花屋の娘は騎士と結ばれるのか?
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「なぁ、アイシャ」
「ん?どうしたの?」
夕焼けが差し込む教室で卒業試験の勉強中の一組の男女。
「卒業したら実家の花屋を継ぐのか?」
「そうよ。お花が大好きだしね」
「昔からそうだったな」
「グレイスは?」
「俺は、騎士団に入団しようかと思ってる」
「……騎士団に?」
「そうだ、俺も昔からの夢だからな」
「いいんじゃない?グレイスのお父さんもお兄ちゃんも騎士だし、グレイスなら強くて優しい騎士になれるね」
3年後
「アイシャ、俺な王女の護衛騎士に選ばれたんだ」
「グレイスは、頑張っていたからね。良かったね」
「あぁ、これで王女の近くにいれる」
2年後
「アイシャ、花束を作ってくれる?」
「いいわよ。プレゼント?」
「まあ、そうだな」
「用意するから待ってて」
嬉しそうに花束を見ているグレイスに話しかけるアイシャ。
「随分と嬉しそうね」
「ダイアナ王女の誕生日なんだ」
「そう素敵な花束にするわね」
「俺さ、ダイアナ王女に自分の気持ちを伝えるよ」
「頑張ってね。うまくいくといいね」
「あぁ、たぶん大丈夫だ。最近は2人で話す事も増えたし」
「そうなのね。良かったわね」
「アイシャ、すまないな」
「何が?」
「俺とずっと一緒にいたのにさ。アイシャは俺の事をさ……。いや、何でもない」
(すまないな、アイシャは俺の事好きだったのにな、俺が入団式で王女に一目惚れしてしまったから。王女に出会う前は俺もアイシャが好きだったな)
「ん?いいのよ」
その日の夕方。
「…………アイシャ。聞いてくれ。俺さ、ダイアナ王女に告白した」
「それでどうなったの?」
「ダイアナ王女は……隣国の王子と結婚する事が決まっていると言われた。彼女は昔から王子の事が好きだったみたい」
「それって」
「俺の事は護衛騎士としか見ていなかったみたいだよ」
(俺に甘えたりしてさ、2人で出掛けたのにな。それに王女は俺に側にいて欲しいと言っていたのにな)
「残念ね」
「俺と付き合ってみないか?」
「遅いわね」
「は?」
「遅いのよ。私はね、ずっとグレイスが好きだったわ」
「ならさ」
以前のアイシャなら喜んでいたのかもしれない。ずっとグレイスの事が好きだったから。
「遅いのよ。もう好きじゃないのよ」
「アイシャ?」
「グレイスは王女に恋をした。そしてダメだったから私なの?」
「そんなつもりはない」
「私はグレイスがダイアナ王女の護衛騎士になったと決まった時、貴方は彼女の側にいれると喜んでいた。そんなグレイスの表情を見て諦める事にしたのよ。だから、ごめんなさい」
「アイシャ……あのさ」
その時、1人の男が声をかける。
「アイシャ、話しがある。ん?グレイス。浮かない顔してるな。まあ、ダイアナ王女の婚姻が整いそうと報告があったしな」
「兄貴はどうしてアイシャの店に?」
「あぁ、アイシャに報告だよ」
「どうしたの?カイル」
「アイシャ、次の団長に俺が任命される事に決まりそうだ。それでだな。俺と結婚してほしい」
「カイルが団長に?」
「あぁ、頑張ったんだ。アイシャと結婚する為にね」
手を取り合い喜ぶ2人にグレイスは言う。
「アイシャ? 兄貴? 2人は付き合ってたの?」
「お前が王女に夢中になってる間に俺はアイシャと付き合う事になったんだよ」
「アイシャ?」
「えぇ、ずっとグレイスが好きだったわ。私もグレイスに告白しようとしたのよ。でも、騎士団に入ってからはグレイスの口から出てくるのはダイアナ王女の事ばかりよ。悲しかったわ、でもカイルが側にいてくれたのよ」
