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推しが神様の世界に転生したのならば俺は……  作者: 大坂オレンジ
そんな世界に転生したら俺は誰にだって……
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そんな世界に転生したら俺は誰にだって……⑤

 ヤバい、流石にこれは、明らかにマジでヤバい状況だ。

 何とかしないといけない、というのは分かる。だが、ここで俺に何ができる?

 既に説得なんて状況ではないし、戦闘なんてとんでもない。彼女の放った神信力は、今の俺には到底使えない力だ。それを持ってしても、彼女はやられてしまったのだ。ちょっと体が丈夫になった程度の俺が彼らを止めるなんて不可能だ。

「いいかお前ら! 今からここは俺様ダリル・ロリンチ様の支配下になった! これからは俺様の言う通りにするんだな!」

 動きを封じたライラをノブタに引き渡すと、ダリルは大声で宣言をした。その発言の意味を汲み取れない子供たちも、絶望的な状況であるということは分かる。我慢をしていた数名の子供も遂に泣き出してしまい、講堂内はまさに地獄絵図と化してしまった。

 泣き叫ぶ子供たちと、それを宥めつつもなるべく目立たぬように身を潜める大人たち、ライラを抑え込みながら相変わらず無表情のリッツとノブタ、今にも高笑いをしそうな敵の主格ダリル。

 ここで動き出せる人間など誰がいようか。そう思った瞬間、その状況で動き出した人間がいた。

「ダリルよ……ここまでにせんか……?」

 運営じいさんが、ゆっくりとダリルたちに近づいて行った。その声には強い怒りなどは感じず、淡々と諭すような声色だ。

「なんだ、どこの老いぼれかと思ったら、昼行灯のオスマン村長じゃねーか」

 ダリルは鼻で笑いながら言い捨てた。おいおいあの爺さん村長だったのか、全然気付かないってか全然知らなかった……。

 そういえば先日『運営』呼びした時、変に納得してたような気がしたけど、俺の想像した以上のコンテンツを運営してたってこと? いや、村をコンテンツって表現するのはズレ過ぎだろ。

「お主、さっきは公務とか言っておったが、ヴァーレの国王がこんなことを指示するわけがない。恐らく今回のこれはお主の単独行動であろう、……何が目的じゃ?」

「なんだ、ボケ老人のくせに察しがいいな……。確かに、これは王国からの命令じゃない」

 得意げに話し始めたダリルは武器を持ち直すと運営じいさん、オスマンに向き直った。

「俺様はこんな辺境の駐屯兵として終わらねぇ、もっともっとのし上がってやる! これはその始まりといったところだな」

「お主が現状に満足していないのは知っとった。じゃが……いくらなんでもやりすぎじゃ馬鹿者、こんなことをしてヴァーレ王国にバレないとでも思っておるのか?」

 静かに諭されるも、ダリルは余裕の表情だ。棍棒を地面に叩きつけて周りを威圧した。

「そうだなぁ、確かにこの場にいる人間がここから逃げ出せばバレちまうかもしれねぇな」

 既にリッツが入り口に位置取り、建物外に逃げようとする人間を牽制している。

「勿論、ここから誰も出すつもりはないぜ? どうせ奥の倉庫にいくらか食料があるだろ、多少の籠城なんて問題ないさ」

 ダリルはちらりとライラの様子を見た。先ほど受けた一撃から彼女の意識は朦朧としており、俯いて呻き声を漏らしている。

「あとは邪魔になりそうなこいつと、あんたを叩けば終わりだ。────悪く思うなよっ!」

 駆け出したダリルに、全く臨戦態勢を取らないオスマン。再び容赦なく振り払われた棍棒は、オスマンの腹部に直撃して上空に跳ね上げられ、そのまま地面に叩きつけられた。

「……ぐふぁっ!」

 オスマンの呻きが講堂内に響く。聞くに堪えない、非日常の音だ。

 腰も曲がったノーガードの爺さんを、思い切りぶん殴るダリルの所業は、まさにライラの言う通り、人のそれとは思えない狂気を孕んでいた。

「うっ! ……はぁっ……はぁ……」

 死んでもおかしくない受け方だったが、オスマンのせき込む様子から、なんとか無事だということが分かった。

「今ので意識を保てるとはな。老いぼれとはいえ、神信力の持ち主はタフだな」

 棍棒を肩に乗せたダリルを、膝をついたオスマンは息を切らして見上げた。

「はぁ……、お主の方は……大したことないのぉ……はぁっ……これでも、まだ分からんか?」

「何がだ? 今の俺には、目の前に死にそうな爺さんが横たわってる、ってことだけは分かるんだけどな?」

 するとオスマンは、皮肉ったように鼻を鳴らして笑った。

「ふっ、……この老いぼれを一撃で沈められないお主の力なぞ、たかが知れておる。それともなにか? 老体を労わって手加減でもしてくれたか?」

 明らかに劣勢のオスマンが振り絞る煽りに、今まで張り付けたように保たれていたダリルの笑みが消えた。殺意すら溢れる冷たい視線に、俺の方にこそ緊張が走る。

「あぁ? ジジイ……どうやらさっさと殺されたいみたいだな?」

 言うや否や、ダリルは何故か振り向いて後ろに進んだ。その先にあるのは、講堂の奥に佇むティマリール神像だ。

「知ってるぜ? この村に魔物が寄らないのは、こいつがあるからだろ?」

 棍棒を片手で振り回しながらティマリール神像に近付くダリル。何をしようとしているのか気付いたのか、オスマンは途端に焦り出した。

「馬鹿者……! そんなことをしたらここがどうなると思う!? 魔物に対抗できる力のないこの村の人間がどうなるか……!?」

 オスマンの制止などまるで聞きもせず、ダリルはティマリール神像の前に立った。

 ちょっと待て、アイツまさかティマリール神像を破壊する気か? まさか、俺の目の前で?

「これでお前ら全員……終わりだなぁ!」

 ────奴が振りかぶった瞬間、俺の中で重苦しい何か弾け飛んだ。

 まるで脳内麻薬のような、全身の表面を一気に走り抜ける刺激。それに伴って、頭は真っ白になるも、思考はどこかクリアにも思える異様な感覚。

 止まった呼吸を元に戻そうと、無理やり息を吐き出したと同時に、

「……おい待てよハゲ!!」

 叫んでしまった。それはもう思いっきり。メンチをきって。こんな大層な言葉、滅多に言わないのに。相手は明らかに格上のおっさんなのに。

 そして誰かの、静かに囁いたような声が聞こえた。

 白魔法────、心解浄土────

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