みじかい小説 / 024 / ショートケーキ
今日をもって、後期高齢者となった。
つまり、今日、僕は75歳の誕生日を迎えた。
この年になると誕生日といっても特別の思いはなく、ただいつも通りの一日が訪れているといった印象だ。
だが、僕はあえてスーパーでショートケーキを買った。
定年退職をしてから調べたのだが、あまりにも変化がなく単調な日々を送っていると、認知症が早く訪れてしまうという。
だから誕生日というイベントを大きな変化としてとらえ、自ら大げさに祝うことにより、認知症防止をはかろうと目論んだわけだ。
特別甘いものが好きというわけではないのだが、誕生日といえばやはりこれだろう、ということで、数あるケーキの中からショートケーキを選んだ。
家路につきながら、この十年を振り返る。
65歳で仕事をやめて以降、僕は貯金を崩しながら生活していたが、二か月前にそれも底をつき、先月から生活保護のお世話になっている。
もっと貯金しておくべきだったと思ったが、就職難で一度も定職についたことのない僕だ、こうなることは分かっていた。
老後、贅沢はできないと最初からあきらめていたため、今の生活に不満はない。
むしろ国のお世話になることで、まるで国に守られているように感じられて心強い。
その点、日本に生まれて本当によかったなと思う。
あとは死ぬまでの時間をどう過ごすかという問題が残っているが、僕は本が好きなので、毎日図書館に行ったり本屋に行って立ち読みをしたりして過ごそうと思っている。
それに、今では誰でもネットで文章が書ける時代だ。
死ぬまでの間、暇つぶしに日記のようなものをネットで公開してみても面白い。
こんな僕だけれど、せめて生きた証をネットの海に流そうと思う。
そういえば今日は75歳の誕生日だ。
よし、今日から始めてみるか。
そう思い立った僕は、足腰が弱っているのも忘れて、いつもより軽い足取りで家路についたのだった。
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