夢幻の現に浸るもの
この話は、前話のラストのちょっと前になります。
あの場所とは違う白無の空間。その場所を覆っていた白きもやが徐々に解け、空間が色づいてきた。
その場には周辺と似合わない”場”が生まれていた。”緑の下敷き”に”丸く背の低い机”さらに”四角く青い正方形の物体”・・・・・・そう、『和室』である。その場に居るのは当然『クオン』と『トワ』である。
「いよ~いす。久しぶりだな・・トワ」
「だな。お互い元気で何よりだ、クオン」
そんな出だしで始まるのは、鏡面世界における”魂の共有化”の定時報告と相談だ。
「トワの方は何か進展はあったか?」
「どうやら、予定の前倒しをする事になりそうな感じかな?」
「そっちのことも分かっていたが・・・大変だな~」
この二人の話している時間軸は、トワが男3人で馬鹿話をしていて寝落ちした後になる。
「クオンの方はどんな感じだ?前聞いた話だと、姫姉妹・メイド母、娘・サキュバスがと暮らすことになるんだろ?」
「現状はどうなるか分からんけどな。メイド娘次第で姫姉妹の運命は決まりそうだな」
酷い言い方に感じるだろうが、不穏因子をダンジョン内に置いておけるほどお人好しではない。
実際の所は、彼女たちの必要性は限りなく低いと言える。あくまでも現在はとなるが・・・・・・。
「それでも御輿としては使えるんだろ?」
「必要性より信頼性が第一かな」
トワより頭2つ分低いクオンだが、その辺の容赦はしない。自身にとって『不要』と判断したら遠慮なく切り捨てる。
出会った当初からこの男の娘はそんな奴だったと思い直す。そんな事より、昨日のことの確認をしなければと思い直す。
「昨日『ゴブリンキング』の魂がそっちに逝かなかったか?」
漢字違いではないです。この『ゴブリンキング』の魂は”魂の共有化”に置いて魂は『ラグドリーズ』と『フェブリーズ』の間を水の循環の様に両方の世界を廻り巡るのだ。
「トワが昨日報告してくれたお陰で、”良質で高い純度の魂”が手には入ったよ!」
後ろ暗いところはあるが、”鏡面世界”の消滅よりは何倍もマシだ。
「俺だって悩むと思うが、あまりトワが思い詰めるのを彼女は望まないと思うぞ?」
クオンがそう言ったとき、トワの後ろの方から声がかけられた。
「私は、”お気になさらないで”そう言ったと記憶しておりますが・・・・・・」
声の主は当のエリスティナ嬢であった。
「ぅげぇ・・・何でもこの場所に居るんだ?此処は俺たち位しか来れないはずだが?」
その疑問に答えたのはクオンである。
「そんなの俺に決まっているだろ?」
その姿は”悪戯に成功した子供であった。外見が幼い”男の娘”が胸を反らせて『ドヤ』顔している様は、呆れよりも微笑ましさの方が大きくなる。あくまで”対面の人物の性別を知らない場合だが・・・・・・。
「私の予想通り、”人殺し”と御自分で思っていませんか?」
彼女の危惧の通りトワはそう思っていた。その事の原因は地球での常識であったからだ。しかしトワを見ていクオンは、昨日のと違う状態に憑き物が落ちたのを感じ取っていた。
「しかしトワも、昨日から比べるとマシな顔になっているから、少しは吹っ切れたんじゃないのか?」
自分の感じたことをトワに聞くことにした。ちなみにクオン自身は”人を殺した”ことに関して負い目はない。基本的に『殺されるか、殺すか』の状況だったのでそんな事を気にする余裕がなかったと言うべきか・・・。
「まあな。フェブリーズで出来た友人に助けられた感じかな」
頬をかきながらトワはクロードたちについて話した。
「それなら安心だな!俺の方は”サキュバス”と昨日来た”エリスティナ”が信頼できる仲間になるかな。
まあ、ティナには申し訳ないが、丁度いい肉体を見つけるまでは『幽霊体』でいてもらうしかないけどな・・・・・・」
「この幽霊体は普通なら出来ない事が出来るので楽しいですわ。確かに物が持てないのに最初は苦労しましたが、<魔力操作>を覚えて以来以外とこの体の方が楽だと思ってます」
ティナに<魔力操作>を教えたのはクオンである。霊体の魔力があるのか不思議に思うだろうが実のところ”幽霊=魔力”であり、”幽霊体=魔力体”と言う図式になる。この事はクオンしか知らない。
「魔力操作はいいがそこまで自由のあるものなのか?」
「トワの疑問も分かるが、ティナがしている作業は全て魔力操作になるぞ」
その言葉に驚いたトワはエリスティナの方を向く。そう言えば先程からポットを手に持っている。
「魔力操作は消費量や魔力配分の効率よく運用する為のものじゃないのか?」
「正確に言うと『半分正解で半分間違い』と俺は考えていると言っておこう。トワが言った部分で”魔力配分の効率化”で50%の正解で、実体のないモノに対しダメージを与えられる”この二つ合わせて正解だと考えているんだ」
トワの理解が追いつかないようだ。実の所はこの”推測”はどのくらい正しいのかクランドールに確認できていないのだ。色々と驚愕させっぱなしで若干「悪いことしたな」とクオンは思っている。
