姉妹丼
薄灯りの中、柔らかな座布団に身を預け、シンヤは天井をぼんやりと見つめていた。
頬にはまだ熱が残り、胸の奥には静かに波紋のような心地よさが広がっていた。
「……これが、“ととのう”ってヤツなのか……?」
肩の力が抜ける。言葉の重みも、現実のざらつきも、すべてが溶けていくようだった。
「はい、どうぞ。口、開けて?」
緋音が、両手で包んだ湯呑をそっとシンヤの唇に寄せる。
口元へ注がれたのは、甘くとろけるような薬湯。喉を通った瞬間、体の芯がじんわりとまた温まり始める。
続けて、氷花が透き通った器を手にして差し出す。
氷を思わせる清冷な香り。ひと口すすると、先ほどの熱が一気に中和され、静けさが内側へとしみわたる。
「……交互に、両手に花だな」
思わずつぶやいたその言葉に、姉妹がくすりと笑った。
「ふふふ……まだですよ? 本番は……ここから、ですよ♡」
そう言うと、二人は両側からゆっくりとシンヤへと寄り添ってきた。
緋音の火照った肌が、右半身を包む。氷花のひんやりとした体温が、左半身を撫でる。
その境界で、シンヤの心と身体は揺れていた。温と冷、情と静。
互い違いに押し寄せる快感の波が、彼の意識を深く、深く沈めていく。
「お……やわらかい……っ」
「ほら、こっちにも……♡」
緋音が胸元を押し当てる。火照った柔肌が、まるで炎の抱擁のように密着してくる。
「じゃあ……今度は私」
氷花が背後から包み込むように、冷ややかな吐息を耳元へ送りながら、自身の胸元を静かに預けてきた。
……程よいところで、ふたりは入れ替わる。
左右の温度、質感、匂い、感触がまた変わる。脳がその差を記憶するよりも早く、次の波がやってくる。
温もりに包まれたかと思えば、すぐさま冷気が肌をなぞり、そしてまた反転する――。
「ふふ……シンヤ様、どうですか? 永遠に、続けたいと思いませんか?」
「私たち……ずっと、付き添いますよ。整いの底の、その先まで……」
「あぁ……なんだ、これ。頭がバカに……なる……っ」
耳元でささやかれる声に、理性が静かに溶け落ちていく。
身体はすでに境界をなくし、火と氷の波に身をゆだねるだけだった。
快楽とも、安らぎとも、官能ともつかぬ感覚が、終わることなく繰り返される。
まるで永遠に続く整いのループ。
「はぁああああ~~~~ん……♡」
――意識の最後の縁で、シンヤはただ、呟いた。
「……書くまでもない……が……記事にしなきゃな……これは……伝えなきゃ……だが、今は……この快楽に……」
その目はうるんだまま、どこか神聖な光すら帯びていた。