そんな世界に転生したら俺は神様にだって……59
ユウナの部屋から解散したところで、俺は考え事をしながら食堂へ向かった。
『これからは、マルコとユウナ姫で打ち合わせることもあるだろう。なるべく俺から手を回しておくけれど、事情を知るものは少ないからね。なるべく誤解されないようにだけ、注意してほしい』
マキラからの提案に従うのならば、俺はユウナと二人で城の外へ出なくてはならない。せめて、その段取りだけは整えたいが、それを頼むことも、マキラの反感を買うことになるかもしれない。
そうなると、その手筈を整える打ち合わせもしたいが、ユウナと話せるのはいつになることやら……。
そんな様子で階段を降り切って、食堂へと足を運んでいると、前からライラが歩いてくるのが見えた。
向こうも俺に気付いたらしいが、彼女は軽く会釈をするだけだった。
「…………」
礼節を大切にする彼女が、挨拶の一言も交わさないのは非常に珍しいことであるが、口を開けなかったのは俺も同じである。
ティマリール教会事件の時にも似たようなことがあったが、今の状況とは流れている気まずさが大きく違う。
長い通路をお互い視線を合わせることなく、そのまま静かにすれ違う。彼女はきっと、そのまま自室に向かうのだろう。
……本当に、これで良いのだろうか?
「────ライラさんっ!」
そんな思考がよぎった途端、俺は振り返って声を上げていた。
ライラは足を止めてくれたが、こちらに振り向く様子はない。
「あの、…………えっと……」
何を話すのかを考える前に話し出してしまったことに、後悔が押し寄せる。
ライラは変わらず背中を向けたままだが、そのまま足を止めて俺の言葉を待ってくれている。
「……俺は、ライラさんのこと、今でも頼りにしてます。今までも、これからも……頼っていいですか?」
何を突然、と思われただろうか。ライラはすぐに返事をくれなかった。
俺が秘密にしていることは数多くある。今日もまた、そんな秘密が増えてしまった。ライラが不審に思うのも当然である。
それでも、俺が今までライラに助けてもらったことも事実で、彼女がとても頼りになる存在であること、俺がそう思っていることもまた俺にある真実だ。
それだけでも、改めて伝えたかった。伝わってほしかった。
「……マルコさんのそういうとこは、変わらないんですね……」
顔は見せずに、やや首の位置を変えた程度の動きで、ライラはぼそっと呟いた。
何と言ったかは聞き取れなかったが、きっと俺に伝えるつもりじゃない言葉だと思う。
ライラはゆっくりとこちらを振り返り、しとやかに頭を下げた。
「……先日は失礼いたしました」
最敬礼の角度まで、深く頭を下げているライラ。彼女が謝ることではないと思うが、謝罪を受けて一安心している自分もいる。
そして、顔を上げたライラの表情は、いつも俺が見てきた、聖職者たる慈悲深く、清らかな微笑みであった。
「……今は、その言葉だけで充分です。ありがとうございます」
今度はお礼を言われたかと思うと、ライラはすぐに踵を返して自室へと戻った。
これで一件落着、とは思っていない。
ただ、ライラの笑顔を久しぶりに見たような気がして、晴れやかな気持ちになったのは否定できない。




