そんな世界に転生したら俺は神様にだって……58
少しすると、マキラを映し出していた映像が、徐々に乱れ始めた。
「……伝えることは伝えた。後はお主らの好きに動いてくれ。……二人の逢瀬、楽しみにしているぞ?」
そう言い残すと、完全に砂嵐と化した映像は消え、その瞬間にひとつ目の魔物は、その場で塵となった。
「……今日ほど、この城の防音機能について恨んだことはない。良い建築も善し悪しだね……」
少し間を置いて、レオンが苦笑する。
「魔王神との会話は、廊下では聞き取れなかった。マルコたちが何を話していたのかは分からないし、あの様子ではうっかり耳に入ったなんて、通用しやいかもね」
レオンは肩をすくめて、両手のひらを上に向けた。いつものレオンらしい仕草ではあるが、その後に吐いた息の長さが、彼の疲弊を表している。
細く長いため息を吐き切ると、レオンは申し訳なさそうに俺を見た。
「本当にすまない。今回もまた、マルコ頼りになってしまいそうだ」
謝ってくれているが、本当に辛い立場なのはレオンだろう。ここまできて蚊帳の外だなんて、きっと歯痒い思いだろう。
「……大丈夫ですよ、レオン様」
俺が言葉を出せずに立ち尽くす中、一転して明るい声が上がる。
「……私は、何も心配しておりませんよ? だって……」
ベッドに座ったまま、ユウナは俺を見つめた。
「……マルコ様が、助けてくれますから」
そう言うと、ユウナは首を傾げるように「ねっ?」と同意を求めてきた。その目には一切の怯えはなく、まるで世間話の最中に行われるような、何気ない仕草でしかなかった。
こんな俺が彼女を助けるだなんて、どこまで本気だったのだろうか。はたまた、彼女なりの冗談だったのかもしれない。
更に言えば、何故この状況で、そんな涼しい笑顔が出来るのか。自身の身に迫る呪いに対して、突如目の前に現れた魔王神に対して。
それを俺が知る術はないし、彼女の胸の内は彼女自身しか知り得ない。
それでも皆んな、そんな彼女を助けたいのだ。
「……うん、助けるよ。俺が、君を絶対に助ける」
俺は、ユウナにそう告げた。レオンに頼れない今、俺が彼女を助けるしかないのだ。
格好つけてると思われてもいい。ユウナが少しでも安心できるよう、その笑顔を曇らせないよう、自分にも言い聞かせるよう、俺は断言した。
「……ユウナ姫は、魔王神と相対しても尚、その前向きさは変わりませんね。……もしかして、マルコのおかげですか?」
「ふふっ、どうでしょう……?」
二人の会話に、俺は堪らず愛想笑いを浮かべてしまった。彼女の明るさは彼女によるもので、俺がどうこうではない気がする。
「マルコ、君の意志が聞けて良かった。勿論、俺に出来ることがあれば全力でサポートする。……このまま見てるだけじゃあ、落ち着かないからね」
俺の背中を叩くレオンの表情も、だいぶ柔らかくなったように見える。
「……ところで、先ほど『逢瀬』という単語が聞こえたような気がするけれど……?」
「……いや? 何のことだろう?」
反射的にすっとぼけてみたが、レオンは口元が緩んでいる。
「分かっているのかいマルコ? 大国ヴァーレの姫君に気を持たせておいて、その言い振りが許されると思っているのかい?」
珍しくレオンに怒られてしまった。それを言われると、ぐうの音も出ない。レオンさん、調子を戻し過ぎです。
「ユウナ姫、今からでも遅くありません。私がエスコートいたしましょうか?」
ベッドの隣に膝をつくレオンに対し、ユウナは考え込む素振りをする。
「そうですねぇ……あっ、ごめんなさい、これは誰にも話してはいけないんでした。私とマルコ様の、二人だけの秘密、でしたよね?」
変わらないトーンでいつまでも楽しそうに話すユウナを見て、俺も気付かない内に笑みが溢れていた。




