介護ロイド
2080年、日本人の高齢化はさらに深刻な問題となり、政府はある政策を実行した。
「介護ロイド政策」
介護施設の不足、家族の介護の負担、独居高齢者の介護など、さまざまな高齢者問題の解決の為に作られた介護ロボット政策だ。小学生くらいの小さなロボットだが、各種介護のデータや医療に関するデータが組み込まれ、もちろん会話も出来る。
そしてそのロボットは「介護ロイド」と名付けられ、対象の全高齢者に無償で与えられた。
そのおばあちゃんは一人暮らし。旦那さんは10年以上前に死に別れ、一人息子は小さい頃に事故で亡くしていた。そんなおばあさんのところに「介護ロイド」はやってきた。
「まぁ、なんてあいらしい子じゃ。死んだ息子にそっくりじゃ。」
データが調べられ、出来るだけ孫や子供に似せるように造られていた。
「そうじゃ、坊やの名前は良雄にしよう。それでもいいかね。」
息子の名前だった。
「いいよおばあちゃん、よろしくね。」
それからおばあちゃんはいつも良雄と一緒に居た。買い物の時も、寝る時も。良雄の手にはセンサーのようなものが付いており、おばあちゃんと手を繋ぐだけでおばあちゃんの体調がわかる。異常があれば、そのデータが医療機関に送られ医者が診療に来る仕組みだ。
「良雄、今日はどこに行きたい?」
「うーん、どこでもいいよ。おばあちゃんの行きたいところは?」
「わしは良雄と一緒ならどこでもええ。」
「じゃあさ、温泉に行こうよ。」
もちろん良雄が温泉など入る訳がない。適度な運動と無理をさせないというプログラムから温泉を選択したのだ。
「良雄はほんにええ子じゃのぉ。」
おばあちゃんは毎日楽しかった。自分の息子の昔話もした。良雄におもちゃもいっぱい買った。ちょっとした旅行も行った。
おばあちゃんの誕生日には良雄が料理を作った。良雄の誕生日は息子と同じ日に設定されていた。おばあちゃんは抱えきれないほどのおもちゃを買ってあげた。
しばらくしておばあちゃんは車椅子になった。食べ物もあまり食べられなくなった。
良雄は車椅子を押しながら、おばあちゃんに話しかける。
「おばあちゃん、まだまだ元気でいてね。僕がお風呂も入れてあげるし、ご飯も作るからね。」
「良雄はほんにええ子じゃのぉ。」
そして月日が過ぎ、おばあちゃんの90歳の誕生日がきた。
政府が実行した政策がもう一つあった。
「90歳往生政策」
医療の進歩で100歳以上生き続けるお年寄りが増大し、医療費や病院の数も深刻な問題になっていた。そこで政府は90歳で命を閉じることを義務としたのだ。反対派はいたものの、介護に疲れた大多数の国民は賛成した。そしてその使命を介護ロイドにも記憶させた。
彼らの手には安楽死できる注射針が仕込まれていた。
「おばあちゃん、おやすみ。」
良雄はおばあちゃんの手を握ろうとした。もちろん政策を実行するためだ。
だが、先に手を握ってきたのは、おばあちゃんだった。
力のない、少し震える手で。
「良雄はほんにええ子じゃのぉ・・・ありがとうね・・・・」
おばあちゃんはやさしい笑顔を浮かべながら、静かに目を閉じた。