そんな世界に転生したら俺は神様にだって……30
ライラが何も言わないので、この場に流れる沈黙にプレッシャーを感じた俺は、邪魔しない程度にメイと会話をしていた。
「……そう言えば、国王様やユウナ様は、あの講堂に訪れたりするんです?」
やや小声で話しかけると、メイもそれに合わせてこそこそと返事を返す。
「……お二人があそこに足を運ぶことは、ほとんどありませんね。ユウナ様は今でこそ同席できますけど、以前は近くにいるだけで、壁越しでも体調を崩す者がいましたから……」
ユウナが講堂に寄り付かないのは、ティマリール教徒たちへの配慮によるものなのだろう。彼女のあの性格なら、それくらいは考えそうだ。
「国王様が来ることも……ありませんね。あそこはヴァーレ国王軍の兵士が集まるところですし、統括自体はレオン様ですから。ティマリール教でなければ、足を運ぶところでもありませんし」
国王がティマリール教徒でないのは、ヴァーレ国王軍でも有名なのだろうか。
昨日話をした時には、国木田鞠はただの女の子で、神様なんかじゃないと彼は言っていた。そんな国王が、礼拝なんてする訳ないもんな。
「じゃあ……二人とも、神信力は使えないってことですよね?」
「どうでしょうか……、国王様が神信力を使えるといったことは、聞いたことがありませんね。ユウナ様も、まさにティマリール神の権化のようなお方ですが、神信力を使えるのかまでは……」
メイの情報では、二人とも神信力が使えるかどうかは明確ではないらしい。
「ユウナ様が生まれてからは、ヴァーレ城の周辺から城下町までの一帯まで、魔物の目撃情報がなくなったそうです。当時はあの講堂にあるティマリール神像などもない中、ヴァーレ城からの加護だけでそこまで至るのは、相当な事ですよね」
そんなユウナが神信力を使えたら、俺やメイよりもすごい白魔法が使えそうだな。なんて、そんなこと考えてたら、また国王に牢屋入れられてしまうね。
そんな話をしていたら、ライラが突然俺たちの方を振り向き、丁寧に頭を下げた。
「────すみません、お待たせ致しました。ありがとうございます」
少しだけ晴れやかな表情をしているライラ、しかしメイはどこか申し訳なさそうにしている。
「いえ、こちらこそ…………本当にもう大丈夫ですか? ご案内した手前、こう言ってはなんですが、ここに何かがあったとは……」
メイの言う通り、改めて見渡しても何か目立ったものもなく、少なくともオスマンの言っていた、神様を見たとされるような場所とは到底思えなかった。
「ええ、確かにティマリール神様が現れた形跡などはありませんでした。メイさんたちのような方々が拾えない証左を、私が見つけられるとは思っていません」
しかし、ライラは変わらずに明るい表情で歩き始める。
「それでも、実際に来てみたかったんです。何故ここなのか、本当に神様だったのか、きっと我々には想像も出来ないからこそ、……偉大な存在なのでしょうね」
彼女は微笑みながら、そう呟いた。人間には分からないから、神様は偉大なのだと。国木原たまりを知っている俺が忘れがちなことを、改めて教えられたような気分だ。
そして、ふと考えてみる。国木原たまりが、特に当てもなく、ふらっと散歩するように顕現する様子。
それはとても、可愛らしいなと思ってしまった。なんだ……俺もまた、国王様と同じようなことを考えているみたいだね。ティマリール教徒としては、俺もまだまだのようである。




