そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……41
いつからか、俺は真っ暗闇の中で倒れていた。
眠りから覚めたような感覚はあったが、続いて襲いかかるのは身体への異常な圧迫感と、砂埃のような肌へのざらつき。
意識が飛ぶ前の記憶を遡れば、マキラの黒魔法に対抗して詠唱したのが最後だったか……?
それまでは脱力感も強かったが、意識が鮮明になってくると自然と調子が戻ってきた。どうやら瓦礫に埋もれてしまっているようだが、今なら容易くどかせられそうだ。
両手をなんとか前に伸ばすと、付近の瓦礫は払われ、いきなり光が飛び込んできた。
「…………うひゃあああああっ!!」
「うわぁ!? 何っ!?」
目が光に慣れていないのか、周りの様子も窺えない中、突如上がった悲鳴に体が跳ね上がる。同時に、瓦礫体をぶつけて全体に痛みが走る。
何とか這い出て視界が戻ると、声の主であるメイはお尻を地面に打ちつけるように座りこみ、両手で杖を握りしめたままこちらを見つめた。
「……っ!! マルコさん……!? もうっ……脅かさないで下さい!!」
真っ赤な顔をして怒鳴るメイには、流石に俺も怯んでしまった。
「ごめんなさいっ! ……いや、でも! メイさんなら感知できたんじゃ……」
「魔王神がいた場所で、感知が働くワケないじゃないですか! ただでさえマルコさんの神信力は読み難いんですからね!?」
捲し立てるメイの言葉で、急に我に返る。
俺はさっきまで魔王神と戦っていて、それでこの状況である。まさか俺が魔王神マキラを倒したなどと、そんなことを思えるはずもなかった。
しかし、辺りに緊張感が走っている様子もなければ、あれほどの黒魔法による威圧感もない。今俺の目に入るのは、腰が砕けてそのまま尻もちをついているメイだけだ。
「えーっと……、驚かせたのはごめんなさい。ところで……今の状況を教えてもらっていいですか?」
俺が手を貸してメイを立ち上がらせると、彼女はまるでため息のように息を長く吐いた。
「状況って……そんなの私が教えて欲しいですよ。見てください、周りの様子を。さっきまでここに、魔王城が建っていたんですよね?」
メイと共に見渡すと、大量の瓦礫が一面に広がる程度で視界は良好、空も清々しい青空である。我々が魔王城に到着した時の、おどろおどろしさはさっぱりと消えていた。
そんな中、こちらに向かってくる影が二つ。
「どうやらちゃんと無事そうだね、流石だよ」
「私も信じてはいましたが……本当に無事なんですね。本当に……なんであそこから無事でいられるのだか……」
レオンはいつもと変わらないニコニコと笑顔で、ライラは俺の無事を訝しむような難しい顔をしていた。無事を訝しむ状況ってなかなか無いよ?
「私たちが無事なのは、マルコさんの白魔法があったことが大きいかもしれません。ありがとうございました…………先ほどはその、取り乱しまして失礼しました……」
落ち着きを取り戻したメイが俺に頭を下げる。
「それで、魔王神はマルコが倒したってことなのかな?」
「いや、まさかそんなことは無いと思うけど……どうにも途中から意識が薄れてて……」
四人全員がまた集まれたことには一安心だが、誰しもが状況を掴めていなかった。
「……まさか本当に、我を倒せたとは思っておらんだろうな?」
そんな安堵も束の間、声のした方向に振り向くと、マキラが宙に浮かびながらにやにやと腕を組んでいた。
瞬時に構えてたのは俺、ライラ、メイだ。直前まで一切気付かなかった、つまり今の奴には神信力も敵意も殺意もないということだ。無論、だからといって安心出来る相手ではないのも明白。
ただ一人、少しばかりも気負わないその男は、腰に手を当ててマキラに優しく声をかけた。
「姿を現したということは、我々とお話しをしてもらえる……という認識でよろしいでしょうか? 魔王神マキラ」
それに対して、マキラは珍しくムッとした表情を浮かべた。
「なんだ……相変わらず余裕があるじゃないか。戦闘に割って入ったさっきといい、調子が狂うのぅ」
彼女はため息混じりにぼやくと、ゆっくりと地上に降りてきた。
有難いことに、どうやら再戦といった流れではなさそうである。




