1話 最初にするべきこと
今回はかなり予定より遅くなってしまいました。本文の半損が3回も続いてへし折れそうでした。
今回からクオン編になりましす。よろしくお願いします。
昨日の夜初めて<夢幻異信>を使ってみたが、寝た気がしない。これはあくまでも気持ちの問題であり肉体的には休めている。
これは慣れるしかないと思う。それよりも話の中にあった”ゴブリンキング”とその母体となった女性のことは早めに対処しないと手遅れになりそうだ。
「にゆふふふふ~~」
隣から間延びした声が聞こえてきた。それは昨夜契約した”淫魔族”のリリイであり、その顔は淡い想いなど吹き飛びそうなほど、だらしない。コイツが本当にサキュバスなのか疑問に思ってしまう。
「起きろリリィ。朝食の準備をしてくれ」
隣で寝ていたリリィの肩を揺する。その際口からたらりとヒカル何かを見たが気にしたら負けだ。
「にゅふ~ごひゅひんしゃま?」
「お前も顔を洗ってシャッキリとしろよ」
そう言うとクオンは洗面場で顔を洗ってコアルームに向かった。朝一でする作業は昨夜トワから教わった”魂の回収作業を行うためだ。
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コアルームに辿り着くとそこにはクランドールの姿があった。姿を確認したクオンは片手を上げた。
「おはよー。そう言えば神って寝るのか?」
「うむ。ワシらが寝るのかだと?お主らに比べると活動時間が長い反面、睡眠時間も長いのだ。
2~300年くらいは普通に活動するか?」
桁が違いすぎた。唖然としているクオンにクランドールは、今日の予定を確認した。
「まず先にダンジョンの強化を行うのか?」
「昨日の夜<夢幻異信>を使ってトワと連絡を取ってみた。
その際フェブリーズで”ゴブリンキング”を殺したらしい。恐らく今なら”魂の回収”が出来そうなんだ。先にそっちから片付ける」
クオンはそう言うと、ダンジョンコアに触れ操作リストから『”魂の共有”への干渉』を行い始めた。
まず始めに行ったのは、リンクシステムの中枢への干渉である。
「・・・かなりプロテクトが堅いな。正面突破はムリ・・・裏側からの侵入もムリだな。下手に手数を増やすのは・・・逆に時間を喰いそうだな」
淡々と作業を進めていくクオンを見ているクランドールの瞳には既に何度目かの驚きが宿っていたそうな。
「プロテクトコードを入手・・・リンクシステ中枢部、基幹名『時の狭間』への進入許可を・・・・・・」
時間を追うごとにクオンの指の動きが速くなっていく。カタカタ・・と言う打盤音ではなくピピピピピ・・・と異世界に似合わない電子音が途切れず鳴り響いている。
どれほどの時間が経ったのか、クオンの額には汗が滲んできていた。20・・30分だろうか・・・終わりなく続いていた電子音が止まった。
「ふう・・・時間はかかったが、何とか目的の魂がリセットされる前に発見できた」
汗を拭い、一仕事をやり終えた顔をしながらとんでもないことを口にする。魂のリセットとは魂の記憶を消去することになる。
つまり、”リセットされていない=前世の記憶を持つ存在”になる。前世の記憶をリセットされずにすんだ魂を持つ個体は少ない。それをクオンは意図的に起こしたのだ。クランドールの口が開いたままなのは仕方ないことなのだ。
「お主に何度・・・驚かされるのだろう・・・・・・」
「知らん。別にルール違反じゃないだろ?」
ズバッと切り捨てるクオン。まあこの男の娘に常識を求めること自体間違っているのだから。
<死霊術><死魂術><魂を冒涜する者><魂魄奏者> 複重発動
高まる魔力に気を引き締める。
『何処ともつかぬ 最果ての地 終わり終わらぬ 刻の一欠片 故に我、汝ら集わせ 新たなる世界を 描かん』
魔力により描かれた魔法陣が、足元からクオンを照らす様は幻想的だ。
『故に汝等よ 我が前に来たれ ”幽精の導き”』
この魔法もオリジナルになる。分類的には<死魂術>にあたる魔術になる。この魔術の特徴は酷い例えだが”夜に一つある街灯”の様なのもで、これは”魂を引き寄せる”効果がある。ちなみに対象の指定は勿論行っている。それをしないと、”予定外の流出が起きる”。
