そんな世界に転生したら俺は神様にだって……12
豪華な食事の後は、立派な浴場での入浴であった。俺一人で貸切状態の大浴場は、その大きさに反してあまりにも静かで、正直あまり落ち着かなかった。
ちょっと泳いでみようかと思ったけど、もし誰かに見られたら怒られるかもしれん、そう思うとはしゃぐことも出来ず、結局ほどほどのところで退出することにした。
最後に案内されたのは、寝室だと思われた。今までの豪華さを思うと、こじんまりしている様にも見える個室。
華やかさに溢れた通路から離れ、身に染みるような冷たさを感じる硬い壁。
室内には質の良さそうなベッドが一台鎮座しているだけ。後は壁、そして鈍い色で輝く鉄の格子。
この世界にはまだ疎いことを再認識させられる。大国ヴァーレの寝室は、まるで牢屋のような作りなのだな。これでまた、この世界への知見が深まったということだ。
「……………………」
そんな訳ないよね。流石に。
状況を整理しよう。浴場を出て支度を整えた後、俺は近くに控えていた警備員の様な人に声をかけた。
その男性は、上の人間から指示を受けていたようで、そのまま俺を連れてここまで歩いてきた。
彼も正直、こんな状況に慣れていない様子で、「自分には何も聞かないでください」みたいな、そんな緊張感があったように思う。俺が助けを乞う目で見ていたのに、あっさりとその場を立ち去った時は、人の心とは何なのかと自問したが、彼も彼なりに新人看守のような葛藤があったのだろうか。
まぁ、そんなことは置いといて。
俺のいる牢屋は、ひとつだけある頼りない明かりで牢内の様子は分かるが、すぐ横の通路の先までは暗がりとなっていて、その先に何があるのか、誰かいるのかすら分からない。
こんなことになった原因と言えば、本日の一件しかない。国王からのお誘いを断ったことにより、俺は罪人として捕えられたのだ。
いくらなんでも酷すぎやしないか? こんな謂れのない収監、断固として無罪を主張する声を上げるべきだろう。
そんな決心をした頃に、俺が歩いてきた方から音が聞こえてきた。扉を開けて、こちらにゆっくりと歩いてくる音。
もしかして……執行人が来た?
「……やぁ、マルコ君。居心地はどうだね?」
牢内の明かりで顔が認識できる辺りまで来たのは執行人ではなく、ユージオ国王である。
先ほどの格式を感じる装いから代わって、非常に質素なこの世界の私服を着ている。雰囲気のある白髭もあるが、こう見ると一般的な男性とほとんど変わりない。
俺をここにぶち込んだ男が目の前に現れたのだ。今はとにかく説得だ。理路整然とした論理の元、冷静に俺の無実を証明しなくてはならない。大丈夫、俺ならやれる。自分を信じろ、俺。
「あのあのあのっ! 違うんです! 本当に! あのっ、とりあえず話をっ! 話を聞いてくださいっ!!」
やっぱり無理だった。何が理路整然だ、俺は今牢屋に入れられて、いつでも俺をしょっぴける権力者が目の前にいるんだぞ? 慌てるに決まってるだろ。
しかし、国王は俺の哀れな命乞いなど聞く様子もなく俺の前を通り過ぎ、近くの明かりを灯して奥に進んだ。
奥にはシンプルなテーブルと椅子、テーブルの上には銀色に輝く見慣れない器具がいくつか置かれていた。
もしかしてアレって……拷問器具? ヤバいヤバいヤバい、本当に怖いって!
「……? なに、そんなに怯えることはない……」
国王は付近の椅子を掴むと、そのまま俺の前に置いて腰をかけた。
別の拷問器具を手にしている様子はないが、この状況で怯えるなという方が無理な話だ。
「スマンな、マルコ君と二人で話をしたくてね。このような形を取らせてもらったよ」
「そっ…………そーなんですねぇ〜……?」
昼間とは違う、少しラフな話し方の国王に、声が裏返る程の緊張が走る。
そして、少しの間を置いて、国王が口を開いた。
「君さ……、前世の記憶あるでしょ?」
その一言に、俺の呼吸は止まってしまった。




