そんな世界に転生したら俺は神様にだって……62
右手を彼女の膝裏へ回し、左手は肩甲骨の下辺りを支えるように抱き上げた。左手の位置が分からなさ過ぎる、これって脇の下まで伸ばすと手が胸に当たるよね? お姫様抱っこのやり方、これで合ってます?
そんな思考が巡るが、実際に手を動かして試す訳にはいかない。しっくりこないことを表情に出さないよう努めていると、ユウナは突然両手を俺の首に回してきた。
「……思ったよりも、顔が近いんですね」
俺の顔を間近でしげしげと見つめるユウナ。いつも以上に彼女の整った目鼻立ちを意識してしまい、すぐに顔を逸らしてしまった。
「……それじゃあ、行くよ?」
照れているのはバレバレだろうが、平静を装えている体を通す。ユウナは何も言わなかったが、にこにことしていて、ご機嫌なのが伝わってくる。
彼女を抱えて歩くのは何ら苦ではなかった。それは、女の子の体はりんごだか苺だかの何個ぶんしかないという、オカルティックな理論だけではないだろう。
彼女の体で痩せ細っていたのは、腕だけではなかった。右手で触れている太腿も、左手で触れている背中も、人並みを大きく下回る肉付きである。
可愛らしい笑顔に反して、彼女の体は病変とも取れる違和感だらけである。
「体調……ホントに大丈夫?」
俺が聞くと、ユウナは俺の体に頭を寄せた。
「大丈夫ですよ。それに、お姫様抱っこというのも、想像より居心地が良いのですね……」
「ははっ……、それはユウナが軽いからだよ」
こんな体勢で雑談しているのも不思議である。俺自身、緊張と不安とで感覚が麻痺してしまっているようだ。
「それに……私は、これからも生きなければなりません」
突然、ユウナは芯の通った声で呟いた。
「私は、大国ヴァーレの国王、ユージオの娘です。何も出来ない私でも、死ねば国が陰鬱な空気になるでしょう」
ユウナは表情こそ柔らかいが、その言葉にははっきりとした意思があった。
「私が民を、父を、そして国を悲しませることなど、あってはならないのです」
しかし、ユウナの強い言葉とは対照的に、彼女の体は今にも砕けてしまいそうなほどに華奢である。
本当は、怖いのではないだろうか。
そんなこと、口に出せるはずがなかった。こんな小さな体で、もし無理をしているのならば、最後まで突き通させてあげたい。
「それじゃあさ、ユウナが元気になったら、何がしたい?」
俺の質問に、ユウナは目を丸くした。
「ほら、元気になったら、今までとは違う生き方が出来るんじゃないかなーって」
「……その時は、今までこなせなかった公務を数多くこなすことになると思います」
そのまま素直に返事をするユウナ。言われてみれば、そりゃそうか。自分の命の危機ですら、国を気にかける彼女のことだ。この呪いが取り払われれば、これまで以上に国の為に、と働くだろう。
すると、ユウナは俺の質問の意味を察してくれたようだ。
「……でも、そうですね。その時はまた……こうやって……」
彼女は、じっと俺の顔を見ている気がしたが、この距離で目を合わせてしまったら、更に日が昇ってしまうことだろう。ああ、また顔が熱くなってきた。
俺は彼女の視線に気付かぬ振りをして、真っ直ぐ前だけを見ていた。
「……こうやって、マルコ様と冒険がしたいですね」
ユウナの声は明るい調子に聞こえたが、その声を聞いた瞬間、俺は泣きそうになってしまった。
何故かは分からないが、それが彼女の悲痛に聞こえたのは、単なる俺の思い違いだったのかもしれない。
冒険を望んだ彼女の意思とは逆に、目的地である神穴はもうすぐそこまで近付いていた。




