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変なやつまとめ

15 - 注文

作者: 櫻井ゼノン
掲載日:2026/04/23

「いらっしゃいませ、ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


店内に入るなり、私は唐突にそう確認を取られた。

なるほど、私は既に何かを注文したらしい。


「あっ、はい」


「かしこまりました。それではお先にどうぞ」


席ではなく先と言われても、何をしたら良いものか。

悩んでいても仕方がないので、店内を見渡しつつ考えるが、

特にこれといって何をすべきか思いつかなかった。


私はおずおずと、申し訳なさそうに店員にその旨を伝えた。


「すみません。パッと思いつかなくって」


「では、こちらお下げいたしますね」


あぁ…どうやら失敗だったようだ。

何かを下げられてしまったらしい。


私は了承の意を込め小さく頷き、店員とカウンター越しに無言で見つめ合うが、

この後どうしたら良いのか見当がつかない。


ここで待っていても後から来た別の客の邪魔になるだろうし、

とりあえず席で待たせてもらえないかと、そわそわとし始めた。


「あの、すみません。どこか席に座っても良いでしょうか?」


「ご予約のお客様でしょうか?」


「あ、いえ」


「すみません。ただいま満席となっておりました」


「あっ…はぁ…」


あー、満席となって…おりました。おりました、か。

うーん、ということは空いているのだろうか。


「えっと…座れるんでしょうか?」


「ごゆっくりどうぞ」


ああ良かった。どうやら座れるようだ。

しかし、どこに座れば良いのだろう。


案内をしてくれる様子もないし、

店内を軽く見回してみても、席は空いているような、空いていないような、

どちらとも言えない雰囲気だった。


もしかして、そもそもテイクアウト式だったのか。

いや、席には座れるんだ。

やはり席で待っていれば良いのではないだろうか。


「あの、どこに座れば良いのでしょうか?」


「アレルギーなどはございますか?」


「あ、いえ。特には」


「申し訳ありません。そちらの方は、本日の分は終了いたしました」


なにやら遅かったようだ。うーん、座れないのか。

アレルギーがあれば優先してもらえたのかもしれない。

では、さっきの「ごゆっくりどうぞ」はなんだったのだろう。


ああ、そうか。席に座れるとは言っていないもんな。

床に座れということだったのか。…しかし、床に座るのはちょっとなぁ。

まぁ、仕方ない。立ったまま待たせてもらおう。


「あ、分かりました。では、ええと…このあたりで待たせてもらいます」


「カウンター席でよろしいでしょうか?」


ここに席らしい席は無いのだが、

どうやらこのレジ前に立っている状態をカウンター席と呼ぶようだ。

私は「立見席」のようなものと解釈した。


「あ、はい」


「フォークとスプーンはお付けしますか?」


「あ、ええと…お願いします」


「少々お待ちください」


私は店員からフォークとスプーンを一つずつ手渡された。

とりあえず両方の手にそれぞれ持っておく。


両手の銀色に輝く棒状の物を眺めながら、私はぼーっと考えていた。

そういえば、私は一体何を注文したのだろう。


空腹を感じるが、食べるものがない。

ここで待っていて、何か提供されることがあるのだろうか。

…ああ、そうだ。今から追加で注文すればいいのか。


「あの、追加注文お願いできますか?」


「何名様でしょうか?」


「あっ、一人です」


「本日はご来店いただき、まことにありがとうございます」


店員さんが深々と頭を下げたので、私もつられて頭を下げた。

しかし、私はただお店に来ただけなので、少々大げさに感じられた。


「あっ、あぁ、いえ…」


「それでは、繰り返させていただきます」


「えっ? あ、はい」


「本日はご来店いただき、まことにありがとうございます」


もう一度店員さんが深々と頭を下げた。

二度目だったので、私は軽い会釈で済ませておいた。


「ああ、ご丁寧にどうも…」


「当店のポイントカードはお持ちでしょうか?」


「あ、持ってないです」


「分かりました。お気をつけてお帰りください」


「えっ? あ…はい」


あぁ、ポイントカードがなければそもそもダメだったのか。

今から手続きを…いや、もう遅いのかな。帰りを促されてしまったし。


「あ、ええと…それでは…」


私は店員にもう一度頭を下げると、店から出た。

結局何も食べることができなかったし、

何かを注文したのに会計などしなくて良かったのだろうか。


私は店から出て少し歩きながら、妙な気持ちでぽりぽりと首の裏をかいていると、

店員が慌てた様子で私を追いかけてきた。


「お客様、お忘れ物ですよ!」


ああ、そうだった。

フォークとスプーンを返却するのをすっかり忘れていた。


私がそれらを店員に返そうとすると、

もう一人の店員がトレーを持ってこちらへ向かってきた。


「お待たせいたしました」


トレーを見ると、オムレツ、エビフライ、ハンバーグやスパゲッティなどがあり、

オムレツには、楊枝に日本の国旗のついたものが刺さっているような、

しっかりとしたお子様ランチのセットがそこには乗っていた。


「こちら、次回使えるクーポンとなっております」


私はクーポンの紙と一緒にトレーを受け取ると、

それらを差し出してきた店員に頭を下げた。


「またのお越しを、お待ちしております」


二人の店員はそう言って私に頭を下げると、

店内へと戻っていってしまった。


私は料理が乗って重たくなっているトレーの端を、片手で慎重に持ちながら、

もう片方の手で、ケチャップのかかったオムレツをスプーンですくって食べた。


オムレツはできたてで温かかった。また、食感がふんわりとしており、

甘めなケチャップとの相性も良く、鼻から抜けるバターの香りも心地よくて、

一口食べただけで、思わず「あ、おいしい」と声がこぼれてしまった。


私は路上でトレーを持って、そのお子様ランチを食べながら、

やや遠くから、先ほどまでいたお店を眺めた。


なんだか良く分からなかったけど、料理はとてもおいしいし、

クーポンももらってしまったことだし、また今度来てみようかな。


春の穏やかで暖かい風が、ふわりと私の肌を撫でていった。

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