そんな世界に転生したら俺は神様にだって……67
覆い尽くすように吹き荒れる風は、俺をまるでビニール袋のように空へ放り投げた。
咄嗟に目を瞑ってからは、押し寄せる強風にそのまま視界を閉ざしてしまっていた。
空に舞うビニール袋はその軽さから、案外落下しないものである。しかし、それでもどこかに着地し、打ち捨てられることになるのだ。
もし俺が、そんな何気ない光景に思いを馳せることがあったのならば、今の俺がどこに辿り着くのかも、少しは想像できただろうか。
そして一向に地に足つかない状況と、いつからか風の向きが一定になった時、俺は悟った。
あ、俺……今、落下してるんだな。
目を開くと、所々に雲が浮かぶ晴れやかな空が足下に、山々が連なり緑広がる大自然に向かって、真っ逆さまに急降下していた。
さっきまでいたのは天上で、そこから突き落とされたと解釈して良いだろう。
眼前に広がるこの世界には、山や森だけではない。川や湖、滝といった青もそこかしこに見られ、至るところに集落が点在している。
この世界を、こんな見晴らし良く眺めたことはなかったな。こんなに綺麗で素晴らしい景色を、彼女は展望していたのだろうか。
それでも、あんなに絶望してしまうのだ。
俺には、彼女にしてあげられることなどなかった。
それに気付いてしまってからは、体に力が入らない。神信力も解けて、再び詠唱出来る気などしなかった。
このままだと俺は、どうなってしまうのだろう。地面に叩きつけられて、第二の人生も終えるのだろうか。
もう、それでもいいやと思えてしまう。
そのまま俺は、再び目を閉じてその身を重力に任せた。
「……お主、こんなとこで何をやっておる?」
まさかこんな時に話しかけられるとは思わなかった。
俺は今も絶賛落下中であり、頭から一直線に地上へと向かっている。強烈な轟音が耳をつんざく最中にも関わらず、その声ははっきりと俺の耳を通り抜けた。
「……はっ!? えっ、……マキラ!?」
そんな俺の前に現れたマキラは、俺と並列になって落下している。
いや、マキラの場合は背中に見慣れない獣のような翼が生えており、落下というより、真っ逆さまに飛んでいるようである。
「ティマリール神と会ってきたのであろう? それなのに、何故こんなところにおるのだ?」
マキラは俺が今までどこにいたのかを知った風であったが、それを直接見ていた訳ではないらしい。見てくれていたのなら話も早いのだが。
「ああ……、もういいんだ……」
思い出すだけで気が滅入り、体の力が抜けていく。
「えぇ? もういいって……お主、あの者に惚れいていたのだろう? 我に手をかけようとまでしておいて、何を言っておるのだ?」
俺の素っ気ない対応に、マキラは心底不思議そうな顔で俺を見た。
この魔王神には、人間の機微が分からないのだろうか。それとも、本当に俺が不思議なことを口走っているとでも言うのか。
「彼女には……俺なんて必要ないみたいだから……」
惚れていたという表現は語弊がある、というのは置いておいて。
俺は彼女の望みを叶えてあげたかった。しかし、それはどうにも難しいようで、俺には何もしてあげられなかった。
それでもなお、マキラは首を捻って考えている様子である。
「んん〜? 相手がどうとか、どうでも良くないか?」
マキラは真っ直ぐに俺の目を見ていた。その目は間違いなく人間からかけ離れたものであり、それでいて奥に秘めた妖艶さが、俺の視線を釘付けにしていた。
「他人がどうとか、そんなのどうだっていい。自分が何をしたいか、それだけで良いだろう?」
マキラが何を言っているのかは分かる。しかし、それが正しいのかどうかを判断するには、今の俺の思考はあまりにも杜撰すぎた。
いや、それだけで良いはずないよな? 相手の希望とかもあるし、たまりるから嫌われるなんて耐えられない。
すると、今度はため息混じりの声でマキラは俺に問う。
「良いか? もう一度聞くぞ? お前はこんなとこで何をしていて、お前は────何がしたい?」