まあ、ハッキリ言って『直らないけどな!』というのは”言わぬが花”だろう。
「ふ~ん”実体のないモノに効く”か。それってゴースト系のモンスターにも効くってことだよな?」
「そうだよ。まだ可能性の段階だが、<魔力操作>を極めると”魔法”が斬れるんじゃないかと思うんだ・・・」
思考の段階であるが『高確率で実行出来る』と睨んでいる。ただかなり高次元のことなので”百年以上修練してた”上での話だ。
「そんなことが出来るかもしれないのか・・・。確かに不可能なことには思えないな。元々『魔力』自体は「魔法」に「スキル」だけじゃなく、『魔導具』に作動に使ったりと多様な利用が出来るからな・・・・・・」
トワは『魔力』の万能性に気付き、クオンの立てた仮説についてある程度の信憑性を感じた。
「『身体強化』には「魔法」と「スキル」の2種類あるが、この両者は効果が正反対なのは知っているよな?」
「「魔法」の方は一時的な効果で、「スキル」の方は永続的な効果で良かったよな?」
二人の会話をエリスティナは聞きながら、お茶菓子を準備していた。
「ティナには分かるかな?」
いきなり話を振られて、少々驚いたが自身の考えを言ってみた。
「えっと・・・「スキル」より強化率が高く、「魔法」より効果時間が長いと言った感じでしょうか?」
少しオドオドしていたが、クオンの望む答えを言ったのだろうか?クオンはそれを聞いて拍手していた。
「正解・・恐らくその通りだろう」
「なら<魔力操作>による副次的効果として”魔力強化”が肉体に行われる訳か?」
トワの言葉にクオンは頷き、こう付け加えた。
「<魔力操作>により肉体の”部分強化”も引き起こせると俺は睨んでいるよ。例えば『鷹の目』のスキルがなくても目の部分に魔力を集め、スキルほど効果はなくても役立つと思うんだ」
「そうなると一考の価値はあるな・・・」
「これの調査はトワの方でしてくれないか?俺が確認してから報告するより、トワが実験をかねて調べた方が有用だと思うんだ」
クオンは調査や調べると言っているが、大方の検討は済ませているのではないかと思うトワであった。しかしこの事が本当なら、自身の手で確認したいとトワは考えた。
「わかった。俺の方で確認しとく。話は変わるんだが、二人の意見を聞きたい」
そう話を切り出したトワの様子が気になったので話を促した。
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「よし!そいつをやってしまえ!!俺が許す」
トワの相談を聞いたクオンの反応がこれであった。
「リヴィ姉様のことをお聞きになられたのですね・・・・・・。トワ様にリヴィ姉様をお助けするお力があるなら、お願いです!力になってあげてください!!」
異世界に土下座が合ったことに驚いていたトワである。ちなみにティナは宙に浮いている。
「まあ、トワの悩んでいる部分が分かった。要は結局”奴隷になる”ことがイヤなのだろう?
なら答えは一つだろ?お前の『最初のパートナー』にしたらいいだろ?」
間違ってはいないが、あまりに極論なクオンの言葉にトワは苦笑する。
「出来ると思うのか?」
「ベルフォートとクロード様のお二人に国王にお伺いを立てていただいたら如何でしょう?」
「それが現実的だな」
ティナの言葉を肯定するクオンである。
「そのリヴィエルナと言う女のことは”好き”なんだろ?ティナにも話したことだが、俺たちには”子をなすこと”も使命の一部なんだぞ」
クオンはそう言うがトワの反応は思わしくない。
「じゃあこう聞こうか・・・・・・。
件の『リヴィエルナ』がその人獣に壊され、孕まされて平気なら見捨てろよ」
クオンの言葉が進につれて、トワの拳は強く握られ血がでそうだった。それを見ていたクオンは断言した。
「無駄な理屈を並べようとするな!お前は元々『本能型』だろ。今のお前の両手が真実であり、本質なんだ!」
「もしリヴィ姉様に負い目を感じるのがイヤでしたら、御本人と話あってください」
この後トワが決意するまで、二人の口撃は数時間止まなかった。
「分かった・・・彼女と話をしてみる」
うなだれているトワと対照的に、二人の顔は仕事をやり終えたそれだった。
「助けを求めてきたなら、”俺の奴隷になれ”って言ったらどうだ?」
少女顔でニヤニヤ笑うクオンである。ハッキリ言って違和感がハンパない。
「なんか一方的に責められていた気がするが、時間のようだな・・・・・・」
いえ、この二人は遠慮なく責めてました。
「だな。頑張れよ~」
「リヴィ姉様をよろしくお願い致します」
再びこの空間に白い靄が出てきて、全てを覆い隠した。
「本当に頑張れよ・・・」
そんな呟きが空間に響き渡っていたらしい。
前話のトワのセリフは、クオンからの受け売りでした。奴隷じゃない奴隷は、イヤって言うのがトワの考えです。
次回の更新は4月10日の予定です。
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