そんな世界に転生したら俺は神様にだって……18
先ほどまでの笑顔から、少しすました表情を浮かべるユウナ。
「…………お話は、聞けていません。父に気付かれないように隠れるのが精一杯でした。……普段はこんなこと、しないんですよ?」
右目だけ瞑って、まるで作り上げられたような表情のユウナに、真意を読めない俺は気が気ではなかった。
彼女が何をしたいのか分からず、俺から口を開くことが出来ない。只々、彼女が話し始めるのを待つばかりである。
「マルコ様は……マリという方をご存知でしょうか?」
これには動揺したね、さすがに。
今、俺はどんな顔をしているだろうか。彼女にこれが、伝わっていないだろうか。
そしてなにより、さっきの会話は本当に聞かれていないのだろうか。そんなことばかりが、一気に脳裏をよぎった。
「ユウナ……は、その名前をどこで……?」
肯定も否定もせず、質問で返してしまったところ、ユウナは格子を掴んで詰め寄ってきた。
「もしかしてっ、何かご存知なのですかっ!?」
突然様子の変わったユウナにたじろぐと、ユウナ自身もそれを察したのか、我に返ったように身を引いた。
「も、申し訳こざいません……。まさか、本当にご存知とは思わず……!」
「いやっ、俺も知っているワケじゃないけど……!」
反射的に嘘をついてしまったが、それでもこれをバレてしまう訳にはいかない。
「それで……その、マリさんっていうのは、誰かから聞いた名前なのかな?」
ゆっくりと落ち着きを取り戻していくユウナが、少しずつ口を開いた。
「直接聞いたわけではないのですが……以前、父が一度だけ口にしたのです。その時の父の声が、表情が、どうにも忘れられないのです」
ユウナは、先ほどまでの明るさを抑えて、真摯な態度で俺に話し続ける。
「恐らく、私の周りにいる方ではないと思うのです。一体どなたなのか……何故、父はあのように名前を……」
既に俺への語りではなく、自問自答するように言葉を呟いていた。きっとその答えは、彼女の中にはないのだろう。
その名前を聞かれたことも、国王様の落ち度であっただろう。しかし、俺にはそれを非難することはできなかった。
家族と予期せぬ別れをして、突如この世界で生まれ変わり、再び娘が命を落とそうとしている。
それは、どれだけ辛いことなのだろうか。どれだけ心を蝕むのだろうか。きっと俺には、皆目検討もつかないだろう。
「ユウナは……そのマリって人と会ってみたいの?」
俺の問いに対して、彼女は目を伏せた。
「どうでしょう……、マリさんに会って、この気持ちに整理がつくのか、それは分かりません……」
彼女自身も、自分がどうしたいのかが明確に分かっているようではないらしい。
「父は、私たち家族をとても大切にしてくれています。ですが、マリさんという方に、何か特別な想いがあるのではないか……、そんなことを考えてしまうのです」
彼女の想像は、概ね間違っていない。しかし、彼女が抱く不安には至らないことを、俺には伝えることができなかった。
「私は、父の愛を疑っているのでしょうか? 私は……何を恐れているのでしょうか?」
こんなにも愛情を注いでいる相手に、それが伝わらないことが、こんなにも切ないことを、こんなにも歯痒いことを、俺は思い知らされることとなった。




