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推しが神様の世界に転生したのならば俺は……  作者: 大坂オレンジ
そんな世界に転生したら俺は誰にだって……
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そんな世界に転生したら俺は誰にだって……⑧

「アガ……っ! …………ウグァっ!!」

 白魔法────、豪虎真拳────

 突っ込んできたダリルを受け止めた瞬間、さっきの勢いで倒しきれる相手ではないことを理解した。なんとか受け止め切れたが、そのまま反撃するほどの余裕がない。

 掴んだ腕を振り払い、再び腹部にアッパーを入れたが、ダリルは少しばかり仰け反っただけだ。

 力任せに暴れるかたちで両手を振り回すダリルに、そのまま押し込まれる。

「オレワオレワオレワ! ……ウガアアアアァっ!!」

「……くっ!」

 白魔法————、奉盾防護————

 ガードが間に合わず、もろにそれを食らうと、そのまま数メートル先の壁に叩きつけられた。

 衝撃は強く受けたものの、神信力のおかげか、体へのダメージはほとんどない。

 こちらの攻撃も全く効いていないわけではないが、さっきの様子では、あと何発撃てば沈んでくれるのか見当がつかない。


 ————それじゃ勝てないよ————


 今まで詠唱しかしていなかった声が、初めて会話に近い言葉を発した。しかし、当然の如く姿は見えない。

 直後、俺の視線は目の前のダリルから右に外れ、ティマリール神像の足元に向いた。何故そうしたのかは分からなかったが、さっきの言葉に反応させられたんだと思う。

 視線の先には、ティマリール神像に供えられた果物や穀物、そしてキラリと光ったのは…………ナイフか?

 気付いた時には体が動き、俺は飛びつくようにナイフの元へと向かっていた。

 ダリルもそれに反応すると、俺を阻害するように飛び掛かってきた。

 白魔法————、風塵理影————

 腕を掴まれそうになったがギリギリで回避し、蹴り上げる形でダリルをいなした。

 俺はナイフが落ちている付近に着地し、それを手に取る。ダリルは着地先の地面をそのまま蹴って再び俺に飛びついてきた。

「おっと……っ!」

 無事にナイフを拾って対峙したものの、それだけでは解決策を見出せず、ダリルの頭を飛び越えて距離を置く。

 拾ったナイフを確認するが、このナイフ自体には特筆すべき点は見当たらない。

 多分これ、果物とかに使うナイフだよね? あんまり武器っぽくは見えないんだけど。

 白魔法────、光波流刃────

 詠唱に反応するように、手に持ったナイフには光が纏い、刃先に紋様が刻まれた。

 その瞬間、勝機を確信した。それは、まるで自身の体と同化したかのような、ナイフが内包する神信力のおかげだろう。

 こちらを振り向いたダリルは、血走ったような赤い目で俺を探す。二足歩行が出来ているのかすら危ういその姿は、俺としても見てられない様相だ。

「加減するつもりはねぇ……、殺すつもりもないけどな」

 ナイフをしっかりと握り態勢を低く構える。ナイフでの戦闘経験なんてないし、構え方だって知らない。

 そもそも、この世界に来てから喧嘩なんて一度もしていないし、俺は誰かと喧嘩するような性格ではないのだ。過去の記憶は曖昧だが、元の人生でもそうやって細々と暮らしていただろうさ。

 少なくとも、俺にはたまりるがいたし、喧嘩に明け暮れるような生き方はしてなかったとは思うけどね。こんなに可愛い推しがいるのに、喧嘩する奴おる?

 標的を見つけたダリルは、再び攻撃態勢に入った。こんな化け物を前にして、未だに恐怖を感じない自分に驚く、なんなら若干引いてる。

 しかし、コイツを倒すという自信も、間違いなく俺にはあった。

「ウガっ……、……ガアアアアァっ!」

 常人離れした跳躍で俺に襲い掛かるダリルに、薄く光る糸のような線が一瞬見えた。

 まるでその線をなぞれ、と言われているようで、実際に俺の体もそう反応した。

 何も意識せずとも足は地面を蹴って、突き出された右手をギリギリで避けるように、体を捻ってナイフを滑らせる。

 右手に持ったナイフは、ダリルの腕から肩、胴体へと深く入り込んだ。まるで刀身が無くなったかのように、奴の体をすり抜けながら切り払う。

 着地するとナイフには血の一滴もついておらず、ダリルにもはっきりとした傷跡は残っていなかったが、その直後にダリルは、力が抜けたかのように膝をついた。

「おぉ……、うおおおぉ…………!」

 ダリルから淀んだ黒い煙が勢いよく吹き出る。先の二人よりも長い間溢れ出る間に、ダリルの肌色は徐々に元のそれへと戻っていく。

 黒い煙が出尽くしたあたりで、元通りの姿に戻ったダリルは、音を立ててその場に倒れた。目立った外傷がないのは、神信力によるものだろうか。

 その場が落ち着いたところで、オスマンがダリルの近くに寄った。

「……どうやら命に別状はなさそうじゃの。さっきのは、黒魔法の核となる部分にのみ触れたのかもしれんな」

 様子を見ていたオスマンなりの考察に、俺は納得するしかなかった。

「それなら良かったです。ティマリール神もそこまでは望まないと思うので」

 俺の方も、先ほどまでの力なり、重い感情なりもどこかに消えていた。気付けば手に持っていたナイフからは纏っていた光も、刻まれていた紋様も跡形もなく無くなっていた。

「マルコさんっ!」

 子供たちを避難させていたライラが、俺たちの元に駆け寄ってきた。

「お怪我はありませんか!? 村長とダリルさんたちは!?」

「心配をかけたなライラ、ワシもこ奴らもみんな無事じゃ。全部この少年のお陰じゃのぉ」

 状況を理解すると、緊張が解けた彼女は腰が抜けたようにへたり込んだ。

「よ……良かったぁ~! 本当に……どうなることかと……うぅ……っ」

 余程安心したのか、ボロボロと涙を零し始めた彼女を、オスマンが宥めた。

「よしよし、ライラもよく頑張ってくれた……。流石にワシも、マズイと思ったわ」

 すると、オスマンはゆっくりと俺に近づいてきて、そして深々と頭を下げた。

「マルコ少年、本当にありがとう。君はこの村を守った英雄じゃ」

「いや、なにも全然そんな……俺も何が何だか分からなくて、本当にそんなんじゃないんで……だから顔を上げてください!」

 俺としては、たまりるファン的に完全アウトのアンチがいて、ムカついたからぶっ飛ばしただけだ。それをここまで感謝されるのは、逆に居心地が悪い。

 それに、自分よりもずっと年上の人に、こんな深々頭を下げられたこともないので、余計にきまりが悪い。

 ただ、たまりるの石像が無事に守れたのは本当に良かった。横を見上げると、いつも通りのティマリール神像が傷付くことなくそこにある。さっきは本当にそれだけだったんだ。

「ティマリール神のご加護あらんことを……、ね」

 俺を詠唱で助けてくれたのは、もしかしたらティマリール神だったのかもしれない。勿論確証はない、なんとなくそうだと良いなという程度のお話だ。

「……………………ってぇてぇ〜なぁ〜!!」

 誰にいう訳でもなく口から洩れるオタクの鳴き声。オタクというのは、誰が聞くわけでもないのに語るし、ボギャブラリーの乏しい生き物なのだ。

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