そんな世界に転生したら俺は神様にだって……61
支度を終えて部屋を出ると、この時間相応の静けさが俺たちを包んだ。
「さあ、こちらへ……」
ユウナは俺の手を握り、迷いなく歩き出した。
「私の記憶通りなら、この時間の警備をかわすことができます」
彼女の言葉通り、俺たちは目立たないように気を付けながらも、廊下を通って裏口へと、難なく城の外へ出ることができた。
外の空気も、早朝の特別な静けさと、どことなく冷たさを感じる空気に、妙な緊張感が生まれる。
「……無事に外へ出られましたね。マルコ様、神穴とはどちらにあるのでしょうか?」
両手を伸ばしてストレッチの姿勢を取りながら、ユウナは俺を見た。
「……あっ、そうだね。……こっちだよ」
いつの間にか離されていた手を、少し寂しく思いつつも、俺は彼女を案内する。
前回向かった時に思った通り、ヴァーレ城から神穴までは非常に簡単な道のりだ。ただし、分かりやすくとも森道である。決して平坦な道ではない。
事実、ユウナは慣れない悪路に、若干ふらふらと足を進めている。
先ほど離してしまった手を、もう一度握って上げた方がいいのだろうか。でも、俺から手を取るのは違うというか……。いや、ここは素直に言おうか、恥ずかしいと。
勇気が出ないまま、俺は彼女の数歩前を先行して歩いていた。
彼女は何故、あんなにも自然に異性の手を取れるのだろうか。いや、俺が余計なことを考えすぎているのか?
「────あっ……」
悶々とした状態で進んでいると、ユウナの小さな悲鳴が聞こえた。
即座に振り向くと、彼女はしゃがみ込んで自身の足首辺りをさすっていた。
「だっ、大丈夫!?」
俺の動揺に気付いてか、ユウナはすぐに笑顔を向けてくれた。
「大丈夫ですよ、少しバランスを崩しただけですので……」
駆け寄って足の様子を見ると、確かに血などは出ておらず、捻挫などの怪我をした様子もなければ、痛みを訴える表情もない。
しかし、これは一緒に歩いていた俺の落ち度である。恥ずかしいだの何だのと言い訳を抜かして、結局ユウナが怪我をするところだったのだ。
「ゴメン、一緒に歩けば良かったね」
俺がそう言うと、彼女は「大丈夫で……いや……」と、歯切れの悪い返答をした。
「……そうですね、それではお言葉に甘えてお願いしたいことが……」
ユウナも危うさを自覚しているのか、なんとか俺を頼るところまできてくれた。
俺も快く引き受けて、緊張しながらも彼女の手へと────。
「お……お姫様抱っこ、というのを……」
「へっ? お……お姫様……抱っこ?」
彼女の手を掴む直前、予期せぬお願いを耳にして固まってしまった。
「何でそんな……あっ、もしかして本当は歩けない怪我してる!?」
それとも、体調の悪化でそもそも歩くのが大変とか、焦って確認すると、ユウナは申し訳なさそうな表情で返事をした。
「いえ……、私、お姫様抱っこというものに憧れがございまして、今がその好機ではないかと思いまして……」
あ、これはマジだ。冗談ではなくマジのやつ、マジの自己都合。
「私はこれでも一国の姫ですのに、お姫様抱っこもしていないのでは、末代までの恥となりましょう」
何も言えない俺に追撃するようなユウナの呟き。いや、俺も思ったよ? お姫様がされるからお姫様抱っこ、される側としてこれ以上相応しい人はそういない。
「……〜っ!! ……分かった、やってみるよ」
一人で歩くのは危険、という話題は俺の発言からである。それを踏まえてされているお願いを断るのは失礼であり、何よりもダサい。
俺はユウナを抱えるため、彼女の横に寄り添う様にしゃがみ込む。
急に体が熱くなってきた気がした。これはアレだ、日が昇ってきたのだ。きっとそうだ、だから手汗なんかは出てないだろうし、顔だって赤くなってない。絶対に、だ。




