そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……⑧
到着した街は、ヘヴルを思うとだいぶ小さな街であった。ここではハルエたちを休憩させて、我々は昼食を取ったらすぐに出発するらしい。
遠征はまだ序盤、買い足しなども不要であれば、これくらいの街でも充分なのだろう。
「数日後には背中を預ける者同士、湿っぽい空気は無しにしましょう」
というライラからの提案により、俺たちは三人で食事を取ることになった。
レオンから渡されたヴァーレ国兵のドッグタグを見せれば、どこでも食事が出来るということで、適当に入った店で昼食を兼ねた決起集会だ。
居酒屋のような店内には俺たち三人以外に誰もおらず、俺やダリルはまだ分かるが、修道服を着たライラは非常に場違いな感じもあった。
そんなことは気にもしていない彼女は、配膳されたグラスをわくわくしながら握りしめていた。
「さぁ! それでは皆さん、ティマリール神のご加護あらんことを、カンパーイ!」
音頭を取ったライラと俺の横に座るダリルは、グラスを打ち鳴らすと、その勢いのままぐびぐびとグラスを空にしていった。
俺はと言えば、グラスに注がれている紫色の液体がどういったものなのか分からず、ただただ観察するだけだ。
ぶどうジュースにしては濁った、かなり怪しい色をしているが、これお酒じゃないよね? さすがに仕事中にお酒飲むとかあり得ないもんね?
「マルコさん、こちらは初めてですか? まじまじと見ているようですが」
「そうなんですけど、……これアルコールとか入ってないですよね?」
一応確認すると、「アルコール……?」といったリアクションで、この世界にない単語だったようだ。そもそもこの世界に、未成年飲酒禁止法とかあるのかな?
しかし二人が飲んでいるのに、俺だけ飲まないのも具合が悪い。
「ええい、ままよっ!」
先の二人に倣って勢いよく体に流し込むと、色合いからは想像できないあっさりとした甘さが口に残った。
「おーっ! 勢いよくいきましたねー!」
ライラが楽しそうに拍手をすると、ダリルも薄っすらと笑みを浮かべていた。
ノリは完全に飲み会だし、いくつか出された大皿の料理が並ぶと、まるで小さなパーティのようだ。少しだけ、ロッカ村での感謝礼祭を思い出した。
盛り上げ上手(?)のライラが会話を回していくと、少しずつ空気が和らいでいくように感じた。
そのまま会話はダリルの経歴や、ヴァーレ国王の兵隊やレオンたちの話題となった。
「えっ!? ダリルさんって、レオンと会うの二度目なの!?」
「当たり前だろ……、あんな偉い人、おいそれと会えるもんじゃねーぞ」
ダリルは俺を呆れるような目で見た。
「ヴァーレ国王軍がどれだけ大きいと思ってるんですかぁ? ……あっ、店員さん、さっきのやつもう三つください」
ライラも、レオンがそれなり以上の存在であることを理解していたようだ。
そんな人間がわざわざ俺たちを勧誘しに、あの村まで来たんだもんな。
それなのに俺ときたら、修行期間では何も得ず、期待に沿うことは一切ないという体たらく。
「…………あぁ〜、ホントに大丈夫かなぁ〜……!」
「マルコさん、まだ引きずってるんですかぁ? 大丈夫ですよ、いざとなったら何とかなりますって〜。……あっ、店員さんすみません、さっきのもう二つお願いします」
再び頭を抱える俺を、ライラは適当に嗜め始める。
「すまん、俺にはそん時の記憶がないんだが……お前、凄い強いって村長に聞いてるぞ?」
「いや、それなんだよなぁ〜!! あの村長、ホント適当にペラペラ喋ってさぁ〜!!」
レオンへの報告だって、元々はオスマンによって行われているのだ。絶対盛って話してるって。
「いえいえ、村長の報告はきっと正しいですよ。あの日のマルコさんは本当に別人のようでしたから、それこそレオン様に認められることも、おかしな話ではありません。正当な評価ですよ……あっ、店員さん、これとこれとこれもお願いします」
いや、ライラさん延々と注文してるじゃん。なんか話が頭に入ってこないよ。
しかし、話が入ってこないのは、ライラの暴れるような飲食のせいではなかった。
俺たちの師匠である、上位魔術師のメイについて話が変わった辺りで異変に気付いた。
「おや? おやおやおや? マルコさん、まさかもう酔っちゃったんですか? 顔がとろけちゃってますよ?」
ライラが妙ににやけた笑顔を向けてきた。
くそっ、やっぱり酒だったのかよ! 確かに頭が働かなくなってきたし、体も熱くなってきた気がしてたんだ!
自覚してしまうと、みるみる内に思考が濁り始めてきた。それでも、目の前に座るライラは、それはもう嬉しそうな顔をしていた。
「マルコさーん、何休んでるんですかー? 次が来てますよー?」
ほとんどダウン状態の俺に、再びグラスを押し付けてきた。倫理観が昭和か、この世界は。
途中からは二人の会話もろくに覚えていない程に潰れた俺の最後の記憶は、声を上げて笑うライラと、そんな彼女に若干引いているダリルの引きつった薄笑いだった。




