そんな世界に転生したら俺は神様にだって……45
次の瞬間、メイはその場から駆け出し、近くの窓を開け放って飛び出した。
「えっ!? うっそ、ここ何階…………っ!?」
思考もまとまらないまま、俺の足もメイに続いてしまった。
窓枠を飛び越えると、ここが三階以上の高さであったことを思い出す。鳥肌が立ったのは、突如肌をなぞった夜風のせい、だけではないだろう、絶対に。
「白魔法────念動浮遊!」
メイの詠唱で、彼女の体は地面着地すれすれで空に止まった。そして直後には地を蹴って、敷地内を走り出していた。
未だに落下中の俺は肝が冷え切った後、生存するための手段を脳が必死に探し出していた。
俺も神信力を使うくらいしか思い付かない。しかし、マキラとの戦闘以降は全く使っていなかったし、使えていなかった。そんな俺に、神信力が唱えられるのか。
そして同時に、別の思考が回っている。
マキラは何かを企んでいた。最後にレオンたちと問い詰めていた時、アイツは笑っていたのだ。口角をこれでもかと吊り上げ、まるで新しい玩具を見つけたかのように、濾し切った邪悪を孕んだあの笑顔。
マキラが何を企てているのかは分からないが、それがユウナを助ける方法になるかも知れない。少なくとも、新しい情報源なのだ。
白魔法は、誰かを守るための力だから────。
「白魔法────風塵理影!」
自分でも気付かない内に詠唱をしていた。近くの壁を蹴り付け、地面を跳ね上がる体は受け身が取れているのか謎であるが、不思議なことに無事である。
メイを探すと、普段の彼女からは想像出来ないスピードで、壁沿いに走っていく。
神信力の詠唱ありきの俺は、置いていかれないようにすぐさま追いかけた。
あの人、着地時の詠唱しかしてないよな? なんだあの動き、忍者かよ。
見失わないよう、なんとか距離を縮めるようにメイを追う。いくつかの角を曲がりながら、俺たち二人は暗がりへと向かっていた。
そして、俺がメイに追いついた時、彼女の足は既に止まっていた。城の周りを流れる水路、それによって生まれているくぼみに向けて、メイは手をかざしていた。
「────メイさんっ! 待ってください!!」
感知で捉えたそれを、今まさに祓うような素振りのメイに、俺は叫んだ。
メイは、そのくぼみの闇を一心に見つめていた。肩で息をしているようにも見えたが、息が切れているというより、自身の高揚を押さえつけているようでもあった。
「…………大丈夫ですよ、マルコさん。私は、至って冷静です……」
とてもそうには見えないが、そんなメイを刺激しないように、俺も静かに近付く。
「……これはきっと、魔王神マキラによる魔物の発現……。そしてそれは……ユウナ様の呪いを解く鍵になるかもしれない……ですよね?」
彼女の口からは、確かに冷静さを感じる台詞が出てきている。
俺は頷きながらメイ側に近寄るが、彼女の視線は以前として、暗闇に向いたままだ。
「……すみません、自分自身の不甲斐なさに呆れ果ててしまっているのと、この魔物を思わせる気配に、どうも殺気立ってしまっているようです……」
自らを落ち着かせようと、深く呼吸をしたメイ。
そして、少し間を置いて暗闇から姿を現したのは、一匹の小さな蝙蝠のような生き物だった。
その蝙蝠からは、本当に僅かながら魔力を感じ、その小さな体めいっぱいに開いている一つ目は、あまりにも自然の生物らしくない。
なによりその姿は、魔王城でマキラが使役していた映像を写し出す魔物そのものであった。




