ととのい
【シンヤの個室】
畳敷きの個室には、低く灯る燈籠がひとつ、柔らかな空気と共に淡い熱を放っている。奥に敷かれた布団の上に腰を下ろしたシンヤを、緋音が優しく見下ろす。
「お身体の状態を、見させていただきますね……♡」
緋音は背後から、そっと両腕でシンヤを抱きしめた。その体温は、まさしく“焔”。しかし熱すぎることはなく、柔らかく、包み込むような温もりだ。
背中、首筋、肩に伝わる熱が、じわじわと体の奥へと染み込んでいく。
「思ったより熱くないな。……あぁ、気持ちいい」
「ふふ……この抱擁は、心まで温めますの。どんな不安も、焦りも……全部、燃やしてあげます」
「おっほ……なんか漲ってくるっ!」
シンヤはうつ伏せになると、今度は緋音が背中に乗るようにして腰を包み、温もりを体全体に伝えてくる。太ももが背中にぴたりと密着し、その熱が直に届いた。
そして、しばらくすると――
「では次は、私が癒しますね」
入れ替わるように、今度は氷花が布団の上に滑り込んでくる。彼女の肌は涼やかで、ひんやりとした感触が火照った肌に絶妙な刺激を与えた。
仰向けになったシンヤの両側から、氷花の冷たい手が頬を包む。
「……焦がれたあとには、静かに、穏やかに……心が落ち着いていくのです」
「……はぁ……ィイっ」
ひんやりとした手で髪を撫でられながら、胸元にそっと顔を寄せられる。その冷気は不思議と心地よく、まるで雪に包まれて眠るようだった。
再び緋音が戻ってくる。今度は背後から、温もりのこもった太ももでシンヤの腰を挟み込む。
「まだまだ、ここからですよ? 熱して、冷まして……じっくり、整えていきましょうね……♡」
【モグの個室】
「……こ、これは……楽園……!」
モグは既に炎のサラマンダー娘のふとももに挟まれ、両手を胸に当てながら天を仰いでいた。ふともも派の彼にとって、この“温もりに挟まれる”体験はまさに至福の極み。
「お客様、動かないでくださいね。温めて、溶かしてさしあげますから……」
その後、氷のサラマンダー娘に交代し、冷たいふとももで両側を包まれた時、
「あ、これ、ワシ、昇天するやつだ……っ!!」
と呟いていた。
【ティルの個室】
「ふむ……まるで自然界の“焚火”と“雪解け”のようだよ」
エルフらしい繊細な感性をもつティルは、炎の温もりに目を細め、氷の冷気に瞼を閉じた。彼にとってこの体験は、単なる快楽ではなく、“世界の循環”を感じさせる詩的なひとときだった。
「……いい……この温冷の交差が、精神のノイズを鎮めていく……」
その表情はいつの間にか、修行僧のような静けさを帯びていた。
こうして三人は、それぞれの“整い”の第一段階へと入っていく。
熱と冷気、密着と安らぎ。その交互のリズムが、じっくりと彼らの精神と身体を整えていくのだった――。