そんな世界に転生したら俺は神様にだって……54
ひとつ目の魔物は、小さな羽をばたつかせながら、ユウナの付近をふよふよと浮かんでいる。
「これが……魔物さん、ですか? 初めてお会いしました……」
自室で初めて見た魔物に呟くも、それでも尚、怯える様子のないユウナ。この子、俺よりも全然肝が据わっているな。
「ユウナ姫、お気をつけください。このような大きさでも、魔物は魔物です」
魔物がユウナの目の前を飛ぶのには、流石のレオンもヒヤヒヤしているようだ。
すると、ひとつ目の魔物は近くの壁に向かって映像を映し出した。初めは砂嵐というか、黒いモヤがかかったように画が乱れていたが、徐々にピントが合うように鮮明になる。
「────よしよし、ちゃんと整えてくれたみたいだな」
映し出されたのは、見覚えのある玉座に腰をかける魔王神マキラだ。マキラの周りは、以前の魔王城を彷彿とさせる薄暗さである。一度は倒壊したものの、立て直したのだろうか。
「ご無沙汰しております、魔王神マキラ」
率先してレオンが口を開く。
「……んっ? おお、お主もいたのか。……そうかそうか」
マキラは意外だったというように相槌を打つ。
先日はユウナに会わせろと言われただけで、他に同席する人間については言及されていない。
「ユウナ姫にお会いできるよう、私の方で手配させていただきました。……このまま同席してもよろしいでしょうか?」
胸に手を当てて、丁寧に頭を下げるレオン。しかし、マキラは即座に「いや……」と、断りを入れた。
「お主をここに置く訳にはいかん。我と姫、そしてマルコの三人で話をさせてもらおうか」
特に表情を大きく変える様子もなく、マキラはレオンを指差した。
まさか、レオンを早々に退出させられるとは思わなかった。レオンの察しの良さは、マキラにも都合が良いと思っていたが。
「……私がいれば、ヴァーレ国王軍の人間も動かすことができます。マルコは勿論必要かと思いますが、私も貴方のお力になれるかと────」
「なんじゃ、ここで口答えするのが悪手だと分からんお主ではあるまい。……いや、相当に焦っている、ということかのぅ……」
マキラのその言葉に、レオンは図星を突かれたかのように口を閉じた。
「それでも、我々は対等ではない。且つ、我々を繋げるのは、お互いに利用できる存在であること、それだけであろう?」
マキラに窘められたレオンは少しの間、目を閉じて軽く呼吸をした。
「……仰る通りです。大変、失礼いたしました」
「良い良い、お主も案外、普通の人間じゃのう。かっかっか!」
マキラは上機嫌に笑い声を上げる。一瞬、空気がひりついたように感じたが、思わぬところで表れたレオンの人間らしさが好感触だったらしい。魔王神にも、意外と人間らしいという感想を持たれるレオンは一体何なのか……。
「……そういうことだ。マルコ、僕は席を外すから。…………頼んだよ」
そう言って、レオンは俺の肩に手を置いた。口調はいつもとそう変わらないが、その目はどこか悔しさが滲んでいたように見えた。
しかし、レオンはそれ以上何も言わずに、静かに部屋を出て行ってしまった。




