そんな世界に転生したら俺は神様にだって……69
「……本調子ではないんだな?」
マキラはたまりるに近付こうとはしなかったが、その話し方はとても友好的であった。
「我には分かる。いかに白魔法であろうと、あのような反射で放つ意思のないものなど、いくらでも防げよう」
ティマリール神への丁寧さは徐々に失われていき、マキラは両手を広げて語り始める。
「それも仕方なし、貴殿はそもそも白魔法など、普段から使わないのであろう? それを咎めるのはそれこそ野暮というものよ」
マキラを見据えるたまりるは、得体の知れない存在への恐怖というよりかは、訝しむような目つきをしている。マキラの言っていることが理解できないのか、今にも「何言ってんだコイツ?」と言いそうな表情である。
それでも、マキラは嬉々として話し続ける。
「しかし、それでは我もわざわざこんなところにまで来た甲斐がない。そこで、だ」
ご機嫌なマキラが右手を前に掲げると、再び空に魔力が練り上げられた。それは、先程見せたものよりも、深く研ぎ澄まされた紫に染まり、次第に小さな球体へと圧縮されていく。
「黒魔法────黒滅」
危機感を覚えた頃にはもう遅い、マキラが発現させた黒魔法は超高速でたまりるへと放たれた。
「……っ!?」
たまりるは両腕で顔を守るように覆うと、その黒魔法はたまりるに当たる直前で霧散した。早すぎて一瞬、彼女に直撃したかのように見えたが、怪我を負った様子はない。
その時、俺自身が神信力を使えなくなっていることに気が付いた。たまりるの危機を目の前にして、俺が何もしようとしないはずがない。
俺は、彼女にとって何が最善なのかを見出せていないのだ。だから神信力も詠唱できないし、今だって体を起こすことすら出来ていない。
難なく攻撃を無効化されるも、マキラは変わらない上機嫌である。
「そんな状態でも、これを凌ぐか……。そうなると、より貴殿の本気が見たいのぅ」
マキラは腕を組んで、少し悩むような仕草を見せた。そのわざとらしい振る舞いに、俺もたまりるも不審さを抱く。
「ティマリール神よ、これはお願いなのだが……我と本気で戦ってもらえんか?」
頭を使って出した答えの割に、バカ正直なお願いである。コイツは、彼女を逆撫でているのだろうか。
「……アンタ、マジでなんなの? アンタの言ってること、何一つとして理解できないんだけど?」
遂にたまりるが、マキラに言葉を返した。彼女らしくない、ドスの効いた低い声だ。
普段のMCや配信では見られない、やさぐれたような口調は、2ndシングルのカップリング曲『不知火』での、ロック調の新鮮な歌唱を彷彿とさせた。あのたまりるもね、また良いんだわ。
「……なるほど、それは申し訳ない。こちらの都合で話を進めてしまう我の失態だな。ここからは、貴殿が分かる範囲で話してみようか」
右手を後頭部へ回し、反省したかのような素振りを見せる。
「貴殿は、城に住むあの娘を随分と気にかけておるようだな?」
マキラの言葉にたまりるは、最初こそ意味を掴めていない様子であったが、その表情が少しずつこわばっていくのが分かった。
「答え合わせするつもりはないし、理由だってどうでも良い。ただ、手札として使えるのならば、大いに利用しようじゃないか」
その時、マキラは珍しく爽やかな笑顔を見せた。それは、自分を全面的に信頼してもらおうという表れだったのか。
「娘の周りにいる人間を、順番に殺していこう」
屈託なく、マキラは提案する。その行動に、罪の意識など欠片も感じていないようだ。
「安心して欲しい。我も神と崇められる者、気は長い方だ。……振り向いてくれるまで、我は諦めないぞ?」




