そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……⑤
結論から言えば、俺たちはレオンに協力することになった。
オスマンは村長として助力するのが義務であり、ライラも聖職者として、平和の為に力を貸すのは当然かもしれない。
俺としても、ここで一人村に残ってたまりるに会いに行くのも、気が引けるというか、それはなんか違うよなーって。
実際、推しに会う時の後ろめたさって、絶対体に良くないよ。今後の活動にも支障が出ることは、あってはならないのだ。
レオンたちが来た数日後には、俺とライラはヴァーレに向かい、約半月ほどの期間を置いた後に、魔王城のあるロミ平原へ向かう、という流れだ。
ちなみに、俺の両親には『教会で村長に気に入られ、ヴァーレでの仕事を手伝ってもらう』といったエピソードになっている。
少しばかり罪悪感もあるが、本当のことを言って母さんが納得するとも思えない。
ヴァーレ大国中央都市であるヴァーレ・ヘヴルは、ロッカ村から馬車を走らせて二日ほどのところに位置する。大国の中央都市と言われるだけあって、俺たちの村とは比べ物にならない賑わいがあった。
ヴァーレ城を中心に城下町が広がっており、俺たちがしばらく暮らすことになる場所は、その更に外側の住宅地帯ということだったが、
「ヴァーレ城って……遠くて全然見えないんだね」
付近の街を案内してもらう中で立地を説明してもらっていたが、ヴァーレ城があるとされる方角は、見晴らしはそれなりに良いものの、それらしい建物は全く見えない。
「大きい国ですからね。……すみません、ご協力頂くならば、そちらにも案内できればよかったんですけど」
俺たちと一緒に街を回っているメイが、弱々しく謝った。
魔王神討伐に一般の人間を参加させることは、レオンの独断で行っているらしく、ヴァーレ城に招待するわけにもいかないらしい。
別に場内に入りたい訳でもないし、城が見たいのも観光的な好奇心だ。見られないのは残念だけど、日本にいるからってどこにでも富士山が見える訳じゃない、みたいなことなのかな。この世界が地球みたいに丸いのかは知らないけれど。
「マルコさん、これから魔王神討伐に向けての訓練が始まるというのに、随分と余裕ですね」
メイを挟んで反対側を歩いていたライラが顔を覗かせた。
「うっ、……確かにちょっと浮かれていたかも、こんな大きい街初めてだし」
「まぁまぁ、訓練といっても肩肘張るようなものでもないですし、特にリラックスが大事ですから、こーゆーのは。構えなくても大丈夫ですよ」
挟まれたメイは少しばかり慌てて話題を反らした。
「そういえば、マルコ様はロッカ村生まれで、外に出たことないんですか? ライラ様はシスターですし、村から出ることもあるでしょうけど」
「そうですね。ウチは農家なんで、村から出ることもなかったなぁ」
この世界では、という話だが。
「だとしたら。ヴァーレは珍しいでしょう? この辺りでこれほどの大国はありませんから」
彼女にしては珍しく明るい表情で、胸を張っているように見えた。
「メイさんはこの国の生まれなんですか? 思い入れもあるように見えますけど」
「いえ、私は少し離れたガランという国で生まれました。この国の魔術師になったのも、比較的最近のことです」
するとライラが思い出すようにそれに反応した。
「ガランといえば、大国とはいかないまでも、有名な連合王国でしたよね。……そういえば、メイさんやレオンさんの名前にも……?」
「仰る通り私も、そしてレオン様もガラン生まれなんです。ガランで生まれた人間は、名前に国名が入るんですよ」
メイは耳打ちするように、コソコソと話し出した。
「実はレオン様のお父様は、現ガラン国王なんですよ」
「えっ!? それって……本当に一国の王子じゃないですか……!」
驚愕したライラは、一度大きな声を出すも、途中から声を抑えた。
このリアクションから、余程の名家であることが窺える。生まれも良くて仕事も出来るなんて、いくらなんでも勝ち組過ぎるだろ。
「貴族の生まれで、別国の兵士だなんて、かなり珍しいですね。どういった経緯が?」
「私も詳しくは分からないですが、ヴァーレ国王がレオン様を随分と気に入っているようですね」
メイは少しずつ目を輝かせ始めた。
「レオン様が長子だったら絶対許されなかったと思いますが……、それにしても国王様も見る目がありますよね! やはり優れた才能は自然と見つかってしまう、ということなのでしょうか……!」
上り調子に機嫌が良くなるメイ。推しの事で口が回るのは、完全にオタクのそれだ。
もしかしてこの人、レオンを追ってたら魔術師になってたタイプ? 蝶を追っていたら、いつのまにか山頂にいるタイプの天才型オタクの可能性がある。
「……私は元々、ロッゾ家の使用人でして、レオン様が私の才能を見出して、ここまで連れてきてくれたんです。当時はろくに仕事も出来なかったので、肩身の狭い思いもしましたが、あの方のお陰でこうして人の役に立てているんです」
普段の言動にも表れる、彼女の後ろ向きな性格も分かっているつもりだったが、そんな彼女をここまで前向きにするレオンもなかなか凄い。
やはり人間に一番必要なのは推し、推しは全てを解決する。
「マルコ様、ライラ様、お二人を任された身として精一杯努めますので、どうぞよろしくお願いします。さぁー頑張っていきますよー!」
右手を突き上げて高らかに「おーっ!」と声を上げたメイは、三人の中でも一番小さいので、頭を撫でたくなる気持ちを抑えながら彼女を眺めた。
当然ながら、彼女は俺やライラよりも年上なのだが、それを知るのはもうしばらく後の話である。