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推しが神様の世界に転生したのならば俺は……  作者: 大坂オレンジ
そんな世界に転生したら……
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そんな世界に転生したら……②

 もし俺の自伝が残されているのであれば、冒頭はこう書き記されているだろう。「国木原たまりとは、アイドルであり、アーティストであり、俺の半生である」と。俺の自伝なのに他人の名前から入るってのはいかがなものかって? 別にいいだろ!

 国木原たまり、その知名度は局地的だったが、インターネットの爆発的な普及が進んだ生前では、世界中に彼女の魅力が発信され、海を渡ってライブイベントに参加するファンもいた、超大人気アイドルである。作詞作曲を自身でこなし、CDジャケットやライブグッズもプロデュースするアーティストな一面もあり、間違いなく時代に名を刻んだアイドル界のひとりである俺の最推しが、どうしてこんなところで神様に……?

「————彼、神像に反応していますが、信仰はおありでしたでしょうか?」

「————いえ、あの子をここに連れてきたのは初めてですし、ウチにはそういったものは……」

 たまりるを見たから……なのかは定かではないが、気が付くと周りの人間の声もはっきりと聞こえるようになっていた。生前の記憶も何となくだが思い出せてきたし、見えている景色も徐々に鮮明さが強くなってきた。

 まるで生まれ変わったかのような感覚、まさか転生先で更に生まれ変わることになろうとは。推しとはどこまでも不思議な存在である。

「マルコさん……でしたよね? ティマリール神を見るのは初めてですか?」

 先ほど出迎えてくれた修道服の女性は優しく微笑みながら話しかけてきた。どうやらマルコっていうのは俺のことらしい。

 はっきりとした金髪の女性を教会で見ると、ゲームの世界にでも入り込んだかのような、本当に異世界転生なんだな、という実感が沸く。コスプレに見えないのは、辺りの世界観とマッチし過ぎているからかな。

「はいっ! ただ、初めてとは思えないというか……えっ? たまりーる?」

「ティマリール教……申し遅れました、私はこの教会でシスターをしておりますライラと申します。あなたにティマリールのご加護あらんことを……」

 そう言うとライラは俺の目の前で両手のひらを組み、ティマリール神の石像へと静かに祈りを捧げた。

 講堂に佇むティマリール神像はヴェールに包まれた女性を模しており、確かに宗教的な印象を受ける。

 が、しかし。たまりるのファンとして注意深く観察すると、うっすらフリルをあしらった彼女のステージ衣装にも見える。いや、俺の記憶が確かならこれは3rdシングル「LOVE YOU!」で使用された衣装に間違いないね。これMVのたまりるめちゃくちゃ可愛いんだよなー。まぁ俺の記憶、今はあんまりアテになんないけど。

 冗談にも思えるが、どうやらたまりるは我々のあずかり知らぬ異世界で神様になってしまっていたようだ。オタクという奴らはしばしば、バカの一つ覚えで「尊い」と口にしているが、まさか衆人の信仰対象になってしまうとは、この気持ちを言葉にするのであればこう表現するしかあるまい。

「てぇてぇ……」

 口に馴染み過ぎたスラングが零れ、俺はナチュラルに合掌をしてしまった。ほぼ反射的に行った行為だが、彼女は両手の指を交互に組むような祈り方をしていたな。宗教上の違いとかあったら怒られるかもしれない。

 そんなのは些末なことなのか、横にいる彼女は変わらず静かに微笑んでいた。そして気が付くと老夫婦も俺の傍まで近づいていた。

「マルコや、体調はその……大丈夫なのかい?」

 おじいさんは恐る恐る俺に声を掛けてきた。正直質問の意図が分からなかったが、隣のおばあさんの方は喜びで涙ぐんで俺に抱き着いてきた。

「良かったよぉマルコ。こんな……ねぇおじいさん?」

 それを聞いたおじいさんは、

「そうだなぁ……、そうだなぁ……!」

 こちらも頬を緩ませて俺とおばあさんを抱きしめた。

 状況が分からない上、ライラさんに見られているのもあって気恥ずかしさを感じたが、心底嬉しそうな二人を見ていると暖かい気持ちになったのも確かだった。

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