そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……20
「いやいやいや! ここまでどんだけ魔物が出てきたか覚えてない!? そんなので魔王城までたどり着けるのかよ!?」
俺の不安に全く動じることのないレオンは、ただ前だけを見据えている。
「その魔物を全て切り伏せてきたことは覚えているけれどね。僕の故郷では、今まで出会った美人しか数えないんだ」
出たよ、レオンの出身地、ガランジョークが。
「そうは言っても、マルコはまだ息も切れてないじゃないか。大丈夫、あれくらいの魔物なら帰りの心配はいらないよ。それに……」
同じく呼吸の乱れを感じさせないレオンが指差したのは、最前線を走るダスだ。
彼は周りにいる魔物を吹き飛ばしながら、ひたすらに真っ直ぐ進んでいく。魔物の数も今まで以上に増えているはずだが、彼の進行は一切止まらない。
「見てくれ、もう魔物の群れなんて問題じゃないさ。この景色の方がよっぽどジョークだろ?」
「まぁ……確かに……」
彼の言う通り、溢れてくる魔物をコミカルなアニメみたいに吹き飛ばしている様子を遠くから眺めていると、どうとでもなる様な気もしてくる。
「レオン様の指示とあらば、このメイ・ユース・ガラン……命を賭して着いて行きます!」
メイは両手に持つ杖を力一杯握り締めた。その横にいるライラも、涼しい笑顔を浮かべているし、二人とも余裕があって羨ましい。
「それじゃあ俺はダズの右側をカバーするから、マルコは左側を頼む。あんなでも人間だからね、少しは手助けしようか。……メイとライラは馬車に乗って後方支援を頼む!」
レオンが剣を握った時に、会話の外からダリルが叫んだ。
「兵士長! 俺にも……指示をくださいっ!」
息も絶え絶えの、膝に手をついて何とか立ち上がるダリルに、レオンは変わらない口調で答える。
「俺は気合いのある奴は嫌いじゃない。けどね、兵士長として、戦力にならない者を前線に出す訳にはいかない。その様子じゃ限界も近いこと、自分でも分かっているだろう?」
普段の言い回しとは違う厳しい指摘に少し同情したが、ダリルの限界が近そうなのは事実だ。
一息ついたことで緊張が切れたのか、手をついている膝がガクガクと震えているようにも見えた。
ダリルは悔しそうに俯くと、
「くそっ…………っ!」
膝に付いていた両手を挙げ、そのまま思い切り自分の腿を殴りつけた。
「兵士長、こんなところまで来て何もしないなんてできません! 動かない身体は、叩きながら動かします! 迷惑は百も承知です……俺にも戦わせてください!」
先ほどまでの疲れなど無いように頭を下げるダリル。彼を動かすものは何なのだろう。ロッカ村での事件を起こした罪悪感なのか。それとも、今ここで足手纏いだとされることへの焦燥なのか。
それに対してレオンは、どうにも難しい顔をしていた。
「……ダリル、君の思いは分かった。それでも、今の君をそのまま戦闘させるわけにはいかない。……ならば、少し指示を変えよう」
深いため息でもつくように、珍しく不本意な表情のレオンが指示を出す。
「まずはライラ、メイたち後方支援組のフォロー、それと同時に彼女たちの神信力で回復をしてもらうこと。俺が良いと言うまでは前線に出ることを禁止する」
そのままダリルに背を向けるよう、前方を勝手に進んでいくダズを見据えて、再び剣を構えた。
「それまでは、俺の雄姿を目に焼き付けて、仲間に言い伝えてほしいな。『俺たちの隊長は、魔物如きに傷一つ付けられなかった』とね」
歯の浮くようなセリフでも、スター俳優のような品格が滲み出るレオンならば充分に格好がつく。
「それじゃあマルコ、さっきの指示通りに頼んだよ!」
その瞬間、レオンは一人ずかずかと進んでいくダズを追うように走り出した。あまりにも一歩が大きいというか、むしろ跳躍しているような節すらある。
遅れて向かおうとした時、後ろからダリルに声を掛けられた
「マルコっ! ……頼んだぞっ!!」
しかし俺には、レオンみたいに気の利いた言い回しが思いつかず、無言で右手を挙げて返す。
これはこれでキザっぽかったかな、なんて思いながらも、大分距離がある最前線の二人を追いかけた。




