そんな世界に転生したら俺は神様にだって……53
その日の夜、俺は城内でレオンに呼び止められた。
「……探したよマルコ、すまないが、急ぎでついて来てほしい」
俺の肩を叩いて急かすように誘導する様は、どうもいつものレオンらしくない。
「……たった今、ユウナ姫が目を覚ました」
その言葉に乗せられた緊張感が伝わる。更に小声で、レオンは俺に耳打ちした。
先日ユウナと会ったのは二日前の演奏披露の時だ。その辺りから今まで眠りについていたのだろうか。
「今夜、魔王神と会わせる。頼まれてくれるかい?」
そう言いながら俺の返事も待たずに、レオンは近くの階段を駆け足で上っていくので、俺も置いてかれないように急いで追いかける。
「ちょっと……ホントに国王様に黙って会わせるの?」
「ああ、彼女にどれだけの時間が残されているのかも分からないからね、ここは僕の独断で動かせてもらう」
幾度も階を上がったところで、レオンは通路を奥へと進んで行く。返事にも足取りにも、一切の迷いがない。
「それに、国王様にこれ以上の心労をかけたくないんだ……」
そんなレオンにかける言葉を考えていたところで、奥に見える部屋の前にメイが待機していた。
「……っ! レオン様! たった今、医師は部屋を出ました。人払い、完了しております」
「ありがとう、助かったよ」
短く感謝を述べると、レオンはそのまま入り口のドアをノックした。
「失礼します、レオンです。今、よろしいでしょうか?」
それに対して、部屋の中から小さく返事が聞こえるや否や、レオンは静かに、そして素早くドアを開けて入室し、俺もそれに続いた。
まさにお姫様といった、天蓋カーテンがついた巨大ベッドの上に座るユウナ。華美ではないものの、高級感漂うシルクの部屋着を身に纏い、一瞬だけ見惚れてしまった。
「あら、レオン様と……マルコ様ではないですか。どうかなさいましたか?」
ユウナは、突然押しかけてきた男二人に動揺する様子もなく、いつもの柔らかく笑顔を浮かべている。こんな形で乗り込まれてきたのに恐怖や不快感を露わにしないのは、育ちの良さか、一応信用されているということか。
「夜分遅くに失礼します。ユウナ姫、急なお話で大変恐縮ですが、今からお会いしていただきたい方がございます」
「……? ええ、このような格好で構わないなら、大丈夫ですよ」
そして、捲し立てるような依頼も難なく承諾してくれている。これは育ちの良さとか、寛大さとか、そういった次元の話ではないかもしれない。年頃の女の子が何の説明も無しにこれを許すの、あまりにおおらか過ぎるだろ。
「それじゃあマルコ、ここでも大丈夫かい?」
「えーっと…………あっ」
『────姫君に会わせてもらえるならば、何らかのサインを出すことだな』
マキラからそんなことを言われていたが、サインってなんだ? なんか……ある? 知らないんだけど?
ひっそりとテンパっていると、部屋のドアがノックされた。部屋の前にいるのはメイだ、何かの合図だろうか。
しばらく様子を見ていると、何かがドアをすり抜けて部屋に侵入してきた。
「あら……見慣れないお客様ですね。こちらの方でしょうか?」
最早冗談にも聞こえるユウナの問いに、俺はもう苦笑いが出てしまった。
部屋に入ってきた何か……マキラとの通信に使われているひとつ目の魔物は、そのままゆっくりとユウナに近付いていった。




