます。
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