誰かの手記④
千五百八十三日目────
父がいた。この世界に。間違いない、まさに確信である。
父を見つけたのは、この世界にいくつかある、大きな国の城であった。
見つけた時は、泣きそうになった。喉が締め付けられるような感覚もあったし、目頭が熱くなったのも分かった。自分の身体が視認できない、認識できない私が何を言っているのか。
その時の父は、なかなかに偉そうな格好をしていた。まさか、王様にでもなってしまったのだろうか。
父は、人の上に立ったり、他人と積極的にコミュニケーションを取るような人間ではなかった。家にいる時は、常に黙々と何かをしている人で、国の王様なんて、とてもじゃないが似合わない。
それと同時期、多少前後した辺りで母を見つけることも出来た。この世界においても、二人が夫婦となっていることに驚愕と安堵である。二人は、お互いのことに気づいているのだろうか。私が気付いたのだ、長い付き合いである二人がそれに気付かないはずがない。
それで言えば、いつからかこの世界の各地で、どうも私を模したかのような像を目撃することが増えた。
これまで私が地上に降りた回数は、既に二百を超えているし、短い時間ながらそれを見られることも幾度となくあった。
彼ら、彼女らには、あのように私が見えているのだろうか。それにしても、模された姿がバラバラである。まるで、私の歴史の一部に触れたかのような、様々な記録上の私を模しているようだ。
私はもしかしたら、私の情報が集まって出来た思念体のような存在なのかもしれない。思念体なんて言葉、SF小説でしか聞いたことがない。
そう言った像が各所にあるのを、二人は見つけているだろうか。それを見れば、私の存在にも気付いてくれるはずだ。
また、二人をよく観察をしていると、どうやら母は身ごもっているようだ。
もし叶うのであれば、もう一度二人の子供になりたい。あの二人と、もう一度話したい。そう願わずにはいられなかった。
千七百六十四日目────
遂に二人の子供は無事に出産を終えて、この世界に生を受けた。
それが私ではないことが少し悔しくもあったが、二人の笑顔と涙を見ていたら、私も嬉しくなってしまった。
父と母を見つけてから、頻繁に二人の様子を見ているが、いつからか、この世界の時間経過に変化があった気がする。
この世界の時間経過に対して、私の体感時間が長くなっているような気がするのだ。私の時間が間延びしたのか、私の体感時間がこの世界と合ってきたのか。
一日が長くなったように感じるのは、私がこの世界の一部分を意識し過ぎるようになったことが原因なのだろうか。
しかし、それは決して苦ではない。今までの私は、どこかこの世界を傍観していた節がある。
今は違う、確かに私はこの世界を凝視している。この世界を、観測している。
そして何より、父と母の幸せを願っている。
その二人の子供がどのような成長をするのか。この世界に介入できない私に出来ることと言えば、その子がせめて不自由なく生きていけるよう、心から願うことくらいであった。




