そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……30
「とはいえ、我も油断したつもりは、なかったんだがな……」
傾げていた頭がグラッと体からこぼれ落ちたのを、マキラは右手で受け止め、まるでバスケットボールのように横腹と手で抱えた。
見るからにダメージは無さそうだが、今までの魔物との戦闘経験を、魔王神に当てはめていいものか?
「どうした? 手を止めていては、我を殺すことなぞ不可能だぞ?」
抱えられた頭が喋るという異様な光景に、何とか勝機を見出そうと思考する。マキラを挟んで奥にいるライラも、構えはしているものの動き出す様子はない。
再び切り掛かったとしてもダメージはないだろう、部位の問題か、神信力の問題か。
そしてふと思い出す、先ほど遅れて感じた切断の感触。
軽過ぎた。あまりにも、今までの魔物すら凌駕する感触の無さ。
それを思い出した瞬間、マキラの姿がまるで映像の乱れのように鮮明さを欠いた。その瞬間、俺とライラの目線が合う。
「白魔法────視光迷明!」
すかさずライラが詠唱すると、頭を抱えて仁王立ちしていたマキラの姿は、霧散していくかのように消えていった。
では本体はどこにいるのか、を考える必要はなかった。俺のすぐ近くで強大な魔力を感じたから。
飛び退いて離れると、玉座にはマキラが肘置きに寄りかかるように座っていた。
「ほぅ、意外と早く気が付いたな……それでも、遅過ぎるがの」
マキラが人差し指を立てて払うと、目の前に俺を覆う程の火球が現れた。
「黒魔法────火波玉」
「マルコさんっ!!!」
白魔法────、奉盾防護────
ライラの悲鳴に近い呼び声に反応するように、どこからか詠唱が聴こえる。
「くっそ……っ!!」
それが直撃した時に感じた熱は一瞬だった。見た目は火の玉のくせして、鉄球に吹っ飛ばされたような衝撃で、俺の体はそのまま壁に叩きつけられた。
マキラの発した火球に押し込まれる形で壁にぶつかり、部屋に大穴が開いた直後、ライラが叫ぶ。
「白魔法────光矢弓・連っ!」
ライラの詠唱で、彼女の前に二十近くの矢が並ぶが、マキラは一切物怖じせずに、手を振りかざしている。
「なるほど、小娘もそれなりに神信力を練られるようじゃ……」
その全てがマキラに向かって放たれたが、それが彼女に届くことはなく、全てがへし折られて弾き落とされた。
「とはいえ、それしきで我に当たるとは思っておらんだろう? 魔力量の絶大なる差、分からんはずがない」
「ええ、流石は魔王神です、私では全く歯が立ちませんね……」
白魔法────、光波流刃────
俺は壁を蹴ってマキラの背後に回り込み、死角から首を掻っ切ろうとナイフを走らせる。ダリルの時と同じ、薄い光の線に沿うように身体が動いた。
「……おっと」
見えていないはずの軌道だったはずだが、俺のナイフは軽く摘むように止められた。
「今のは悪くない。が、まだまだ遅いな……」
「…………っ!?」
力んでいる様子は全くないのに、ナイフを押し込むことも引き抜くことも出来ない。
「うーむ、我に触れられて、なお消えないのか。本来ならとっくに消し炭にでもなっているんだがな……。やはりお主は……どこもかしこもイカれておるな!」
片腕でナイフごと放り投げられた俺は、受け身を取りながらライラの近くに寄る。
「どうした! お主ほどの魔力なら、我の黒魔法など圧倒できるのではないか!?」
マキラは大声で俺たちを煽る。ヤツがそう言うのであればそうなのかもしれないが、その忠告は余裕からなのか?
「……ライラさん、俺は攻撃に集中します。その間フォローをお願いしてもいいですか?」
「分かりました、可能な限りで……」
誘われた攻撃になってしまうが、やってみるしかなさそうだ。
両手を前にかざすと、まるで全てを分かっているかのように、どこからか聞こえる声が詠唱を始める。
白魔法────、光波玉・連────




