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推しが神様の世界に転生したのならば俺は……  作者: 大坂オレンジ
そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……
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そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……⑦

 どの馬車も三、四人が定員となっており、全員が大の字に寝転んでもぶつからないくらいのスペースがある。

 なので、このように各々が隅に座ると、会話するには気持ち遠いなと思える距離があった。

「…………」

 そのおかげで、俺たち三人の間に気まずい沈黙が続く時間が生まれてしまった。いや、ライラだけはそんなに気にしている様子はないか。

 原因はそれだけではない。彼女が明るく挨拶してくれたのに、俺とダリルが「ああ、どうも」くらいの感じで返してしまったので、そこで会話が生まれなかったのだ。

 後悔しても遅いけどさ、先日からの今日で、そんな普通に会話とか難しくない? さっきのはライラが人間出来すぎてたってだけで、決して俺のコミュニケーション能力が低いわけではないのだ。

 このような空気は、長引くほどにその威力が増していくもので、会話のきっかけが掴めないまま、馬車は最初の中継地点の街に到達しようとしていた。

「……お前、マルコって言ったよな?」

 あまりにも急なタイミングで、ダリルから声が掛けられた。

「……えっ? あーっと……そうですけど」

 余計なことは言わないようにと、逆に強い意志で黙っていたものだから、一瞬聞こえなかったふりまでしそうになったが、何とか会話になるレベルの返答ができた。

 ダリルは胡坐をかきながら両手を組んでおり、その体格に似合わない苦々しい表情を浮かべていた。むしろ俺よりもやりづらさを感じているようにも思える。

「その……なんだ……、あの時は迷惑かけて悪かったな……」

 何を言われるかと思って身構えた俺に、ダリルは両手を膝に乗せて、深々と頭を下げた。

 意外だった、と思うのは失礼な話だな。彼とまともに会話したこともないのにそんなことを思ってしまっては。

「いや、俺はそんな大丈夫ですけど……」

 教会の事件では、彼らの横暴に怒りを覚えたこともあったが、結局のところ俺に被害はなかった訳で、俺が根に持つようなことはないんだよな。それよりも被害者といえば……。

「私はもう充分に謝罪を受けていますので、これ以上は遠慮しておきますね。教会もダリルさんたちのお掛けで随分と綺麗になったと聞いております。……ロッカ村に戻るのが楽しみですね」

 不意にライラへ目配せしてしまったが、ダリルへの不満をこれっぽっちも感じさせない、涼しい笑顔を浮かべていた。この子、ホントに察しが良いんだよな。

 しかし、ダリルは納得がいっていない様子で、右手で顔を覆うように俯いた。

「何でだよ……」

 ダリルの口から、あまりにか細い声が漏れた。

「俺のせいであんなことになって! …………何で! ……何で俺を許せるんだよ……!!」

 それを見て俺はやっと気付いた。彼も、あの日から罪の意識に苛まれていたのだ。

 自分の意志を離れ、気付けば多くの人を巻き込んだ事件を起こしてしまった。その心中を察することはできないが、耐え難い苦痛であるのは想像できるだろう。

「顔を上げてくださいダリルさん。……確かにあの事件は、とても大きな被害をもたらしました。しかし私は、あなたに一つだけ感謝をしているんです」

 ライラはダリルに向かい合って、優しく諭すように語り掛ける。

「私は小さい頃から、あの教会で働いていました。ティマリール神にこの身を捧げ、悩める人に救いを教えることで、人を幸せにすることができると、あの日まで思っていたんです」

 次第に彼女の表情は憂いを帯びていき、少しばかり目を伏せていた。

「しかし、私が弱いばかりに子供たちも、教会も、誰も救えはしませんでした。力なき正義には何の意味もなかったんです」

 ライラは少し言葉を切ると、真剣な目つきでダリルを見据えた。

「私は……目の前の人たちを救いたい。その為に魔王神を討伐するのであれば協力したいですし、それに強さが必要ならば強くなりたい」

 彼女は、ダリルの手を握った。

「今のダリルさんはどうですか? あなたは今、何のためにこの任務に参加したのですか?」

 彼女の問いに、ダリルは少し狼狽えたように言葉を出そうとしている。確かにあのような事件があってすぐの大規模任務に、事件の加害当事者であるダリルが参加できるものなのだろうか。

「俺は……、あんなことを起こしちまった罪悪感もあるし、何とか贖えないかと思って、村長やレオンさんに頭下げてここにいるんだ。あんたと違って人助けとかそんなんじゃ……」

「罪滅ぼし、大いに結構ではありませんか。例えそれが偽善だとしても、善に変わりはないのですから」

 今度は両手を組んで祈るように、ライラは目を閉じた。

 俺は彼女の言う通りだと思う。本質こそ違えど、それが善行であるならば、やはり敬意を表するべきなのだ。

「ダリルさん、今の私たちは仲間なのですから、一緒に頑張りましょうよ」

 彼女の言葉に俯きながらも、ダリルはやや嗚咽するように、なんとか感謝と謝罪を伝えようとしていた。

「ああっ……、ありがとう、本当にすまなかった……!」

 俺たちの間にあったわだかまりはライラによって消え去り、次の町に着いたらしいハルエたちはゆっくりとスピードを落として停車し始めた。

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