そんな世界に転生したら俺は魔王神にだって……②
一人は金髪の男で、どうしたって目を引いてしまう整った顔立ちの、品のあるイケメンだ。腰には剣を携えているが、服装もどこか華があり、兵士というよりかは貴族といった印象を受ける。
もう一人は、男と比べると二回り近く小柄な女性……かな? ライラよりも背が低い彼女は、フードを被っており容姿の全容は見えないが、綺麗な銀色の髪を覗かせている。目を伏せがちな仕草は気の弱さなのか、俺たちへの警戒があるのか、そこまでは判断できなかった。
「オスマンさん、ご無沙汰しております。兵士長レオン、馳せ参じました」
「ほほほ、随分と様になっておるではないか、レオン殿」
二人は握手を交わし、そのまま雑談を始めた。
ちらっと横を見ると、どうもライラは彼と面識がないらしい。二人の会話を横で聞きながら、様子を窺っている。
フードの女性は扉を閉めると、何も言わずにそのまま静かに待機姿勢に入ってしまった。
オスマンたちの会話は俺とライラさんに向いたようで、「彼らが例の……」と呟くと、男は俺に握手を求めてきた。
「初めまして、僕はレオン・ロッゾ・ガラン。ヴァーレの国王軍で兵士長を務めています!」
握手に応じると、レオンはがっちりと俺の手を掴んできた。力強さもさることながら、見た目に反して、大男のようにゴツゴツとした手の感触に驚く。
「マルコ君……だったよね? 噂には聞いているよ、随分と腕が立つようだね」
「初めまして……、 いや、そんなことは……ははは……」
透き通るような美しさと共存する瞳の力強さに、少しばかり圧倒されてしまった。
腕が立つ……? 先日は確かに何とかした経緯はあるものの、今の俺にそれを求められても大変困るんですけど。
「またまたぁ〜、報告はちゃんと聞いてるよ? ウチのたるんだ部下たちをボコボコにして、指導してくれたんだろ?」
レオンは一切裏を感じさせない笑顔で俺を見た。肯定できないだろ、これは。「はい、私はあなたの部下をボコボコにしました」って、言えるか。
誰の報告かと思いながら、横にいるオスマンに視線を滑らせると、
「おお、ワシじゃよ」
ワシじゃよ、じゃないんだわ。マジで変なこと言ってないよね?
「そう謙遜しなくてもいいじゃないか。そこの彼女もそうだが、過ぎた謙遜は決して美徳とは言えないよ」
そう話を振られると、直立不動で待機していたその女性は、いそいそと前髪を触り始めた。
「レオン様を前に、私ごときが何を言えましょうか。……申し遅れました、私はメイ・ユース・ガランと申します。あの、……私のことは大丈夫ですので、本当に……すみません……」
少しばかり小心なのかと思ったら、随分と卑屈な挨拶が出てきた。確かに、ここまで謙遜されては会話にも困るというものだ。
「すまないね、こうは言っているが、彼女は非常に優秀な魔術師だ。侮ってはいけないよ?」
レオンは腰に手を当てて、優しく微笑みながら話している。彼の言い回しはとても自信があるようで、それだけで彼女への信頼感が少しばかり生まれる。
それにしても、魔術師か……。ライラも白魔法を使うけれども、あれとは別なのかな? 気になるけれども、話を腰を折ってしまいそうだ。
そしてレオンは俺から視線を外して、ライラを見つめた。
「君は…………シスターライラだね。会えて嬉しいよ」
握手は求めなかったものの、両手を広げて明るく挨拶するレオンに、ライラは丁寧にお辞儀を返した。
「初めまして、レオン兵士長。噂はかねがね聞いております。ヴァーレ大国が誇る数千人もの兵士たちをまとめ上げるその手腕は、ロッカ村にも届いておりますよ」
美男美女の二人が挨拶を交わす様子はとても絵になっている。俺なんて、萎縮しきって「あはは……」みたいな感じだったのに。
レオンは爽やかに笑いながら返事をする。
「ありがとう、嬉しいことを言ってくれるなぁ。それに……」
レオンは俺とライラを交互に見ながら、やけに満足そうな笑顔を浮かべている。
「……二人ともすごく良いね。メイはどう? 実際に会ってみて」
対してメイは、涼しい顔をして俺たちを見渡す。
「どう……と言われましても、私はレオン様の真贋を見極めるその目を、心より信じております。レオン様が自信を持っておられる内は、私はそれを肯定するのみです」
何をした訳でもないが、俺とライラの二人は、レオンに何かを見出されているようだ。
「この村に来たのは仕事の一環でね。ウチの兵士よりも優秀な人材が、この村にいると聞いてやってきてみれば……期待以上だよ!」
レオンはライラと俺の後ろに回り込むと、俺たちの肩に手を回して爽やかに、無邪気に笑ってこう告げた。
「単刀直入に言おう! 二人とも…………魔王退治に協力してくれないか?」