そんな世界に転生したら俺は神様にだって……64
最初に顔を覆っていたのは、風が強かったからだ。目を瞑ってしまったのも、体が強張ったのも、ユウナの声がきこえなかったのも、突如巻き起こった強風のせいである。
そのはずだったのに、気付けば肌を叩く感触は消えており、いつの間にか風は吹き止んでいた。
激しい騒音もおさまり、急に静まり返ったことで逆に緊張感が漂っている。
ゆっくりと目を開けると、俺は白く靄がかかったような場所に立っていた。
生い茂っていた緑も、踏みしめていたはずの乾いた茶色もない。
しかし、色がないと言えばそんなこともない。立ち込める煙のような靄、というか霧が視界を遮っており、見晴らしはあまり良くない。
その霧は、完全に道を塞いでいる訳ではなかったが、まるで俺を誘導しているかのようで、自然と合間を縫って進んでいた。
この景色、かつて魔王城でマキラと戦闘中、俺の中にいたアイツと対峙した時を思い出す。突然周りの景色が消えて、心象風景が目の前に広がった時と同じである。
ここは、あの時と同じような場所なのだろうか。前回の完全な白、という風ではないが、非現実的な景色であることは間違いない。
俺はそのまま足を動かした。若干の恐怖はあったが、不思議なことにそれにも増して、どこか居心地の良さを感じていた。
しばらく進んでいると、奥に人影が見えた。
すぐに身を隠そうかと思ったが、隠れられるものが何一つないことに気付いてすぐに諦める。
遠目には女性の後ろ姿だと思われる。この世界ではあまり見慣れない格好、どちらかと言えば前世の記憶に馴染む服装である。
それは私服にも見えたし、制服にも見えた。はたまた勝負服にも見えたし、ステージ衣装にも見えた。
なんだそれ、まるでアイドルみたいじゃないか。
そんなことを思い始めた辺りで、俺の歩くスピードは自然と早くなった。
分かってる、俺は今期待しているんだ。
まさか、いやまさか、この世界で? いや、まだ口に出すな、俺よ。期待してからの落胆が一番ダメージが大きいんだ。
俺はずんずん進んで彼女に近付いた。彼女はきっと、俺のよく知る人物であると想像している。
その人は非常に名の知れた人物であるが、接触系イベントが全くなかったのだ。そんな彼女と……こんなところで……!
遂に声をかけられる程度の距離まで近付いた。彼女はまだこちらに気付いていない様子で、こちらに背中を向けている。
彼女はまるで、ロッカ村のティマリール教会にある神像のようで、彫刻家がその魂を込めた作品のようでもあり、ヴァーレ国王軍講堂にある銅像にも見えた。
「……たまりるっ!」
意を決して、俺は彼女の名前を呼んだ。
顔はまだ見えていなかったが、彼女の姿からは俺の前世で記憶している国木原たまりの全てを、その身に内包していた。
彼女は驚いた様子で振り返った。
彼女は間違いなく国木原たまりであったし、何とか抑えていた心のボルテージは一気に跳ね上がった。
俺は、この世界の神様であり、俺の世界を司る神様のような存在と、邂逅しているのだ。




