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推しが神様の世界に転生したのならば俺は……  作者: 大坂オレンジ
そんな世界に転生したら俺は誰にだって……
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そんな世界に転生したら俺は誰にだって……③

 この村の教会では度々『感謝礼祭』と言われるイベントが行われる。子供たちの成長や農業の収穫など様々な節目に、『神様への感謝を示す』という名目で、教会から食事が振舞われたりするのだ。この日に限っては、普段から閑散としている教会に、賑わいが生まれる。

 日頃から感謝の気持ちが止まらない俺からすれば特別な日ではないのだが、このイベントの中にはみんなで聖歌を歌うシーンもあり、それはさながらコール&レスポンス、国木原たまりのワンマンライブとなれば、俺も参加しないわけにはいかない。

 そうそう、ここで歌われていた聖歌も、よく聴くとたまりるの曲を彷彿とさせるメロディーなのだ。当然の如く初見で歌えたが、あまりにノリノリで歌ったからか、近くの子供たちには笑われてしまったけども。

 いつもなら両親と一緒に参加するところだが、今日の二人はどうしても畑に出なくてはならない用事があるらしく、今回は普段の礼拝と同様に一人で教会へ向かうことになった。

 教会に到着すると、入り口付近にはライラを中心に子供たちで人だかりが出来ていた。彼女は子供たちの面倒見も良く、村の大人たちからも一目置かれる存在だ。

「あらマルコさん、今日もありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ好きで来てますんで!」

 軽い挨拶を済ませると、彼女の近くにいた子供たちが反応した。

「あっ! 歌下手の兄ちゃんだ!」

「ホントだ! 懲りずにまた来たなー!」

 男の子たちは俺を指さして、やいのやいのと軽口を叩き出した。どうも俺の歌は癖が強いらしく、それを聞かれてからは変な懐かれ方をしてしまい、このような状況に至る。

「うるせー! このクソガキどもめっ!」

 はしゃぐ子供たちの中でも、一番のお調子者を捕まえてこめかみをぐりぐりと押し込むと、子供らしい大きな悲鳴が上がる。

「うぎゃーっ! 歌下手の兄ちゃんにいじめられるー!」

「やかましいっ! 俺のは歌い方にオリジナリティがあるっていうんだよー!」

 口の減らない悪ガキをとっちめていると、横にいるライラは腰に手を当てて怒ったように口を出した。

「こらっ、周りにも人がいるんですから、こんなところで騒がないでくださいっ」

 怒ったというにはあまりにも可愛らしい仕草だったが、子供たちは彼女の言うことは何でも聞くので、男の子は俺の手からするりと抜け出した。

「はーいっ、おい歌下手の兄ちゃん、たまりる様のとこ行くぞー!」

 そういうと子供たちは、バタバタと講堂の奥へと向かっていった。

 するとライラは先程よりも厳しい視線を向けてきた。

「マルコさん! あなたのせいで子供たちが変なイントネーションで覚えちゃったじゃないですか! ティマリール神様に失礼ですよ!」

「いやはや面目ない、生前……いやちょっと癖が抜けきらずお恥ずかしい限り……」

「全く……、それに癖と言えばさっきの言い訳はなんですか、『オリジナリティがある』って!聖歌にオリジナリティを加えないでください!」

 感謝礼祭の日だからか、子供たちへの悪影響を思うライラからこのように説教されるのも初めてではない。しかも全部正論だからぐうの音も出ない。今の俺と同じくらい、生前の俺よりもずっと若いのに随分としっかりとした女の子だ。流石シスターといったところか。

「いいですか!? 小さい子供たちも見てるんですからね!?」

「はっ、はい! すみませんでしたっ!」

 彼女に平謝りした後に、俺もティマリール神像への礼拝に向かう。

 講堂は小さな子供が多く、他は同伴している保護者が数名いる程度だ。村の住人であれば誰でも参加可能であるが、大人たちの参加率はかなり低い。子供たちも、美味しい料理がみんなと食べられる程度の認識で集まっているようだ。先ほどの少年たちも少しお辞儀をした程度で、そこからは敷地内を走り回ったりしている。

 決して信仰心が高い者達の集まりとは言えないが、普段のここを思えば賑わいがあるだけでも充分だろう。宗教とは、神様とは、誰かに覚えてもらえなければ意味を為さないのだ。

 講堂を見渡していると、隅っこの方にポツンと運営じいさんが座っていた。相変わらず表情は見えないが、きっと満足気にこの景色を眺めていることだろう。それにしても、あの人は普段何をやっているのだろうか、謎の多い男である。

 定期的に行われる感謝礼祭、今日行われているそれも、いつもと変わらない。俺はそう思っていた。

 しかし当然ながら、日常が大きく変わるのは、いつだって日常の中からである。

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