そんな世界に転生したら俺は神様にだって……50
自分が一体、何者なのか。
そんなの、俺が聞きたいよ、と思ったのが素直な感想だ。
しかし、彼女が聞きたいことはそういう事ではない。彼女の知りたがっている俺の秘密は、教えることだって出来るのだ。
じゃあ、伝えるか? ライラに、本当のことを。
俺には、こことは違う世界の記憶があって。ティマリール神は、その世界にいた俺の大好きな存在にそっくりで。マキラにはそれを持ってして敵対視されていて。
そして、ヴァーレ国王にもその記憶があり、ライラもまた、その世界に存在していたかもしれないと。
あまりにも荒唐無稽な内容だが、今のライラなら信じてくれるかもしれない。いや、信じられなくても良いのだろう。今の俺に必要なのは、腹を見せて安心させることなのだ。
いっそのこと、全てを話せたらどれだけ楽になるだろうか。
話した方が事態が好転するということはないか? 例えば……今ですら、強い神信力を使える彼女が、国木原たまりを思い出すことで、神信力がより強力になったりしないだろうか。
それに、ライラの前世の記憶が、ユウナを助けるヒントになるかもしれない。国木田鞠の父がライラを知っていたのだ、俺よりも近い存在である可能性が高い。
しかし、それらを話すことによるリスクはどうだろうか。俺が知らないだけで、誰かの、何かに、大きな影響を及ぼすことが無いと、言い切れるだろうか。
「……どういう質問か分かりません。僕は……ただの村人ですよ」
俺は、打ち明けることができなかった。
これが何かの契機になってしまうかもしれない。そんな漠然とした不安と責任から逃れようと、誤魔化すような返事をしてしまった。
視線を外しながら返事をした俺を、ライラはどんな目で見ているのだろうか。俺には、それを確認する勇気もなく、戻せない視線の行き場に迷ってしまう。
「そう……ですか……」
期待していた回答ではなかったと、ライラは力なく漏らした。
「……マルコさんが神信力を使うようになってから、色んな事がありましたよね。覚えていますか?」
それでもライラは、ぽつぽつと話をし始めてくれた。
「ロッカ村の教会でも、ダリルさんからみんなを守ってくれて、魔王城でも私を庇いながら魔王神と戦ってくれました」
彼女の声色は、少し明るくなってくれたようにも聞こえる。
「それに……マルコさんだけは、教会に毎日通ってくれましたし、……私も結構、楽しかったんですよ?」
そんな彼女の振る舞いが、無理をしているようにも見えて、俺は居た堪れない気持ちになってきた。
「だから私は、マルコさんのことを……親しい友達であり、一緒に戦ってきた戦友だと……本当にそう思ってるんですよ……?」
「ライラさん! あのっ……!!」
何か言葉にしないと、そう思った矢先に、ライラは勢いよく立ち上がった。
「ホント……何言ってるんですかね、私……! こんな事言うつもり、無かったんですけど……ごめんなさい、今日はもう部屋に戻りますね……!」
そう言ってライラは振り返って扉を開けると、俺の声掛けに応じることなく、そのまま自室へと走って行ってしまった。
彼女の姿はすぐに見えなくなってしまい、後悔が襲ってきたのも遅くはなかった。
ライラさん、俺もなんだ。
俺も、この世界に来て、ティマリール神を見た事で記憶が鮮明になって、そこで初めて話したのがライラさんだった。
彼女が、この世界で最も親しい友人だったのだ。
そんな彼女に、あんな顔をさせてまで、俺は何を守れているのだろうか。
今にも泣きそうな顔をしていたライラに、何をしてやれるのか。考えても考えても、答えになるものを俺は見つけることができなかった。




