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推しが神様の世界に転生したのならば俺は……  作者: 大坂オレンジ
そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……
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そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……③

 デウスエクスマキラ、通称『魔王神マキラ』は、おとぎ話に近い伝承がいくつか見受けられるが、そのどれもが真偽不明のいわゆる、空想上の存在である。

「────という認識だったのですが、兵士長様は小さい頃の夢を語られているのでしょうか?」

 ライラはほんの少しばかりの困惑を浮かべると、レオンはぱっと明るく笑った。

「シスターライラ、これは決して夢でも冗談でもないよ。僕が青臭い少年に見えるのは否定しないけどね」

 レオンはそのまま無邪気に微笑んで続けた。

「あなたは随分と聡明な方だとお見受けした。まるで母親に嗜められる子供の気分だよ。それにしては少しだけ……若いと思うけれどね」

 一瞬目を見開いた今のライラはなかなか見られないものだ。レオンさん、ちょっと地雷踏んでない?

「少しだけ? ……あまりにも、の間違いでは?」

 ほんの少しだけ語気を強めたライラにも、彼は何の躊躇いもなく返事をする。

「僕の母親も、君に似て若々しく、そして何よりとても美しいからね。是非一度紹介したいところだ、きっと波長も合うよ」

 一切調子が変わらないレオン、それに対してライラは今ので溜飲が下がったようで、なんなら少しばかり表情が柔らかくなっているように思う。大国の兵士長は度胸があるなぁ。

「確かに、魔王退治なんて夢物語だと思われても仕方ない。魔王神を見つけてこい、と言われてはい分かりました! なんて言える人間は、数少ないだろう。僕だって、ヴァーレの兵士が全員納得するアップルパイを作れ、と言われたら絶対に断るだろうさ」

 今のは彼なりのジョークだったらしく、ライラも小さく鼻を鳴らして笑った。いやいや、全然分かんないんだけど、その笑い。

 この人、言い回しといい身振りといい、かなり欧米チックだよな。この世界にも、地方差があるものなのだろうか。

「先日の事件の話をしようか。あの時の衛兵から事情聴取をしたんだが、その時の記憶がほとんど無かった。……ここだけの話だが、こういった事例が今、各地で起こっているんだ」

 神妙な面持ちになったレオンに、オスマンはいつもの口調で返した。

「あんなことが各地で起こっておるとは、ヴァーレの兵士たちは、随分慌ただしいことじゃろう。それで、あれは魔王神の仕業だとでも?」

「ヴァーレが集めた魔術師が調査した結果から考えて、ほぼ間違いないでしょう。我々はこれを『魔物憑き』と呼んでいますが……魔王神、そうでなくとも、今までの常識からは考えられない力の持ち主、このどちらかだと推察しています」

 オスマンとライラは、今の話を信用しきれていないのか、考えるような仕草をしている。

 俺からすれば、魔法があるこの世界なんだ、魔王神が存在してもおかしくはないと思ってしまうけど。

「魔王神を相手にするならば、こちらも相応の布陣を敷きたい。だが、魔物と互角以上に戦える人間となると、決して多くはないんだ。そんな時に報告されたのが君たちってわけ。ぜひ同行を願いたいね」

 肩に回された手に、グッと力が入ったのが伝わる。今度は冗談を言っている風でもなさそうだ。

「俺って神信力はからっきしだけど、人を見る目には結構自信あるんだ。マルコくんさ、絶対強いだろ」

 耳元で囁くレオンは、気のいい兄貴のような、少し無邪気な笑顔を浮かべている。顔が良い奴は何をやっても絵になるんだな。

「彼の実力はワシが保証するぞ」

「ええ、マルコさんは、この村の英雄ですから」

 なんだなんだ、このむずがゆい流れは。バカにされては、ないのだろうけど。

「いやいやレオンさん、報告もあってご存じだとは思うんですけど、実は僕、まともに神信力が使えないんですよ。あの日は偶然……、そう偶然! 色んなことが偶然重なり合っただけなんですよ」

 高くなっているハードルを下げるために伝えるも、レオンは動じなかった。

「そうらしいね。それで魔物憑きにあったウチの衛兵を倒すなんて、それこそ驚きだよ」

 そのままレオンはメイに近づき、彼女の肩に手を置いた。

「安心してくれ。さっきも言ったけど、彼女はウチの魔術師の中でも、非常に優秀でね。特に、相手の神信力を読み解くことに関しては、間違いなく群を抜いている。きっと君の力になれると思うんだ」

 自信満々のレオンに対し、メイの目線はずっと泳いでいる。

「あの……あまり期待されるのはちょっと、私なんて本当に大したことなくて……。ごめんなさい、レオン様は、部下を立て過ぎるきらいがあるんです」

 メイは落ち着かない様子で、頭をペコペコと下げた。自信の無さが、あらゆる仕草から感じ取れる、分かりやすい人である。

 俺はこの人に、強い共感を覚えた。自分の能力が過大評価されているようで、恐れ多いというより辛いまであるだろう。めっちゃ分かる、今の俺もそうだし。

 すると、メイはフードを外して、しっかりと俺を見据えた。

「しかし、レオン様の顔に泥を塗ることは許されません。マルコ様、早速少し調べさせていただきたいのですが、よろしいですか?」

 覚悟を決めた彼女の周りに、少しずつ光が集まっていくのが分かる。

 遂に謎の力について解明されるのか、というワクワクと、よく見ると小柄で可愛らしいメイと相対しているドキドキで、なんだか落ち着かない。

 いかんいかん、何を悟られるか分かったもんじゃない。

「それでは失礼します……、白魔法────流明視念」

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