そんな世界に転生したら俺は神様にだって……70
神の怒り、なんて言葉を聞いたことがある。大自然から人間への制裁みたいな、そんなイメージを今までは持っていた。
でもそれは、あくまで神様を観測できない、人間側の主観でしかなかったのではないか、そんなことを考えてしまった。
それまで怯えや不審、怪訝といった表情をしていたたまりるが、はっきりと敵意を示している。
それに呼応するように、彼女の神信力が高まっていくのが分かった。それが俺に向けられている訳ではないのに、マキラを睨む彼女を目にして、俺は自然と萎縮してしまう。
「少しは興味を持ってもらえたようで、安心したよ」
それでもマキラは、話すのを止めなかった。目の前のティマリール神が放つ敵意を、真っ正面から受けてなお、である。
「まずはあの娘の母親からだ。それからは近しい人間を順番に殺してやろう。父親は最後にしてやる……いや、どこかで心折れて、自害するかもなぁ?」
ただただ相手を煽るだけの語りで、返事も待たないマキラ。もはやティマリール神など目に入っていなかったであろう。
「娘は殺さないでやる、というか、あの状態ではどうにもならん。……お主だぞ。お主の寵愛で……あの娘は死ぬんだ!!」
その瞬間、マキラの側方付近の地面から光のリボンが飛び出し、マキラへと伸びていく。
「……ははっ!!」
即座に反応したマキラは、その場にしゃがみ込んで、リボンからの拘束を回避する。
それと同時に、たまりるの頭上に光の玉が十個ほど出現した。詠唱をしている様子はなかったが、この神信力は間違いなく、彼女の意思で発動しているのだろう。
光の玉が順々にマキラへと発射される中、リボンを回避したマキラは、すぐさまたまりるへと向かって走り出す。
初速からトップスピードで、自身に向かってくるそれらを避けつつ、時折黒魔法を当てることで威力を軽減する。
全てを避け切る前に、マキラはたまりるの目の前まで辿り着く。
「顔だ! 構えろっ!!」
「くっ……!」
たまりるがガードの構えをした上から、マキラの回し蹴りが炸裂する。攻撃箇所を指定していたからか、何とか防御が間に合った程度だ。
しかし、マキラの蹴りは当たらなかった。
マキラの右脚は、たまりるを通り抜けていた。いや、マキラの右脚が溶けたかのように消失した、の方が正しいだろう。
たまりる自身は、何が起こったか気付いていないようだが、後方に過ぎ去ったマキラへと急いで向き直す。
「肉弾戦が一番優位だと思ったが……なるほど、こう反撃されてしまうか」
飛び退いて距離を取り、残っている足で立つマキラ。
失った右脚も、次第に元に戻っていく。欠損した部分がすぐに修復されるのは、以前の戦いでも見られた反応だ。
マキラの動きや、その超回復を目にしても、それでもたまりるは、そこから怖気付くことはなかった。
肝も目も据わってきたたまりるが、再びマキラを睨みつける。
神の怒りとは、世界からの否定であると、そう確信した。
世界中の人を敵にしても、なんて安っぽい歌詞で表現する絶望ではない。世界の意思によって摂理から切り離される、哲学からも外れた領域。
そんな状況でも不敵に微笑を浮かべるマキラが、今何を思うのか。
他人の気持ちなど分かりようがない。何より、マキラもまた、この世界の理を司る存在なのだから。




