そんな世界に転生したら俺は神様にだって……33
入ったお店はとてもシックな内装で、個人経営の喫茶店のような落ち着いた雰囲気であった。
「安心しろよ、前みたいに実は酒だったなんてこと、今回はないからさ」
メニューの内容が分からずににらめっこ状態だった俺の前に、代わりにダリルが頼んでくれた黒い飲み物が置かれた。
あの醜態を見られていたことの恥ずかしさもあるし、そう思うと任務以降は俺の方がお世話になっているのではないか?
「……あの任務で、ダズさんと一緒に戦った時、本当に死ぬかと思ったんだ。マルコはどうだった? お前は、そんなピンチにはならなかったか?」
ダリルは目を伏せながら問いかけた。
「…………まさか! もう、何回死ぬかもしれないと思ったことか!」
マキラとの戦闘もさることながら、馬車でどれだけ怯えていたのか、覚えてないのだろうか。そもそもで言えば、ロッカ村のティマリール教会事件ですら、マジでビビっていたのは……ダリルは覚えていないか。
しかし、ダリルはやや驚いているようだ。
「そ……そうなんだな……。いや、魔王神とやり合うような奴、自分が死ぬなんて考えないのかと思ってよぉ」
そう呟くと、ダリルは自身の目の前に置いてあるグラスを見つめて、深くため息をついた。
「俺は、あの灰色の魔物と対峙してから思ったんだ。『死にたくない』って。俺の実家は、貧乏な大家族でさ、兄妹が何人もいるんだ。ははっ、みんなの顔が何度も浮かんだよ」
乾いた笑いを挟みながら、ダリルは続けた。
「同時に、『今死んだら、俺の周りはどうなるんだ?』とも考えたね。そこからはどんどん、余計な事を考えちまってさ。『俺が死んだ時の問題は、解決されるのか?』とか、『俺がこんな思いをしてまでやりたい事って、あったのか?』とか」
ダリルはグラスを掴んで、飲み物に口を付ける。勢いよく、三回ほど喉を鳴らして流し込むと、再び長い息をついて、俺を見つめた。
「そしたら思ったよ。『ここで死ぬのならそれまで』だって。そう思ったら、一気に視界が晴れてよぉ、……俺って、おかしくなっちまったのかな? お前にはそーゆーの、なかったか?」
まるで自問自答するように、ダリルは頭を抱えた。
死んでしまうのが怖い、そんなの当たり前だ。俺にはダリルの言っている感覚に、一切共感できなかった。
しかし、俺の場合を思い返すと、恐怖よりも怒りが勝っていたように思うし、自分の死をリアルに想像はしていなかったように思う。要は、視野の狭窄と、想像力や危機意識の欠如である。
敢えて共通点を挙げるとするならば、俺たちは二人とも、強大な敵との戦闘中であったことだろうか。お互いに、圧倒的な力を前にして、生存本能が働いたのではないだろうか。
恐らく俺のそれは、思考の放棄をしている気がするし、ダリルのそれは、恐怖をなんとかコントロールしたように思う。
「……ダリルさんはきっと、逃げられない敵を前にして、恐怖に勝ったんですよ。それはとても凄いことで、僕なんかはとても……」
ダリルには、俺の言葉が謙遜に聞こえているのだろうか。これは、間違いなく俺の本心である。
そして、そんな俺が頭に思い浮かべたのは、そんな危機的状況に立ったことのないであろう、ユウナ姫であった。
彼女は自身の死を、本当に乗り越えているのだろうか。