「”ゴブリンキングの魂”回収完了。とりあえず、今すぐの使用はないから凍結させるか・・・・・・」
知っている範囲でそんな呪文はない。だから今回も新しく創る。
『始まりも 終わりもなき ただただ虚空なる 全てを隔てし 不動なる理 今一度 この者の時を奪え』
『絶無なる刻』
呪文を唱え終わると”ゴブリンキングの魂”が水晶のようなモノで覆われた。
「お主の規格外さ・・・なんと言えばいいんだ・・・・・・」
いつもの如く頭を抱え、悩んでいるクランドール。クオンは何処吹く風である。
「・・・して、もう一つの魂はなんだ?」
「トワが言っていた”ゴブリンキング”を滅ぼすのに”命を捧げた少女の魂”だ。他人のために命を捧げられる人は、そうそういない。そんな少女の魂だ・・・きっと力を貸してくれるはずだろう・・・・・・」
そう言うクオンの顔は少し誇らしそうに微笑んでいた。その顔は今まで見たクオンに比べ外見と相応な微笑みでクランドールは見惚れてしまっていた。
実際クオンの外見は美少女である。本人の無自覚な努力もあり、クオンを女性だと勘違いすることはない。そんな奴が無自覚の男らしさかなくなったらどうなるかは、クランドールがよい見本である。
「なあ魂の具現化って出来るのか?」
「神域であっても不可能と思ってほしい。そのまま解放や具現化を行うと魂は消滅することになる。だからこの場合は、”幽霊体化”する方がよいと思うぞ?」
クランドールの提案に暫し考える。10数えるくらいだろうか、目を閉じていたクオンは目を開け行動した。
「そうだな・・・クランドールの案で問題ないと思うが、後に幽霊体から肉体を手にいてることは可能だよな?」
可能だと思うが念を入れて確認した方が良いだろう。こういう積み重ねが駆け引きの役に立つ。
「幽霊体とは言わば”悪魔”や”天使”と同じ状態であり、違いと言えるかは分からんが・・・魂の強度は天魔の方が強く丈夫だ」
そう聞いたクオンはエリスティナの魂に改造を加えることにした。改造とは言ってもリリィに与えた魂のような改・・・魔改造はしない予定だ。
「改造前に確認しておくか」
称号 <魂魄奏者>発動
『聞こえるか?穢れなき魂の持ち主よ・・・聞こえたら返事をしてくれ』
『・・・・・・どちら様で・・・?』
かなりノイズがあるのか、それとも記憶の処理が起こりかけているのかもしれない。
『俺の名はクオン。キミを介錯したトワの兄弟分だ。最も血の繋がらない兄弟だがな・・・』
『・・・トワ様の御友人ですか?』
少しは滑らかな会話が成り立つようになってきた。トワのなを出したのが効いたのだろうか?
『そうだ。キミ自身、自分の身に何が起こったのか理解しているか?』
『少しずつ・・ですが思い出してきました』
この間クランドールは絶賛放置中だ。彼の目元に光ナニかがあるが、そっとして置いて欲しい。
『ゆっくりと確認したいところだが、今のキミは魂だけの状態だ。あまり時間をかけると魂が消滅しれしまう恐れがある』
『そうなのですか?・・・状況は理解致しました。本題を御願いいたします』
『フッ、予想以上にいい女だなキミは・・・では、本題に入る。キミにお願いしたいことがある。内容はこの世界・・正確に言うとキミの生きていた世界『フェブリーズ』と今俺のいるキミに力を貸して欲しい世界『ラグトリーズ』この二つの世界がある』
「ここまではいいかな?」と聞くと「問題ありません」と返答が返ってきたのでクオンは話を進めた。
『この二つの世界を含めた世界を『鏡面世界』と呼ばれている。このヴェラリーズは今”崩壊の危機”に瀕している。安心して欲しいのは今すぐではなく数千年後と言う話にだから・・・。』
エリスティナは小声で呟くように確認している。
『”崩壊の危機”に関してだが、キミも生まれた世界にも実は”影響が出ていた”。それは”モンスターの増加”としてだ』
クオンの言葉を聞いたエリスティナは、ハッとしたように呟いた。
『お父様が最近被害が増えてきたといっていました・・・』
『それが崩壊の兆候の一片になるし、時が経つにつれ被害が広がりキミの家族にも最悪被害がでてしまうだろう』