「俺は昔からアイシャが好きだったが、昔からアイシャとグレイスはいつも一緒にいて、いずれ結婚するのだろうと思って諦めていたんだよ。入団してからグレイスがダイアナ王女に夢中になってしまったとアイシャに教えられてな、俺の事を見てもらえるよう頑張った」
「今の私はカイルの事を愛しているのよ」
「グレイス、王女は隣国に嫁ぐが側室としてだ。数名の騎士を連れて行くそうだ。お前の名もあがってるぞ。意味はわかるか」
「それって……さ」
「あぁ、王女のお気に入りではあるみたいだぞ。良かったな。恋焦がれた女性の側にいれるのだから」
「しかし……それだと」
「王女の幸せそうな姿も辛そうな姿も側で見る事になる。嫌なら国に残れ」
そして半年後、王女は輿入れの為、隣国へと向かったのだった。その一行の中にはグレイスもおり、その顔はとても幸せそうに王女を見つめていたのだった。
「グレイス、幸せそうね」
「寂しいかい?」
「う〜ん。意外と寂しくないわね。それに好きなら覚悟を決めて共に行けと言ったのは私だからね。あんなに愛されているダイアナ王女が羨ましいわ」
「でも今の王女が愛しているのは夫となる王子だけどね」
「それでも、未来はわからないわよ。王女がグレイスを愛する未来だってあるわ。グレイスなら一途に王女をいつまでも待ち、想っていてくれるわ」
王女の乗せた馬車が小さくなっていく。カイルはアイシャを後ろから抱きしめる。
「知ってた?君も皆に羨ましがられているんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、僕が一途に君の花屋に通っていたのを皆、知っていたらね。そして今は愛妻家で有名な団長だよ」
「ふふっ、嬉しいわ。カイル大好きよ」
「もうすぐ家族が増えて賑やかになるね。君もこの子も僕が守るからね」
カイルはアイシャの大きなお腹に手を添え、ダイアナ王女を乗せた馬車が見えなくなるまで見送る2人であった。
5年後、アイシャは2人の子の母親となり忙しくも幸せの日々を送っていた。
そんなある日、騎士団長であり夫のカイルから知らされたのは、隣国へ嫁いだダイアナ王女が離縁する予定であると。
ダイアナは側室として嫁ぐも子宝には恵まれなかった。しかし懸命に夫と正妻を助け仲睦まじく暮らすも正妻を狙った間者から身を呈して守り、その時の怪我が元で足が不自由となった。
ダイアナは今の自分の身体では2人を支えてはいけないと考え自ら離縁を申し入れたのだった。
そして、離縁後については、夫と正妻の計らいもあり、1人の護衛騎士への元に嫁ぐ事が決まった。ダイアナは帰国はせずに隣国の民として生活していくのだと言う。ダイアナの再婚相手の護衛騎士はダイアナと共に輿入れの際に隣国へと行き、ダイアナを支え続け、怪我をした後も彼女に寄り添い励まし続けた騎士であった。
2人は王都には戻らずダイアナに与えられた爵位と小さな領地での結婚生活となる予定だ。
「カイル? その護衛騎士ってさ」
「そうだよ。グレイスだよ。国王からの報告と同時にグレイスからの手紙も受け取ったよ。隣国でダイアナ様と結婚するみたいだ」
「グレイスはダイアナ様を支え続けていたのね」
「あぁ、2人なら仲良く立派に領地を治めていくだろうね」
「色々あったけど皆んな幸せだね」
「あぁ、アイシャ。いつか家族でグレイスの所に遊びに行こう」
「そうね。楽しみね」
アイシャはグレイスからの手紙を読む。
グレイスからの手紙には、
『彼女を諦めずに想い続けて良かったよ。あの時のアイシャの後押しがあったから、今の幸せがある。アイシャ、ありがとう。いつか家族で遊びにおいで、僕の愛しい奥さんを紹介するよ』
――――――
翌年、家族で隣国へと遊びに行き、出迎えてくれたのは、お腹の大きなダイアナ様と彼女を支える幸せそうな顔のグレイスであった。
「兄さん、アイシャ、久しぶり。俺ね、もうすぐ双子の父親になるんだ」
ーーおしまいーー