そんな世界に転生したら俺は神様にだって……65
「たまりる……ですよね……?」
返事のない彼女へ、俺は再度問いかけた。人と神様との距離感は分からないが、アイドルとオタクの距離感を考えれば、敬語で話しかけるのが妥当だ。
勘違いしてはいけない、我々オタクはアイドルの友達ではないのだ。その関係性には、常に敬意を持って接するべき。……愛称は良いんだよ、それで呼べって公式が言ってんだから。
「嘘……、どうして……ここに……?」
しかし、彼女は俺の質問に答える様子はなかった。
彼女はただひたすら、俺の姿を眺めているだけだ。
その表情は、驚愕と恐怖がないまぜになっており、うわごとのような言葉が口から漏れている。
ここがどこかは分かっていないが、ティマリール神、もといたまりるがいる場所である。ならばここは本来、誰かが出入りするような場所ではないのだろう。
何故そんな場所に立てているのか。きっと神穴に、ユウナといたことが要因であるのは間違いない。
今の俺たちのこれが会話になっていないのは、俺が不審人物だからというのもあるだろう。
普段は人が来ないであろう場所に、突然現れたのが見知らぬ人物、動揺するのは想像に難くない。
「突然ごめんなさい、実は話を聞いて欲しくて……」
「…………っ!!」
平身低頭を心掛けて、ゆっくりと話しかけながら近付くと、彼女は怯えたように自身の体を抱きしめた。
すると、彼女から強い風が吹き荒れた。目には見えない風圧に、俺の体は簡単に浮き上がった。
「うわっ……!!」
そのまま風に煽られて後方に飛ばされた。周りには霧が漂うだけで、掴めるものは何もなかった。
「白魔法────光空脚!」
ヤバいと思った時には、俺の口から白魔法が詠唱されていた。
何もない空間を、まるで壁を蹴るように方向を変えて、彼女の元に戻る。
「…………っ!?」
予期せぬ来訪者が何者か分からず、その男の身のこなしに、彼女は再び驚いた様子である。
しかし、彼女の意思に反映するように、再び強風が俺を襲う。
「白魔法────風塵理影!」
今度はその風に捕まらないよう、軽い身のこなしで走り回る。さっき発動した白魔法も続いているため、空気中に足場を作りながら駆けた。
「ちょっと……! 話を聞いてっ!」
俺は大声で彼女に話しかける。これはもう、敬語とか言ってられんわ。こっちだって必死よ、マジで。
彼女が詠唱している様子はないが、この風は間違いなく神信力であろう。
白魔法に対して白魔法が無効であるのは、以前メイから聞いている。であれば、俺の神信力はあまり役に立たない。
そもそも、俺が彼女を攻撃する理由もないし、彼女に手荒な真似をするなど、絶対にあり得ない話である。
現に俺は、神信力を使って彼女からの攻撃を回避しているだけだ。これが攻撃なのかどうかは、少し自信はないが。
とにかく、今は彼女と対話するところが第一だ。
きっと彼女は、この唐突な出来事に混乱しているだけ。ならば、彼女を落ち着かせるだけで良いのだ。
大丈夫、というかやるしかない。
推しが神様の世界に転生したのだ。ならば俺は神様にだって、手を差し伸べられるはずなのだから。