クオンのその言葉を聞いて青ざめいているそうクオンには感じられた。しかし大切なことなのでしっかりと理解して欲しいことだった。絶句していた時間はわずかであった。
『私が協力することにより、家族や大切な方たちを守ることに繋がるのでしたら、微力ではありますが私の力をお使いください』
『・・・感謝する。半ば脅すような内容だったが、少しでも真実を知る人が欲しかったんだ。協力してくれるキミに対して俺も相応のことをしたい』
クランドールが言っていたように、魂の状態ではあまり時間をかけるのは不味い。早速彼女に話をする事にした。
『今すぐキミ用の肉体の準備が出来ないので、申し訳ないのだがキミの種族を”天使族”に変更したい』
『”エンジェル”とはどういった種族なのですか?私は聞いたことがありません』
それもそうだろう。この世界では表に出ない種族なのだから・・・。
『簡潔に言うと”神託をする”存在だ。このヴェラリーズの管理をしている神たちは、そこまで手が回っていない。酷な話だろうが、”世界の運営以外のことは気にしていない”と言っても過言ではないんだ。だがそれでは”人”とは間違いを犯し滅びてしまう・・・そうなれば世界の運営に綻びが出てしまうことになる。
それを解消するための存在が”エンジェル”と言うわけさ。キミをエンジェルにする理由は、”魂の状態で存在出来る種族は、天使と悪魔しかいない”。そしてキミの魂の輝きは明らかに”天使寄り”なんだ』
『そのような存在、私に勤まるのでしょうか?』
その声は不安そうだが、俺には彼女以外相応しい人はいないと思っている。そのことをハッキリと伝えたら、思いっきりのよい返事を貰えた。
『キミ用の肉体を見つけたら、精神体と肉体を自由に変更出来る様にしたい』
『よろしいのですか?その様なことをしていただいて・・・』
感動されるのは有り難いが理由もある。
『言い難いのだが・・・その事でキミに一つお願いがある。』
『?』
『キミ以外の協力者が出来たときも頼まないといけないのだが・・・俺の”子供を産んでくれ!”』
言った。言い切ってしまった・・・。
『理由をお聞きしても?』
その声色には”拒絶や嫌悪”は感じられなかった。
『この”ラグトリーズ”には”人族以外の種族は少なく”その原因は、”多種族を殺し続けている”からになるんだ』
『どういうことなのですか?私の世界?では皆様は協力することにより生活していました!』
『驚くかもしれないが、ラグトリーズの人族にそれはない!
”人族至上主義”とでも言うのか・・・そんなくだらない妄執で世界が滅びに向かっているんだ・・・・・・』
クランドールの話と姫姉妹の話を聞いて出した結論だ。
『絶滅寸前まで追い込まれている。百年・・・下手をすれば数十年で、一つの種族が絶滅することにより”世界消滅は加速的に進行する』
『それが理由ですか?』
『こっちの方が理由と言いやすいと思う。
俺の”血を継ぐ子供たちは身体能力が高くなり、それは子孫にも引き継ぐ”ことになる。変な言い方だが、種族としての底上げが出来るわけだ』
暫し無言で考える彼女。
『わかりました。お引受けする際に御願いがあります。私は獣人族の猫人族になります。私の身体を生前と同じ種族にしてください』
『了解した。時間がないので早速作業に移るぞ?』
彼女の返事を聞き、俺は作業に没頭する。時間にして十数分の説明と数分の作業で彼女は”天使族”に生まれ変わる。
「改めて、俺がクオンだ。キミの新しい名は”ティナ”になる・・・よろしくな。
早速だが最初のティナに仕事がある」
こうして俺は、新しい仲間を手に入れた。今夜行うトワとの定時報告に同行してもらう予定だ。
ちなみに放置されたクランドールは部屋の角でいじけていたと追記しよう。
次回の更新予定日は、4月15日になります。出来次第、予約・投稿を行いますのでよろしくお願いします。
誤字・脱字がありましたら連絡をお願いします。
まだまだ足りないことの多い本作ですが、MFブック様の『ライト文芸賞2MF』に応募させていただいております。引き続きよろしくお願い申し上げます。