そんな世界に転生したら俺は神様にだって……15
国木原たまり……本名、国木田鞠さんは、突然この世からいなくなった。
『人気アイドル、交通事故で死亡』、『家族を乗せた車に激突、睡眠不足が原因か?』の見出しは世間を少しだけ騒がせ、そのまま徐々に風化していった。
アイドル全盛期と言われた時代を超え、誰しもが自身を配信することが出来た時代に、数あるアイドルの一人でしかないたまりるの訃報は、簡単に他のニュースで埋もれてしまったのだ。
それでも、大勢のファンが悲しみに包まれたのは間違いなかったし、俺もその一人であった。
「……マリが神様だなんて、面白い冗談だと思っていたけどね。実際にこうなるとなかなかどうして……」
俯く国王は、乾いた笑いに混じってため息を漏らした。
「正直、君が何故マリの事を覚えているのかは分からないが、君が頼りになる存在であるのは間違いない」
その言葉と視線に、緊張で俺も背筋が伸びた。
目の前にいるのは最推しアイドルの父親、その父親に頼られるという状況。……いや、これどういう状況?
世間のオタク的に、推しのお父さんってどういう立ち位置なんだろうか。知り合いたいかどうかで言えば……なるべく離れたい存在だと思うんだけど……。接触の多いアイドルとかだと、根本的に考え方が違ったりするのかな?
ただ、これは恐らく共通の思いであろう。
「お父さん……ありがとうございます……!」
「……何の感謝か分からないが、君にはまだお父さんと呼ばれる筋合いはないはずでは……?」
推しの誕生から始まり、ここまで育ててくれた人間への感謝を、俺たちオタクはいつだって忘れないものだ。そういえば、僕が偉い人になったら、推しの父と母に国民栄誉賞をあげる〜みたいな曲があったよな。今回偉い人になったのは、推しの父親の方だったけど。
それに今の発言、君にはまだ、と言ってくれている。こんな頭のおかしいオタクだったのならば、君にはもう、と言うべきだろう。まだチャンスがあるみたいじゃないか。
「……婚約の話は、僕に記憶があったから……ですか?」
国王はあの時点で、俺の記憶について気付いていたはずだ。そういう理由ならば、この唐突な婚約話にも、まだ納得もいく。
「それは違うな。さっきも言った通り、娘の幸せとレオンの推薦、魔王神討伐における実績もあったのが理由だ。だが、そのような人間ならば、娘の呪いを解くのにも、力になりそうだと考えたのも事実……」
国王は、まるで祈るように俺に問いかける。
「マルコ君……ユウナを救う方法に、心当たりはないかい? どんなことでもいい、君だけが頼りなんだ……!」
何も知らないことが申し訳なくなるくらい、悲痛な思いが伝わった。
国王にとって、たまりるもユウナ姫も、愛する娘であることは間違いない。そしてたまりるはティマリール神という神様になり、ユウナ姫の短命にはティマリール神が影響しているかもしれない。
自分の娘の力で、自分の娘が亡くなってしまうなんて、そんなこと受け入れられるワケがない。
「すみません……、今の僕には、何も分かっておりません」
まずは素直に無知を謝罪する。それに対し国王は何も言わず、顔も上げることはなかった。
「今は何も分かりません、ですが……」
俺も決心しよう。もし、本当にティマリール神の影響なのだとしても、きっとたまりるが望んでいるとは思えない。
やろう、俺にできることは、なんでも。
「…………僕にも、協力させてください。必ず、娘さんを助けます」
国王は変わらず下を向いたままだったが、か細い小さな声で「ありがとう……」と聞こえた気がした。




