そんな世界に転生したら俺は神様にだって……44
日も落ちてきた頃に、俺は書庫を後にした。
「私はもう少しだけ調べ物をしますので、食事はお先にどうぞ」
ということで、一足先に俺だけ食事へ向かうこととした。
どうも先ほどから、ライラに何かをはぐらかされている気がしてならない。が、気にし過ぎているだけと言われればそれまで。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、前からメイが歩いてきた。
「マルコ様、本日もお疲れ様です。……書庫に向かわれていたんですよね? ライラさんとは別ですか?」
「お疲れ様です! そーなんです、ライラさんはもう少し調べたいことがあるみたいで……」
それを聞いたメイは、「そうですか……」と呟いて、踵を返した。
「食事の時間が近づいてきたので、お迎えに上がろうかと思いまして。それでしたら、書庫には一人配置して、我々は先に向かいましょうか」
メイが近くを歩いていた給仕に声を掛けると、その給仕は急いでどこかに走り去り、メイは来た道を戻るように進んだ。俺もそれに並ぶように、少しだけ駆け寄る。
「書庫の方は如何でした? 参考になれば良いのですが……」
「これがなかなか……、文字が読めないのもあるんですが、内容もまた難しくて……」
ライラを通して入ってくるのは、ティマリール教徒かくあるべき、といった指南書のような内容も多く、まるでお説教されているかのような気分である。
「ライラさんは、オスマン村長の師事のもと、ティマリール教の教えを学んでいるようですね。同じティマリール教徒でも、様々な文化や信仰がありますから、無理強いをしてこないと思いますよ?」
メイは特に苦笑いという訳でもないので、ティマリール教徒同士でも、そこまでセンシティブな内容ではないのかもしれない。
「それでもキツかったですねぇー、自分はあまりそう言った節制とか、普段は意識してなかったんで」
「あら、でしたらこれからは少し意識してみてはいかがです? ティマリール神は、いつも人々を見守って下さっているんですから」
うへぇ、面倒くさい……とも思ったが、自身に制限を課して、たまりるへの愛を増幅させるのも悪くはない。制約と誓約が自身の強化に繋がる、僕はあると思います。
そういえば、さっき車庫で読んだ本にも、そんな文面があったな。神様や魔王神には、常にその行いが見られている、とのことであった。
「ティマリール神だけじゃなくって魔王神も、人の行いには目を見張っている、みたいな本がありましたけど、実際はどうなんですかね?」
「実際どう……とは?」
メイには、あまりピンと来ない質問だったようだ。
「例えば、今も魔王神マキラが僕らのことを見張ってるとか? そんな黒魔法があるみたいなんですよね」
マキラは、ロッカ村での俺たちであったり、ヴァーレ国内の事情も詳しく知っていた。
実は今のこの状況も、もしかしたら筒抜けだったりするんじゃないか?
「それは……考えたことありませんでしたね。ユウナ様がおられるこの城内に……いや、この国には、魔物が現れたことなどありませんでしたから……」
目を丸くしたメイは、胸に手を当てて目を閉じた。彼女の集中力が増していくのが分かる。
「城内では神信力が使いづらいのですが……白魔法────流明視念」
神信力を唱える彼女から、僅かながらに緊迫感を覚える。ロッカ村で初めて会った際、俺の神信力を感知した白魔法である。
「……以前より、感知し易い気もしますが……いや、マルコさんが横にいると、それはそれで混乱すると言いますか……」
集中しつつも、ぶつぶつと独り言が漏れている。マキラとの戦闘後に、瓦礫の中から登場して怒られたことを思い出す。いや、あれは俺の神信力が感知しづらいだけでなく、マキラが近くにいたことが原因だったっけ。
「感知が上手く機能しませんね。範囲を絞って重点的に────えっ?」
突然メイの口から、抜けるようにこぼれ出た一言。
「嘘っ……どうして……、あります、気配、魔王神の」
単語をぶつ切りで並べたような、らしくない言い回しに、俺とメイは不意に目を合わせてしまった。




