そんな世界に転生したら俺は神様にだって……13
止まったのは呼吸だけだった。心臓の鼓動まで止まるくらいの衝撃ではあったが、なんとか耐え切ってみせた。そのまま時も止まってくれないか、なんて思うも、残念ながら二人の間に沈黙が流れ続けた。
「……誤魔化す必要はないぞ。ここには我々の二人しかいないし、君を取って食おうとも思っていないさ」
誤魔化すどころか、狼狽える様子すら見せられなかった俺に、国王はそのまま続けた。
「君は娘を……『たまりる』と呼んだね? 他の魔術師や聖職者は皆、娘をティマリール神だと言うんだ。もしくは、ティマリール神の化身か。たまりる……訛りというには違和感があると思うんだ」
国王は淡々と話を続けた。その口調からは俺を咎める訳でもなく、知識を披露しているような自信も感じない、まさしくただの説明といったところだ。
国王には俺の呟きが聞こえていたようだ。それに、ただ聞こえただけではないのだろう。聞こえた上に、その意味が分かったのだ。
「……国王様にも、その記憶があるのですか?」
こちらから先に手の内を明かさまいと、ギリギリで出した質問に、国王は少しだけ余裕の笑みを浮かべた。
「……私の質問にそう返すということは、肯定していると捉えようか。……そうだね、ワシにもあるよ。こことは違う、元いた世界の記憶が……」
そう答えると、国王は座ったまま後ろの壁にもたれかかるように体を反らし、遠くを見つめるように目を細めた。
俺の前に初めて現れた、前世の記憶を持つ人間。
自分が特別だなんて思ってはいなかったが、突如目の前に現れるそれに、俺は何の準備もしていなかった。
そして、またマキラの言葉を思い出す。
『────先のものたちを本物とするならば、偽物のような者が現れたではないか……? マルコ、お主の様なヤツじゃ』
『────再三言っておるが、我々はこちらに危害を加えるような者しか相手にせん。そこの小僧や、その国王のような輩以外には、な』
奴は俺のことを偽物だと表現した。それに戦闘後の話では、俺と国王を並べていたことに違和感があった。あの時点で危害を加えていたのは国王並びに国王軍だったから。
マキラにとっては国王も、俺と同様に偽物であったのだろうか。
「……実はワシも、前世の記憶を持つ者と話すのは初めてなんだ。どうだろう……是非腹を割って話せないだろうか?」
国王は決して、強気な態度を取ることはなかった。その態度から俺は、この人の優しさよりも、疲れ果てたかのような弱々しさを覚えた。
「例えばそうだな……、君は国木原たまりを知っているはずだ。……どういった関係か、教えてもらえないかい?」
遂に国王の口から、たまりるの名前が出てきた。間違いない、この人は俺と同じ世界に生きていた人だ。
「……自分は、ただのファンです。彼女からは……認知もされてないかと……」
俺の返事に対して、俯きかけていた国王はぱっと俺の目を見た。
「なっ……!? えっ…………ファン?」
しかし、どうにも想定外な返事だったようで、国王は吃りながら俺を観察した。
この感じ、国王と顔を合わせた時にもあったな。俺の顔を見ても全然ピンとこない、今ひとつな表情。どうにも俺は期待に答えられない男であるようだ。
「ああ……いや、すまない。今までは何らかの関係性があったから、そういったことを想定していたのだが……そうかそうか……」
「今までは……!? えっ、他にも誰かいるんですか!?」
国王のその発言に、俺はすぐさま飛びついてしまった。
今までもいたのだろうか? 前世の記憶を持つ人間が。いや、さっき初めて話すって言っていたはずだ。
しかし、国王は国王で、話の進め方を考えているようで、額に手を当てながら話を続けた。
「そうだな……どこから話すべきか……。だが、君には色々と聞いてほしい。その為にこのような場を設けたのだから……」
国王は、深いため息のように長く、息を吐いた。




