誰かの手記②
三日目────
まるでふわふわと浮かぶように、この世界を漂っている内に、ふと思い出したことがある。
私はここではない、別の世界で生きていて、ある日不慮の事故で死んでしまったのだ。
その日は家族で少し遠出をすることとなっていた。私はその頃、仕事がとにかく忙しくて、家族との時間が取れていなかった。
そんな中で、その日だけ偶然ぽっかりと予定が空いたのだ。
家族に会えていなかったのは、いつもどこかで気にかかっていたので、久し振りに……と連絡をしたところ、みんなで出掛けることとなったのだ。
母はきっと喜んでくれて、ウキウキで父に運転を依頼したのではないだろうか。
そして父は、やれやれといった様子で了承したことだろう。普段からあまり口を開く方ではないが、母のことが大好きなのは、娘の私には良く分かっていた。
その事故は、あまりにも一瞬だった。
運転席に父、助手席に母、そして後部座席に私。いつまでも喋り続ける母を相手していたのは私であった。
どんな話をしていたのかは、あまり覚えていない。学生時代の友達を見かけた、みたいな。そんなたわいのない話だっただろう。
その時走っていたのは、随分とスピードの出る道だったか。突然視界が一気に揺らぎ、車体が振られたように思う。
そして遅れて襲ってきた衝撃で体が浮き上がり、シートベルトに締め付けられる感触がした。
視界の端で、窓の外に別の車が至近距離に見えた時、ぶつかった衝撃であることが分かった。
そのまま私たちの車がどこかにぶつかると、車体が轟音を響かせながら転がった。
反射で目を瞑ってしまったが、その衝撃が収まった頃には気分が悪くなってきてしまい、痛みを感じるまでもなく、意識を保ち切ることができなかった。
誰も声を上げず、外から車が横切る音だけが耳に届き、そのまま私の視界は目を瞑った時の暗闇のまま、意識を失った。
あれは、本当に不慮の事故であった。
だから私は誰も、何も恨まないし、今となっては後悔も感じていない。
人は皆、いつかは生涯を終えるのだ。勿論事故は起きない方がいいし、予防や対策は必要だ。でもそれは、今の私が預かり知るところではない。
やり残したことはあるが、死んでしまったのであればもう仕方ない。ただ、私が突然いなくなって困る人間がいたのであれば、それは本当に申し訳ないと思う。
さて、そんな私は今、この世界を一望する空の上にいる。何故ここに来てしまったのか、ここで私は何をするべきなのか、その答えは未だ見つからない。
そこで私は、この世界での記録をつけることとした。
それは何かのヒントになるかもしれないし、もしここに誰かが来た時に共有できるかもしれない。
それに、私は比較的お喋りな方だ。既にこのような独り言(?)をするくらいには。そんな趣味のような一面もある記録。
しかしこの世界、時間の進み方がどうにもハッキリと分からないのが難点である。一旦、今回の記録は三日目としよう。意識を取り戻してから大体それくらいという、便宜上の日にちではあるが、とりあえず私が分かればそれで良い。概ね間違ってはいないだろう。
いつかこれが、誰かを助けることに使えたら幸いである。




